第11話 加護の有効活用、そしてカンブレスへ
護衛の二人が走って帰ってきた。という事は、残りの賊は始末できたのか。
あせった表情で女性が声をかけてきた。
「すまない!大丈夫だったか!?」
「(大丈夫だったかじゃねぇよ馬鹿野郎、ちゃんと仕事しろ!!)」
と内心思いながらも、顔には出さずに
「襲われるかと思ったら、なんか突然叫びながら暴れだしたんで、
離れたところから石を投げつけたら動かなくなりました。」
ふむと小さな声で返事すると、女性は倒れている賊の方に歩いて行っておもむろに左胸のあたりに剣をつきさした。
賊がビクッと動いたのでどうやら投石では完全に死んでなかったみたいだな。
「とりあえずの脅威は去ったが、仲間がいるかもしれない。すぐにカンブレスの町への移動を始めよう。御者、行けそうか?」
「分かった、すぐに出発するぞ!」
御者はまだ青い顔をして少し震えているようだが、なんとか馬車を動かし始めた。
他の乗客も少しホッとした顔をしている。
「(何とかなって良かった、しかし意図せず試すことが出来たが、やはり薬師の加護はかなり強力だ。これなら遠距離攻撃以外の対人戦はどうとでもなる)」
そう、急に暴れだした賊は俺が『薬師の加護』を使って攻撃したのだ。
一昨日に、馬車の予約をした後に護身用に使えそうな植物を探し出していたのだ。
具体的には『皮膚刺激性が強い毒薬』になり得る、植物類にした。
しかしどうやって運ぶかが問題だな、ポリプロピレン製の容器があればベストだが
そんなもんがこの世界にあるわけがない。
オナージュの町の近くを色々探したところ、『皮膚刺激性が強い毒薬』の原料になる植物の内で、かなり皮が厚く頑丈な直径3cmぐらいの実を付ける植物、マテンニールと呼ばれる物を探し出せた。
この実は、皮には毒性は無いらしく、石に投げつけてみたが全然割れたりしなかった。進化論からすれば鳥類に食べて運ばせるために皮が厚くなってて、中身の種が食われないように刺激性を持っているのかもしれない。
それでも万一潰れる可能性は否定できないが、これを袋に包んで持ち歩くことにした。ちなみに注意を払ってナイフで時間をかけて傷をつけて中身を出す事で、毒薬を加護で作る事が出来るようになった。
調合後の性状はこちらで決められるので、これを持ち歩き、襲ってくる輩の顔の前で霧状に調合出来れば、
目や鼻の粘膜に作用して、一時的に行動不能に出来るだろう。
最悪、失明するだろうがこっちに襲い掛かった以上、そんな事は知った事ではない。
というわけで、思った通りの事が出来たので当面の護身については大丈夫だな。
このマテンニールの実は、今後も定期的に集めておきたい。
人殺しは出来るだけ避けたいが、こういう世界だと今後自分を守るためには必要な事もあるだろう。トリカブトのような物も探さないとだな。
あの後は、追加で襲われることもなくカンブレスの町まで着いた。幸い、ケツは2つに割れるだけで済んだようだ。
王国で二番目の規模だけあってカンブレスの町は、かなり大きな町だ。
ぱっと見でも端までかなり距離があるので、数万数十万人単位の町かもしれない。
町の周りは塀で覆われていて、町の入口には門があり、開かれてはいるが槍や剣を持った衛兵が立っている。
櫓みたいなのもあり、その上にも衛兵がいて、周りを監視しているようだ。
町に入るのに検問をしているらしく、順番待ちをしている馬車や人が並んで立っている。
「ここまでくれば安心だ、町に入れるまで少し待ってくれ。」
体感で30分ぐらいしたところで、自分たちの番が回ってきた。
「どこから来た者か?」
「オナージュの町からです、定期便の馬車で何人か乗合の者もおります。」
「なるほど、改めさせてもらおうか。」
衛兵が馬車の中を覗き込み、一人一人の顔をじっと確かめる。
指名手配されているような極悪人じゃないかを確認しているのだろうか?
「…うむ、通って良し!」
楽で良いが、えらいザルな検問だな。
ここは町に入るのに、税金みたいなものは取られないようだ。
「すまない、報告しておきたいことがあるんだが。」
護衛の女が衛兵に話しかける。
「ここから、おそらく30キメートぐらい行った所で賊に襲われた。幸い全員退けられたが残党がいるかもしれない。」
「(キメート?内容的にメートの上位単位で1キメートが1,000メートかな)」
「何っ、それは本当か!?」
「ああ、3人に襲われたがとりあえず全員殺した。仲間がいると厄介だから死体はそのままにして、急いでカンブレスに向かったんだ。」
「分かった、後で詳しい話を詰め所で聞かせてくれないか?」
「護衛任務が終わった後に、詰め所に行かせてもらおう。」
悪人だと報奨金みたいなのも出るんだろうか?
町の中は、オナージュとは違い石畳で舗装されている、ただ馬糞らしきものやゴミがそこら中に落ちているのが気になる。
実際には諸説あるらしいがハイヒールが発明された、昔のパリもこんな感じだったんだろう。
脇道は平らではあるが土のままだから、メインの通りだけしっかりと舗装されている感じか。
馬車は、門を通って少し行った馬房がある場所で停車した。
「道中で問題があったがカンブレスに着いたぞ、これに懲りずにまた利用してくれよな!」
トラブルで代金が安くなったりとかは無いようだ、契約書は交わしてないが諸々自己責任なんだろう。
料理人ぽい男性、家族連れ、リュックをしょった中年の男性が馬車を降りてそれぞれの方向に歩いていく。
護衛の二人は、賊の報告をするためか門の方に戻って行った。
「すみません、この町は初めてなんですが、総合ギルドの場所と宿泊にオススメの宿とか教えて貰えませんか?」
「ああそうなのか、総合ギルドはこの通りをずっと進んだ先の右側にある3階建ての建物だ、入口に看板が付いてるからすぐわかるぜ。
泊まりは…、そうだなちょっと入ったところにあるんだが小鳥亭って名前の宿が値段は手ごろながら良い所でオススメだ。」
「ありがとうございます、訪ねてみますね。」
詳しい場所を教えて貰ってから挨拶して、まずは今日寝る場所を確保するために小鳥亭に向かった。
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