第14話 豚人討伐戦

そろそろ皇国に移るための移住条件など詳細な詰めも始めないとなと考えながら総合ギルドに入ったら、いつになく騒がしい。


いつもの納品窓口の女性、マールさんに声をかける。


「今日はずいぶん騒がしいみたいですが、何かあったんですか?」


「ああっ、トールさん大変なんです。近くの森で豚人が大量に見つかったみたいで…。」


豚人とは、頭が豚に似ていて体は人間に近いが肌の色が緑色の姿をした二足歩行の生物で、日本のファンタジー作品で言うところのオークに近い存在だ。

どういう進化でそんな生物になったのかは謎。

知能は低いが棒ぐらいの武器は使え人間を襲う事もある、特に女や子供を襲う事が多い。


女や子供を襲うのは、ぐへへな展開ではなくて単純に食料として魅力的だからだ。

そう、彼らは雑食性で、その対象は人間も含まれている。


町に集団で襲ってくることは稀ではあるものの一応ある上、放っておいても食欲がかなり旺盛ゆえに近くの生物が食いつくされるため、見かけたら殺処分が推奨されている。

ちなみに見た目はともかくとして、肉は硬過ぎ・臭過ぎで食用としてはとてもじゃないが使えないらしい。


「町に近いところまで来ているらしくて、早々に処分しないと危ないみたいなんです。なので総合ギルドでお金を出して、討伐隊を結成して対処に当たることになりまして。」


「なるほど、そういう事でしたか。情報ありがとうございます。」


となると、豚人騒動が落ち着くまでは薬草採取は休みにして、皇国への移住調査を優先して町から出ないようにしよう。

最初に薬草の本を見て以来行って無いが、まずはこの総合ギルドの図書室の本を見てみるか。


3階に向かおうとすると、声をかけられる。


「おい、トール、お前は討伐隊には入らないのか?」


いつも、槍の講習でお世話になってるスキンヘッドのギルド職員だ。


「いやあ、ガンガスさん。私はあくまで薬師で荒事には向いてないんですよ、遠慮しときます。」


「よく言うぜ、今やお前も相当な腕前だぜ?豚人なんか簡単に蹴散らせるだろうに。」


「買いかぶり過ぎですよ。騒動が収まるまでは大人しくしときます。」


困った奴だな、という表情をしているが、こっちは面倒ごとに自ら突っ込む気は無いんだよなあ。

解決するまでは大人しくさせてもらおう。


2、3日もすれば解決していつも通りにになるだろうと踏んでいたのだが

思ってもいない困った展開になってしまったのだ。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「トールさん、大変なんです!」


豚人騒動から3日後、手元に残っていた薬草で調合した薬を納品しに来たらマールさんに話しかけられる。


「前に結成された、豚人討伐隊ですが能力があまり高くない人が多かったのか、

大勢のけが人を出してしまったみたいで、殲滅する前に撤退しちゃったんです。」


「(おいおい、何やってんだよ総合ギルド。)」


「今度は人をかなり厳選して、討伐隊を結成するみたいですよ。」


「そうですか、次こそ上手く行くと良いですね。これ、買取お願いします。」



買い取りの鑑定手続きを待っていると、ガンガスが何かに気付いたような顔をしてこっちに向かってきた。良いことではない気がする…。


「トール、討伐隊を再結成する話は聞いてるだろう?どうだ、参加しないか?」


「いやあ、前にも言った通り荒事は苦手なんで遠慮しますよ。」


「いや、実はな…」


「(参加しないと言ってるんだ、話を聞けオッサン!)」


「戦闘レベルの高い二人組が参加してくれる事になったんだが、前回の事があるだろう?万一に備えて、補助員出来れば薬師を入れたいと言っていてな。」


「能力の高い薬師で、かつそこそこ戦える奴となるとトールぐらいしか思い当たらなくてな。お前、そんなにグレードは高くないが傷病回復薬も作れるんだろ?納品した事あるって聞いたぜ?」


「気は乗らねえかもしれないが、二人とちょっと話してみてくれないか?

参加してくれるならもちろん金は出す。」


「(くそっ、どれぐらいで買い取りされるか知るために、試しにイリクサ草でグレードがかなり低めの傷病回復薬を納品したのが仇になったか!)」


ガンガスが、入口の方に向かって手を振る。件の二人組がいるらしい。

女性と男性の二人組がこっちに歩いてきた。


ガンガスは二人を呼ぶだけ呼んだら、演習場の方へ歩いて行った。ほったらかしかよ!


「(…見覚えがある二人組だな。ああ、オナージュからの馬車に護衛でついていた二人か)」


「君がトール君か、初めまして私はユリー、こちらはボルソンだ。

あれ、君はこの前の馬車に乗ってた少年じゃないか。あの時は危ない目に合わせて悪かったな。」


ユリーと自称する女性は、やや癖のある金髪のショートヘアで中々凛々しい顔だ、体の凹凸は少な目で美人というよりはイケメンと呼ぶのに相応しい感じだ。女性ながら女性にモテそう。

しっかりした皮鎧に剣を装備している。


横に立っているボルソンと呼ばれる男性は、そこそこ年が行ってるな。ユリーと親子でもおかしくない見た目だ。

良いガタイをしていて眼光が鋭く、パッと見だと、とっつきにくそうなおじさんだ。こちらも皮鎧と大ぶりの剣を装備している。


「この前はどうもお世話になりました。」


「聞いているとは思うが、豚人討伐隊に入るにあたって、念のために補助員が欲しくてね。

トール君は薬師と聞いている。どうだろう、同行してくれないか?」


「申し訳ないのですが、荒事は苦手でして。遠慮させてください。」


「ガンガスさんからは薬師の才に加えて、中々の槍使いと聞いている。害獣のみならず、悪人の捕縛経験まであるらしいじゃないか。報酬は悪くないし、もちろん使用した薬については色を付けた金を支払わせてもらうが。」


「いや、お金じゃ命は買えませんからね。討伐任務は受けたことないんですよ。」


女性はおもむろに、首にかけている銅色のタグのようなものをこちらに見せた。


「先の護衛が不十分だったから大きな顔は出来ないが、この通り一応我々はどちらも皇国の四級害獣狩人なんだ。

ちょっと事情があって、王国で仕事をしていてね、害獣退治には自信があるし、よっぽどの事が無い限り君に危険が及ばない事は約束できる。」


この通りと言われても、どの通りなのか分からないがそのタグが身分証か何かなのか?しかしおっさんの方は全然しゃべらないな。


それはともかく皇国人だったのか、この二人は。

討伐隊には全く惹かれないが、皇国移住のヒントがこの二人から得られるかもしれないな…。


「なるほど、条件面とかを詳しく聞きたいので、どこか落ち着いたところで話をしませんか?」

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