第15話 相談、からの討伐戦本番

「それで、聞きたい条件面とは何か?」


ちょっと良い食事処の個室で、話をする事にした。

情報収集の過程で皇国への移住希望者は割と市井に溢れていて、言った所で罰せられたり、支障があったりする事はないのが分かっていたので率直に相談してみた。


「いや、実は皇国への移住を検討しておりまして。そこで皇国人のお二人にその辺を伺えればと。有益な情報をいただければ、討伐隊の協力をすることもやぶさかではありません。」


「なんと、君は皇国へ移住したいと考えていたのか。うーん……。ボルソン、彼をどう思う。」


ボルソンと呼ばれた男性は俺をじっと見続け、その後大きく頷いた。


「そうか、では教えよう。プリヴァ王国からゾーゲン皇国への移住は基本的には認められていない。だが、特別な条件を満たせば可能ではあるのだ。」


「その条件を詳しく言うとだ。

1つ目は金貨20枚(約200万円)の納税に加え、さらに同額以上の資産を持っているかどうかだ、最低限の稼ぐ能力があるかの判別になる。

2つ目は最低限の識字・計算能力を持っていることだ、これは金貨を納める際に簡易な試験をされる事で判別される。

3つ目は重大犯罪を犯していないかだ、これは王国の犯罪者名簿から判断されている。

ここまでは比較的たやすい、だが最後の一つが難関だ。」


「最後の一つは、一定の地位にある皇国民からの推薦だ。

その一定の地位にある皇国民とは、皇国貴族およびその親族にある者、皇国に一定額以上の納税を行っている者、皇国総合業務請負所における一定以上の地位を持つ者だ。

王国に住んでいる者はこれを達成するのが非常に難しい。」


「だが君は幸運だ、この私ユリーがこの推薦を渡せる者に該当している。

君が相当な腕前の薬師であることはガンガスさんから聞いている、おそらく皇国でも価値を見いだされる存在だろう。

ボルソンも認めたし、場合によっては私が推薦しても良い。」


「その、ボルソンさんが認めたというのは?」


「詳しくは言えないが、ボルソンには人間の価値を見極めることが出来る。」


「(おそらく特殊な加護持ち、本に載ってた鑑定の加護とは別のものか?)」


「どうだろう、トール君。豚人討伐に同行して君の価値を示してくれれば、推薦するのもやぶさかではない。

もちろん必ず推薦するとは言えないが。家名に誓って公平に判断することは約束する。」


「(家名?もしかしてユリーは貴族なのか?)」


このユリーを100%信用することは出来ないが、これはチャンスだ。

条件の3つ目までは現時点で満たしているが、最後のはかなり難しい。


金貨がかなり必要と言うのと、特別な条件が必要という所は情報収集の際に聞いていたので、おそらくユリーが言った移住条件は本当だろう。

仮にユリーが推薦資格をそもそも持ってなかったり、推薦されるのを失敗した所で大きなデメリットは無い。任務成功すれば一応金が貰えるしな。

撤退や全滅を余儀なくされるヤバい状況でも、加護を使えば最低でも俺だけは切り抜けられるはず。


総合的に考えて、同行して損はないか。よし。


「分かりました、そういうことであれば豚人討伐に是非同行させてください。

そして私を移住推薦して貰えるのなら僥倖です。」


「よし、話は決まった。では、討伐任務の詳細をここで詰めようではないか。」


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


ユリーとの話し合いをした二日後に、豚人討伐作戦が行われるとの事で、普段の薬類に加えて念のためグレードが低めの傷病回復薬を準備しておいた。

市場を見て回った際、そこそこ頑丈な陶器製の小瓶も売っていたのでこれも数本持っていく。


討伐作戦と言ってもやる事はシンプルだ。

目撃情報や前回の討伐作戦とで概ね、豚人の生息範囲は分かっているので

それぞれの数人のグループごとに、水平に一定距離を保ちながら、同じ方向に進みつつ殲滅していく作戦だ。

いわばローラー作戦に近い。


「おはよう、トール君。今日はよろしく頼む、相談した通り戦闘は基本的に私とボルソンに任せてくれて良い。

ただ取り逃しについては頼むよ。」


「おはようございます、ユリーさん。取り逃しについては理解しております。

補助員としての準備も済ませてあります。」


「それは上々、では行こうか。」


「…」


ボルソンは相変わらず無口なおっさんだな。



町から10km程離れた森までは、討伐隊全員で進み、そこからはグループごとに手筈通り別れ、森の中を探索・殲滅する。

森の入口に、総合ギルドの職員とその護衛数人が残り、他は森に入る。


森の中を3人で進んでいく。

この森は薬草採取で何度か来ているが、そこまで深い森ではない。


進んでいると30mぐらい先だろうか、4体の豚人が見える。それぞれ座って何かを食べているようだ。ユリーが小声でささやく。


「一気に先制して仕留める、ボルソン行くぞ。トール君は少し後ろをついてきてくれ。」


「…」


ボルソンが頷くのを見て、ユリーが歩む速度を一気に早くする、それでいて足音は極力抑えられる歩き方をしているようだ。

10mぐらい手前になって一気に走り出す、豚人もようやくこちらに気付いたようだが、もう遅い。


「ハアッ!!」


ユリーが目にもとまらぬ速さで片刃の剣を鞘から抜き、その勢いで1体の豚人の首を跳ね飛ばした。返す刀で驚いているもう一体の首も飛ばす。

剣の切れ味もさることながら、ユリー自身も相当な腕前の様だ。


「…!!」


ボルソンも続く、走った勢いそのままに豚人の腹を一気に貫き、剣を抜きながら前方に蹴飛ばす。さらに隣にいた豚人を一気に袈裟切りにする。

ボルソンは180㎝近い背にかなり良い体格をしている。力で戦う、まさに剛剣という感じだがこちらもかなり強い。


豚人4体が絶命したのを確認してから、二人は剣についた血を布で拭った。

さらに、武器に歪みが出ていないか確認している。


「いや、お二人ともお強いですね。」


「うむ。この程度であれば後れを取る事は無い。どんどん進もう。」



ユリーの言葉の通り、ほぼ瞬殺に近い形でどんどん豚人を倒しながら森を進む、たまに取り逃しが出た時は俺が槍で倒した。

豚人は薬草を採取している時に何度か倒したことがあるから、そこまで難しくはない。


このままなら問題なく討伐は終わりそうだな、と思っていた時だった。


「くそっ、誰か助けてくれェ!!」


誰かの叫び声が遠くから聞こえてきたのだ。

おいおい、何かまずいことが起こってしまったか…!?

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