第16話 変異種

「何か不測の事態が起こったようだ、声がする方に向かうぞ!」


そう言うとユリーが走り出した。あーあー、厄介事の臭いしかしない。

仕方がないので、付いていく形で声がする方に同じく走り出す。


少し開けたところに出ると、豚人一体と戦っている人が見えた。

グループで動いてるはずだが、一人で戦っているのか。ただ、その豚人の肌は緑色ではなく黄緑色をしている上に体長がおそらく2mは優に超えている巨体で、腕は丸太のような太さだ。


「叫び声が聞こえたので助けに来た、何があった!?」


「ユリーさんか!この豚人がやたらつええんだ。肌が硬くて刃が通らねえ。

今回の討伐隊には攻撃できる加護持ちもいなくて手を焼いてる!!

俺以外がやられちまったがどいつも死んじゃいねえ、既に後方に退いている。

俺がこいつをなんとか食い止めてる状況だ、手助けしてくれ!」


「承知した!」


答えるやいなや、刀を抜いて豚人の首元に切りかかる。しかし刀が弾かれてしまった。ユリーの顔が歪む。


「グッ、なんだこいつは硬すぎる!」


「ユリーお嬢様、変異種です…。」


「(おおぅ、ボルソンが喋るの初めて見たわ。)」


ボルソンが上段から切りつける、それを豚人は片手の前腕部で受け止めはじき返す。

ボルソンの剣を押し返すとは、硬いだけでなく力も相当強いようだ。


「グギャギャ!」


豚人がやたらめったらに腕を振り回す、武術もへったくれもないがその力と硬さは脅威でしかない。

先にいた人が剣で受け止めたが、勢いを殺せずそのまま5m近く吹っ飛ばされて転がり、木にぶつかって動かなくなった。


「(これは結構ヤバそうだな、このままだと全滅もあるんじゃないか。)」


ユリーとボルソンが、豚人の攻撃をうまくいなしながら攻撃しているがあまり効いているようには見えない。

二人は刃が通りそうな目を狙っているようだが、それは腕で防がれてしまっている。

助太刀した所で、おそらく俺の槍も通らないだろう。


「トール君!こいつに効きそうな毒薬など持ってないか!?このままだと厳しい!!」


「手持ちから取り出すので、少し待ってください!」


正直いつものマテンニールの空間調合散布を使えば、俺だけならどうとでもなりそうだが、加護がユリーたちにバレるのは避けたい。


強い毒薬を頭に思い浮かべて材料が辺りに無いか探すと、神経毒が頭に思い浮かび、近くのカエルが光っているのが見えた。多分毒腺か何かを持っているカエルか、よしこれを使おう。


カエルを槍の先で刺して体液を出す、これで加護の発動条件はオーケーだろう。

こういう時のために陶器の瓶を買っておいた、ここに毒液を加護で生成する。

二人から死角の位置で、リュックから取り出してる風を装って毒液を調合した。


「ユリーさん!この液は毒ガエルから抽出した強力な毒薬です、これなら豚人に通るかもしれません!」


「分かった、ボルソン!少し足止めしてくれ!!」


ボルソンが豚人に両手で切りかかり、力でギリギリ抑え込んでる隙にユリーに毒薬が入った瓶を渡す。


「これを剣に塗って切りかかればあるいは。ただ、自分にはかからないように気を付けてください。」


「武人としては正直な所あまり好きなやり方ではないが倒すのが優先だ、トール君使わせてもらうぞ!」


手早く、剣の刃に毒薬を塗布する。

ボルソンが何とか抑え込んでいたが、力任せに刀を跳ね上げられてしまった。


「シッ!!」


豚人のがら空きになったを脇腹に、ユリーが素早く詰め寄り横なぎを見舞う。

先ほどの攻撃同様に弾かれてしまった。


「(うーん、僅かでも傷がついていれば、毒が通るはずだが…)」


そのまま、少しの時間ユリーとボルソンが戦っていると、急に豚人が膝をついた。


「グギャ…ギャ…。」


そして突然痙攣しだし、倒れて動かくなった。

それを確認してから、二人は大きく息をつく。


「毒が一応通ったみたいですね、ユリーさんボルソンさんお疲れさまでした。」


「トール君がいなかったら全滅もあったな、こちらこそ助かったよ。」


「そういえば、吹っ飛ばされた人は大丈夫でしょうか。」


「ああ、悪いがトール君見てやってくれ。ボルソン、この豚人の事を森の入口まで行って連絡してきてくれないか?

こいつが本当に死んだのか分からないから、私は警戒しておく。」


とりあえずは一段落か、少しヒヤッとしたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る