第8話 目標

完全に暗くなる前に宿の部屋に戻って来れた。時計が無いのが不便だな…。

夜になって町が真っ暗になるかと思ったが、家から多少の明かりが漏れているようだ。


「部屋に戻る前に食事にするかい?」


「はい、食事をいただけますか。」


「分かったよ、食堂で座って待ってておくれ。」


ランプが灯っているがやや薄暗い食堂に入ると、少し離れた所に年輩の男と妙齢の女が同じテーブルに座って食事をとっている、宿泊客かな?

食堂の2人席のようなテーブルで座って待っていると、食事が運ばれてきた。


結構固いパンと、何かの肉とキノコが入った煮込みのようなものだ。


煮込みの味付けは塩がベースで、肉から出汁も出ているようだがシンプルな味付けだ。

木製のスプーンですくって飲んでみる、うん悪くはないな。


多分パンは煮込みに漬けて、柔らかくして食べるものなんだろう。

酵母で発酵させてないのかもしれない。


そういえば食中毒にも耐性がありそうだから、変な物を飲み食いしても安心なのは良い。

食事を早々に終え、部屋に戻った。


そういえば、この町に来て初めてトイレに行ったがやはり、ぼっとんだった。

中国出張で使用したトイレを思い出すなあ、大の際はシャワートイレが恋しい。



暗い部屋で、ベッドに寝転びながら一人考える。


さて、今後どうするかだ。

状況的におそらく日本に戻る事は出来ないんだろう、ああ文明が恋しいな…。


「何も考えずに寝転んでしまったけど、ノミやシラミは大丈夫なんだろうなこれ…。」


ともかく、まずはどうやって生計を立てるかだが、これは薬師の加護を使って薬を売って生計を立てるのが一番楽そうだな。

皇国がどこまでかは分からないが、おそらくこの世界の文明レベルは現代日本と比べると相当低い。

という事は薬の価値は相当高いはずだ。


ただ、薬師の加護、特に俺が持っている物は相当レアな加護の様だから極端に目立つのは避けたい。

加護を持ってることを知られたら、確実に厄介事の種になるからだ。


面倒ごとは避けて、必要最小限の労働でのんびり暮らしたい。

戦闘なんかは出来るだけ避ける、人助けや魔王を倒すなんてとんでもない。

そういうことは勇者様にお任せする。いるのかは知らないが。


若いのに調薬出来る理由付けは、流れ着いて村に居着いた腕の良い薬師に教わったという事にしておくか。


次にどこで生活するかだ、近所にコンビニや24時間営業のスーパーがあって駅近で高速インターネット出来るRC造のマンション環境は無理にしても、出来る限り文化的な生活を送りたい。

のんびり農家をやるなんてまっぴらごめんだ、農業が大変なのは親戚がやってたからよく知ってる。


本を読んだ限りでは王国よりも皇国の方が文明レベルは絶対に高い。皇国製の本を見ても明らかだ。

なので王国を出て皇国に移住・帰化するのが当面の目標になるか。


移住するにも先立つものは必要だろうから、皇国に一番近く規模の大きな町で金を稼いだり情報収集したい。

皇国が大国とは言え、北〇鮮のような国だと困るし。


となると、一番良さそうなのは「カンブレスの町」だろう。

今の所襲われたりしてないが、この世界に立派な警察組織があると思えないから自衛の手段も学んでおきたい。


皇国に移住して、その後は皇国内で情報を集めて、最も住みやすい場所を探し、

定住の地を見つけたいところだ。薬屋をやるのが良いかもしれないな。その辺は、いざ移住してから改めて考えよう。


とりあえず目標は決まった、明日以降やる事は…。


まずはカンブレスの町へ移動する手段だ。ここからの距離もよく分からない。

明日の朝、総合ギルドに行ってみてコウキに相談してみるか。


あと、いざという時のため、具体的には人や動物に襲われた時の自衛手段として

毒や一瞬で麻痺・昏倒させることが出来る薬を生み出せる素材を手に入れて、手元に持っておきたい。


おそらく酒はあるだろうからジエチルエーテルはどうだろうとふと思ったが、導入時間が長いから戦闘には全く使えないだろう。

ハンカチに染み込ませて嗅がせても、即気絶はさせられないのだ。


この世界にファンタジー的な、その手の便利なものがあると助かるがどうだろう…。

無かったら刺激性が高い劇薬を調合して、目や口への粘膜アタックすれば良いか。


「やる事は決まった。あとは一つ一つこなしていくだけだ。」


ゆっくり目を閉じると徐々に眠気が襲ってきた、転生初日にしてはこれでも上出来か…。

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