第10話 出立、そして襲撃
雑貨を買った後はいざという時のための原材料を集めて、同じ宿にもう一晩泊まり、出立の朝になった。
目覚まし無しで起きられるかと少し心配になったが、寝るのが早いのもあって暗い内に目が覚めてしまった。
うっすら明るくなってきた町を進んで馬車乗り場に向かうと、既に何人かいるようだ。
3人連れの家族、大きなリュックを背負った中年の男、若い女性と年輩の男性の2人連れ。
あの二人連れは宿に泊まっていた二人だな。見覚えがある。
どちらも革製の鎧と、金属製の立派な剣を持っているから護衛っぽいな。
昨日会った御者のおじさんから声をかけられる。
「よお、おはようさん!乗る予定のあと一人が来たら、そろそろ出発するぞ!」
「こちら木札です。今日明日とよろしくお願いします。」
「昨日も思ったが、若いのにずいぶん礼儀正しい奴だな、こちらこそよろしく頼むぜ。」
しばらく待っていると、大きな鉄製の鍋を抱えた若い男がやってきた。
「よし、全員揃ったからカンブレスに向けて出発するぞ、乗ってくれ!」
そうじゃないかと思っていたが、尋常じゃなく馬車が揺れる、ケツが4つに割れてしまうかもしれない。
尻の下に外套を畳んで敷いてはいるが結構しんどい。
護衛の二人は外を警戒しながら歩いているらしい。護衛は体力勝負だなあ。
何度か休憩を挟みつつ、特にトラブルも発生せずに予定していた宿泊地点に着いた。
何かと都合が良いから川の近くだ。
「(はあ~やっと半分かよ、マジでケツが4つに割れそうだな)」
夜にスープが出るとの事だったが、大きな鍋を持ってきた男性が作ったスープが振舞われた。
乳発酵品を溶かしたスープとの事だったが、なかなかどうして美味かった。
夜は馬車の中で外套くるまって寝た、トール君の若い体なら一晩ぐらいどうって事はないだろう。
護衛の2人は交替で寝ずの番をするようだな。
寝れたのか寝れてないのかよくわからない内に朝を迎えた。
そういえば、トール君はまだ若いのもあるのかほぼ髭が生えない体質なのには正直助かった、前世でも剃刀で髭を剃ったことがないからだ。
電動カミソリがこの世界にあるわけないので、その内使えるようにもならないとな。
今日もも日が昇ってから出発し、ケツは痛いがこのまま何事もなくカンブレスに着けば御の字だな。そう思ってしばらく経った時だった。
「賊が出たぞ!!!」
ボーッとしていたので、ドキッとして飛び上がった。
周りの人を見ても皆同様の反応だ。家族連れの男の子に至っては今にも泣きだしそうだ。
「(おいおい、大丈夫なんだろうな。護衛の実力がどの程度なのかは知らないが…)」
内心かなりドキドキしながらそんなことを考えていると、御者が
「安心してください、あの二人はかなりの手練れです。こっちに賊は来ません!」
「(ホントかよ?こんなところで死ぬのはごめんだぞ、万一こっちに賊が来たら奥の手を使うしかないな。)」
幌の端から様子を伺うと、賊は三人で護衛の二人と戦っているようだ。どっちが優勢なのかはよく分からないな。
息をのんで見守っていると、賊の一人が護衛を撒いてこちらに走って向かってきた。
「(これヤバくないか!?)」
そう思って周りを見ると、皆同じことを考えているのか真っ青な顔になってブルブル震えている。
御者も頭を抱えて丸くなっている。ダメだ、こっちに使えそうなやつが誰もいない。
「ヒャーハハハッ、金目の物と命をよこせ!!」
ザ・賊という感じで叫びながら、凄い勢いで走ってくる。
こりゃ、一か八か奥の手を試すしかないな。
賊が馬車まで近づいてきて、馬車の後ろ側の縁に足をかけた。
「おいっ、金目の物を早く出せ!俺の気分が良けりゃ命だけは助かるかもしれねぇぞ~!」
「(よしっ、千載一遇の好機!)」
「ん…???ギャアアアア、目が目がァァァアアア!!!」
馬車から落ちた賊は目を抑えて、鼻水や涎を垂らしまくりながら地面に倒れ暴れている。
ヒヤヒヤしたが、こりゃ使える。とりあえずこいつを再起不能にしないとダメだな。
近づくと危なそうだから、その辺に落ちている石をぶつけるか。
5mほど離れて頭をめがけ、握りこぶしぐらいのサイズの石をどんどん投げつける。
いくつか投げつけるとビクッとしてから動かなくなった、死んだのかなこれ…。
悪人は死すべし、慈悲は無いのだ。
人殺しした事になるけど、思ったよりなんとも思わないもんだな、相手が悪人だからか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます