第7話 加護の試運転

加護の全てに載っていた、過去に確認された『薬師の加護』の能力は次の4つだ。



1.作り方が分からない薬を頭に思い浮かべると、薬に必要な材料および調合方法が分かる。


2.薬の材料の場所が近くまで行くと、光って見える。


3.過去に調合した経験のある薬は、手元に材料があれば道具など無しに一瞬で調合が出来る。


4.疾病や毒に対する耐性を持っている。



4は流石に試せないから、睡眠薬などが入手できた時においおい試す事にしよう。


最初は1だな、これは頭で思い浮かべるだけで出来るはずだから試すのもそんなに難しくないはず。


そうだな、まずはシンプルな解熱鎮痛剤を想定してみよう。

眼を閉じて、頭に解熱鎮痛剤を思い浮かべる。


すると、河原に生えている数メートルの高さで先がとがった緑の葉を付ける木が思い浮かび、カワラヤナギという名前と、葉や枝を乳鉢のような物で擦って液を抽出する絵まで目に浮かんだ。


という事は、1の能力は加護として与えられている。


そういえば、小説か何かで、大昔にヤナギの皮や枝などから解熱剤の素を抽出した。

それがアスピリンの素になるような物だったって話を読んだ記憶があるな。

カワラヤナギという植物は地球にあるんだろうか?


そもそも何故ヤナギが選択されたんだろう?


トールの記憶によれば、この町の近くに川が流れているはず、もしかしてそこにカワラヤナギと言う植物が生えていて

『薬師の加護』の2の能力と連動して、近くで素材が取れる解熱鎮痛剤が第一選択される仕組みなんだろうか?とりあえず川に向かおう。


川の近くに着いた。ここで頭の中にカワラヤナギを使った解熱鎮痛剤を思い浮かべると、川べりに生えている木が白く光って見える。これがカワラヤナギか。


これで2の能力も授けられている事が分かった。

数十メートルぐらい離れたところのカワラヤナギも光って見えるので、相当遠くからでも使えるみたいだ。


3の過去に調合した経験のある薬、というのはどれぐらいの判定になるんだろうか。

例えば1μLでも抽出できていれば、経験判定になったりしないだろうか。

なればめちゃくちゃ助かるんだが、こんな世界で生活を余儀なくされて困ってるんだ、大いなる天主様とやら、なんとか頼むよ。


カワラヤナギの葉を何枚か取って、河原の石ですり潰してみる、多分この汁の中に有効成分が多少なりとも含まれているはず。

これで調合判定になるか?そもそも3の能力が付与されているか分からないわけだが、とりあえず試してみよう。


カワラヤナギの葉を何枚か手に持って、解熱鎮痛剤の生成を思い浮かべてみる。

・・・・・・何も起きないか?

と思ったら、手の中の葉が消え、僅かだが白い粉状の物体に変化した!


「うおおおっ!」


思わず叫んでしまった、見渡すと幸い周りに人はいなかった。


これが解熱鎮痛剤か知る術が無いが、加護以外にこんな不思議現象が起きるはずがないのでおそらく3の能力も付与されているという事だ。

これはデカいぞ、これなら薬を作る事も、それを使って金を稼ぐことも容易だ。

ただ、本当に薬になっているのか、おいおい試してはおきたいな。


あとは、この薬の該当範囲がどこまでなのかという事だ。おそらく毒薬は含まれているとは思うが、薬と名前が付くとは言え、火薬や爆薬は流石に範囲外だろう。


毒薬を頭に思い浮かべると、赤く放射状に広がった花が咲いた数十cmぐらいの植物が思い浮かんだ。

これはおそらく地球で言うところのヒガンバナっぽい植物だな、茎や根に毒がある事は知っている。


火薬や爆薬は頭に思い浮かべても、材料も調合方法も浮かび上がって来なかった。


つまり、人体に直接影響がある薬または毒薬しか対象じゃないという事だろう。

しかしそれでも十分すぎるし、非常に強力な能力だ。


抗生物質や化学合成が必要な薬なら、対象だとは思うが現時点では無理なようだ。

かなりボヤッとした材料と作り方は思い浮かぶが、実行が出来そうにない。


さらに思いついて色々試してみた。


一つ目は、3の『手元に材料があれば』の手元がどういう判定なのかだ。

手から少し離したところに葉を置いて、手のひらに出す感じで調合をイメージすると可能だった。

逆に手の上に葉を置いて、少し離れたところに薬を出す感じで調合をイメージすると、これもまた可能だった。


距離を少しずつ離して何度か試したところ、自分を起点として材料の位置と調合品を出す位置の合計が約10mぐらいの距離であれば

水平だけでなく垂直方向にも自由なようだ。

つまり手元に材料があれば、10m先までの範囲であれば自由な場所に薬を出す事が出来る。これは本には書かれていなかった凄い能力だ!


例えば毒薬や麻痺薬の材料を手元に持っておけば、自分を起点として10m以内のどこにでも調合できる事になり、何かと戦わざるを得ない時など、圧倒的な優位点になる。


ただ、目視できるところじゃないと無理みたいだ。例えば障害物越しだったり、生物の体内に直接放り込むみたいな事は出来ない。


二つ目は、出来上がる薬の性状についてだ。液体や粉、粉と言っても粉の粒径を自由に設定できるのか?

これも可能だった、液体の溶媒はおそらく水だと思うがそれもどこかからか集められるらしい。


三つ目は、薬膳とされる料理も対象かどうかだ。

カレーを思い浮かべるとこちらの世界の香辛料らしきものと配合割合が分かった。つまり薬膳は対象だ、これは有難い。



日が暮れてきて、辺りが少し暗くなってきた。

概ね調べられることは調べられたと思う、明かりもないので宿に帰って今日の情報から今後どうしていくかを考えよう。

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