第2話 転生、そして追放
気付くと森の中で倒れていた。全く見たことが無い景色だ。
と思った途端に、よく分からない記憶や知識が流れて込んでくる。
どうやらトールと呼ばれる人物の記憶や知識の様だ、奇しくも俺も日本ではトオルという名だった。
ただイントネーションが違うようだ。
「はーこりゃ、参ったなあ。」
先ほどの光の巨人(神?)たちのやり取りから察するに、別世界のトールという人物になってしまったと考えるべきか。
元の世界の俺はどうなったんだろう?これが夢でなければ、おそらく何らかの形で死んだんだと思う。
しかしその辺の記憶は曖昧で全く覚えがないので、突然死だったのかもしれない。
それに、どういう原因で元のトール君の人格?魂?が消えてしまったのかもよく分からない。
前にスマホで見ていたネット小説のような展開だが、自分に起こるとは思わなかったな。
何にせよ、俺はこの世界でトール君として生きていくしかないようだ。
ま、しょうがない。悩んだところでどうもならん、前向きに行こう、前向きに。
トール君、君の分まで頑張って生きるよ、多分。
とりあえず身の回りの確認をすると、服は長袖のシャツに、七分丈のズボンのようなもの。下着、も一応履いてるな。かなりごわごわした布で、明確に粗末な服だ。
靴も、靴というかなにがしかの皮で出来たサンダルような物を履いている。
辺りを見渡すと、池のようなものが近くに見える。
とりあえず自分の顔を確認してみるか。
汚い池だが、水面をのぞき込むとぼやっと自分の像を結ぶ。
「おっ、結構イケメンじゃないか俺。」
ボサボサしたベリーショートの黒髪に平たい顔で日本人に割と近い顔。
超絶イケメンというわけではないが、それなりに顔は整っているように見える。
記憶からするとトールは15歳で、見た目も明らかに若い。
元の世界の年齢は32歳だったので、若返ったって事になるか。
見える景色から察するに、身長は元の世界と大して変わらないから170cmちょっとぐらい。
やや痩せているが筋肉質で、これは普段から森で採取や小動物の狩りをしているからのようだ。
ふーむ、と色々思案していると急に大声が響いた。
「おい、トール!さっさと家に来い!今日はお楽しみの日だって事を忘れたのか!」
声がした方を見ると、ニヤニヤしながらこっちを見ている男がいた。
釣りあがった小さい目に、上を向いている鼻と、パッと見で性格が悪いクソガキという印象だ。
記憶を辿ると、どうやら1個上の兄、名前はノルン。
どうやらトールは貧乏な農家の三男らしい。
そういや、トールの知識のおかげか言葉は普通にわかるし、しゃべる事もできる様だ。
これは助かるな、いきなり言葉が分からない所に放り込まれてたら最悪だ。
どうやら、うまい具合に日本語に脳内で変換されているようだ。
例えば、故事成語やセクハラパワハラのような最近の造語なんかも、もしかしたら通じたりするのか?
「何を黙って突っ立ってるんだ、さっさとこっちに来いウスノロ!」
思い出してきたが、貧乏農家にありがちな子減らし、要は今日で家から追放されるようだ。
子どもが6人もいるので、跡取りになる長男とそのスペアの次男は残して、それなりに一人でも暮らしていけるだろうとの判断で、まずは三男の俺を放逐するという事。
転生に続いて、次は追放されるわけか。
性格が悪そうなノルンと一緒に、とりあえず家の方向に歩いていく。
さっきからずっとニヤニヤしているノルンの身長は頭一つ分ぐらい小さい。
しばらく歩いて家に着く、全て木で作られた、お世辞にも立派とも広いとも言えず
はっきり言ってみすぼらしい家だ。天井もいい加減な作りで、雨漏りしそう。
こんな所に、夫婦と6人の子供が住むとかキツイな。
中に入ると、神妙な顔をした壮年の男性が立っている。どうやらトールの父の様だ。
「トール、前に言った通り、悪いが今日でお前には家を出て行ってもらう。
知っているとは思うが、その日暮らすのが精一杯な上に、今年は酷い凶作だ。
お前をこのまま置いておくことはとてもじゃないが無理だ。餞別なども渡すことは出来ない、すまないな。」
「ハハハッ、そういうことだ。さっさと出ていけトール!」
どうも、このノルンとトールは反りが合わなかったみたいだな。
しかし二人とも身長が160㎝ぐらいか、トールよりもだいぶ小さい。
新しい中の人になった俺からすると、父親にもノルンにも全く親愛の情は無いただの他人なので、一声かけてさっさとおさらばするか、【例の場所】に色々物もあるようだしな。
「分かった、今まで世話になった。」
二人は驚いた顔をしていたが、嫌だと泣き喚くとでも思っていたんだろうか?
正直、江戸時代みたいに丁稚奉公に出されたり、奴隷商みたいなのに売り渡されるよりはずっとマシだし
こんな所に居続けたところで、将来どうなるかは目に見えている。
特に荷物も持たずに家を出て例の場所に向かって歩き出した。
そういや母親や他の兄弟がいなかったが、農作業でもやってたんだろうか?
一応は肉親が家を出るのに、結構薄情なもんだな。
こんな状況なのに、不安感がやや薄いのはトール君の記憶のおかげである。
そう、向こう数日に限っては生活の目途は付いているからだ。
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