第13話 お約束の展開

それから数か月、調合した薬を総合ギルドで売って、槍の使い方を含めた護身術を学ぶ暮らしを継続した。

金も相当貯まったし、元のトール君の素質が良いのか槍の使い方や体捌きについては、既にギルドから太鼓判を貰っている。


本や服、槍なども少しずつ買い揃えた。そろそろ皇国に移住する準備のタイミングだと考えている。

情報収集は適宜行っているが、文献や酒場の噂話を聞く限りでは、北〇鮮のようなヤバイ共和国制の国だったりはしないようだ。

皇国と王国で民間レベルでは貿易も行われているし、皇国が王国人を拉致誘拐してるといった話もないので、情報が極端に間違っているという事も無いだろう。


今日は、フクロソウと言う名の草から調合した胃腸薬を総合ギルドに納品した。


「トールさん!いつも質が高い薬の納品ありがとうございます、本日は銀貨4枚(約4万円)です。これからもよろしくお願いします。」


基本的に井戸や川から汲んで使っている水の質が良くないためか、食あたりを起こすことが多いらしく、特に腹痛や下痢を止める胃腸薬の需要が高い。

今日は講習が無いから、そのまま宿に帰るか。



宿に向かって歩き出すと、後ろから誰かが少し距離を置いてついてきているのが分かった。

良からぬことを企んでる輩なんだろうなあこれ、と思いながら歩を進める。


宿の少し前、人通りがなくなったところで、後ろから声をかけられる。


「おいガキ、待てよ!てめえ、いつも薬の納品して随分懐が温かいみてえじゃねえか。」


振り返ると、ニヤニヤ顔をしたまさにチンピラという感じの人相が悪い男が3人立っていた。


「ちょっとおこぼれを寄こせよ、年長者は敬わなければならないんだぜ?」


「いやあ、申し訳ないですけど渡す気はないですよ。」


「てめぇ…、こっちが下手に出りゃ良い気になりやがって。

もういいや痛い目に合わせた上で身ぐるみはいじまおうぜ!」


「(下手に出てたのか??これで?)」


「大人しく金を渡せば五体満足で帰れたのになあ、運が悪かったと思って諦めてくれや。」


剣や棒を取り出して、戦う気満々のようだ。こりゃ仕方ないな。


「その自慢の槍でどれだけ戦えるのかな……、ギャアア目が痛ェェエエエエ!何も見えねえ!!」


「!?どうしたガイオ、がっ…なんだ目が…目が…」


「ガイオ!?オルテン!?くそっ、てめぇ何しやがった……、目が痛いィィィ!」


「あれ?どうかされました?」


いつもの通り、そういつもの通り薬師の加護を使って『マテンニール』から取り出した劇薬を霧状にして3人の文字通り目の前に散布したのだ。

いつもの通りと言うのは、これでこの手のアホが襲撃してきたのが3度目だからだ。

カンブレスは思った以上に治安がよろしくない。


その上、後から分かったが王国では薬の納品をする人があまりいないので、思ってたより若い薬師として目立ってしまっていた。


「来ないならこっちから行きますね。」


「!?、やめろ、やめやがれ!!」


少なくともこの王国は、明確な正当防衛なら人殺ししても罪には問われない。武器を抜いて襲ってきた時点でこれは成立する。

この前買った槍で、一人の腹を深く突く。腹なのは的が大きくて骨に当たる可能性が低いからだ、変な所を突くと刃が痛む。


「があっ…、腹が痛ぇ、助けてくれ…あぁ…」


そのまま倒れこみ、動かくなった。


「おっ、俺たちが悪かった、助けてくれ頼む!!」

「くそっ、近寄るな!近寄るなよ!!!」


残りの二人も目は見えていないはずだが、音で何が起こったか分かったみたいだな。

懇願したり、棒を振り回して抵抗したりしている。


「見逃して後で復讐されても困るんですよ、やっぱり禍根は元から断っておかないと。手慣れた感じだったし、どうせこの手の犯罪を今まで何回もしてきたんでしょ?じゃあ、これは世のため人のためにもなりますし。」

「(それに俺の加護の事を知ってる輩、特に悪党は排除しておきたいしな。)」


「そんな事しねえ、やめてくれ頼む、ギャアッ…」

「くそっ、やめろっ!やめろぉ!!、グアッ…」


やっぱり、少し離れたところから攻撃できる槍が加護と相性バッチリだ。

あーあー、槍が血で汚れてしまった。刃先が歪んではいないみたいだが手入れが必要になったじゃないか。


しかし悪人とは言え、何度やっても人殺しはあまり良い気分じゃないな。

まあ、自分が殺されるのは困るから仕方ない。懲らしめたらもしかしたら説得出来るかも?更生するかも?なんていうのは馬鹿の考えに他ならない。

ゴミはしっかり片付ける、こういうのは割り切りが重要だ。


とは言え、元は日本人なので正直もっと自責の念にかられたり抵抗があると思ってたが、1回目からそうでも無かったのは元々俺がそういう性格だったんだろうか?

もしくは、転生が関与してるのか、貰った加護の副作用なのか、元のトール君の性状が関係しているのか。ま、考えても仕方ないか。


「やれやれ、とりあえず衛兵に連絡するか。」



襲われたので返り討ちにした旨を衛兵に連絡すると、やはりこの3人組は似たような行為を今までに何度もやってきていた札付きの悪党だったらしい。人殺しの容疑までかかっていた。

現行犯で捕らえる事が出来ず、のらりくらりとかわし続けていたようだ。

なので正当防衛どころか、衛兵によくやったとまで言われてしまった。


宿に戻れたのは、だいぶ暗くなってからになってしまった。

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