第3話 オナージュの町

とは何なのかだが、こうなる事をトールはだいぶ前から聞いていたらしく、家を追い出される準備をしていたということだ。

家に荷物を置いておくと取られてしまうので、必要になりそうな物を、予め別の場所に隠していたのだ。


森の中を記憶を頼りに歩いていくと、大きな木の少し高い所に洞があった。

中を探ると、葉っぱで隠してあるみすぼらしい大きな巾着状の鞄が見つかった。


中を見ると、硬貨らしき四角い金属片、小型のナイフ、服や靴の予備、干し肉のような食べ物等が入っている。


金属片は数えてみると、色合い的に鉄のような硬貨がかなり多く100枚は超えているようだ。さらに銅のような硬貨が数十枚ある。


トールの記憶をたどると、鉄で出来たものが鉄貨、銅で出来たものが銅貨で、手のひらサイズのパンが1鉄貨、ボロい宿の素泊まりが10鉄貨。

10鉄貨が1銅貨に該当する様だ。とするとこの世界は10進法が浸透しているのだろうか?


しかし、鉄貨を作る方が銅貨を作るより融点の差で圧倒的に難しそうだが鉄貨の方が価値が低いのか。鉄貨と呼んでるが、実際は違う金属かもしれない。


パンから考えると、ざっくり計算で1鉄貨が100円程度になる感じ。

そうすると素泊まり1000円はボロいにしても安い気がするが、食料品の供給が不十分で価値がかなり高いのかもしれない。

流石にビッグマ〇クはこの世界にないだろうし、経済状態を簡単にはかるのは難しい。


仮に1鉄貨幣が100円とすれば、数万円程度は持っている事になる。

金を稼ぐのが大変そうな環境で15歳の人間がこれだけ持っているという事は、元のトールは勤勉だったのだろう。

心の中で感謝し、有難く使わせてもらおう。


さらにトールの記憶によれば、歩いて1時間程度の所に町があるようだ。

その町には、物を納品して金を稼いだり、求人が出ていて日雇い労働や害獣の駆除などでお金を稼ぐことが出来る、

日本で言うところの派遣会社やハローワークのような総合ギルドという組織がある。

民間なのかこの国が経営しているのかは記憶にないから不明だ。


ギルドは元々、中世に誕生した職業別組合を意味する単語のはずなので、

この組織がギルドというのはふさわしい名称じゃない気がするが、まあいい感じに脳内で変換された言葉なんだろう。


とりあえず町に向かって、宿を取り一晩、今までの経緯とこれからどうするかを考える事にしよう。

天主とやらが言っていた薬師の加護とやらも、おそらくは生活に活用できるだろうし。


鞄を担ぎ上げて、町に向けて歩き出す。



町はオナージュという名前で、見た感じ住人はどんなに多くても数百人もいなさそうな感じだ。

道も石などで舗装されておらず、土そのままだ。


まずは宿を取ってから、総合ギルドに向かおう。

総合ギルドに向かう目的は書物だ。この世界や加護などの事をざっくりでも調べておきたい。

そもそも読む事が出来るのか分からないが、しゃべる事は出来るので何とかなって欲しい(願望)。


記憶を頼りに宿っぽい2階建ての木造の建物に向かう、日本の小さいアパートぐらいのサイズの家だ。

中に入ると恰幅の良い中年女性がカウンターのような場所に立っている。


「おや、トールじゃないか!泊りかい?」


なんとなく記憶にある女性なので、おそらく仕事か何かで何度か泊った事があるんだろう。


「ああ、一晩泊まりたいのですが。」


「何か雰囲気が変わったような気がするけど、まあいいや。いつも通り10鉄貨で先払いだよ。夜と朝の食事も要るなら18鉄貨だ。」


1銅貨じゃなくて10鉄貨?あまり銅貨がこの辺じゃ使われてないのか?

この世界の食事レベルも気になるし、とりあえずここで取ってみるか。


「食事も有りでお願いします。」


全て鉄貨で支払う。


「まいどあり!2階の一番奥の部屋だよ。明かりやお湯が要るなら声をかけておくれよ、もちろんどっちも別料金だよ。」


金属製の鍵を渡された。鍵の形は単純な旗状構造なので、いわゆるウォード錠のかなりシンプルなタイプの様だ。

とりあえず部屋を見てみるかと、階段を上り部屋に入る。


部屋は大体4畳ぐらいのサイズで、シンプルなベッドと掛け布団のようなものと机と椅子が1セットあるだけの部屋だ。

窓は跳ね上げ式の木で出来た窓、まあガラスなんてこんなところにあるわけないか。

電灯はもちろんのこと、明かりのようなものは無い。トイレや風呂も当然無い。

夜は早めに休まないとどうにもならないな、もしくはランプ?を借りるかになる。


とりあえず、総合ギルドに行ってこの世界の情報収集をするか。

宿を出て、総合ギルドに向かう。この世界も外出時は、鍵をカウンターに預ける仕組みなんだな。



総合ギルドは、宿より二回り程度大きい建物で仕事探しや納品のためか、10人ぐらいの人がいるようだ。

受付みたいなところがあるので行ってみると、カウンターにいる見覚えのある40歳ぐらいの前髪がやや寂しめの男性に声をかけられた。


「どうしたトール、仕事を探しに来たか、それとも薬草の納品か?」


身の上を話すか少し迷ったが、この町に居続けたところで将来があると思えないから

大きい町に移動する事になるだろう。なので、問題ないか。


「実は、最近の不作などが原因で家を追い出されてしまいまして。」


「あ~…、口減らしってやつか。それでどうするつもりか予定はあるのか?」


「とりあえず、本格的に仕事をするにあたって今後は読み書きや計算ができるようになりたいのと、ここだと少し行った所に追い出した家族もいるし、この町でずっと暮らすのは無理があると思うので別の大きな町に行こうかと思ってます。

このギルドに参考になりそうな文献はありますか?」


「それなら、小さいギルドではあるがうちにも少し文献があるぞ。ほとんど利用する奴がいないけどな。二階にあるから案内してやるよ。」

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