転生薬師は昼まで寝たい

クガ

王国脱出編

第1話 転生

しばらくの微睡みを経て、目がはっきりと覚める。


時間を確認したら、もう昼前か。

今日もよく寝た。睡眠が十分に取れるのは若く健康な証拠だ。


ベッドから出て、着替えを始める。

着替えを終えたら、階段を降りて扉を開ける。


『相変わらず起きるのが遅いな。もう昼だぞ。』


「長い人生、そんなに生き急いでどうするんだ?良い頃合いに寝て、良い頃合いに起きる。素晴らしいことじゃないか。」


『まあそう言われればそうかもしれんな。』


図体のデカい居候とのやり取りももう慣れたもんだ。


そんな俺だが、元々はこの世界で生まれ育ったわけではない。

こういう生活を送るまでに、かなりの紆余曲折があった。


ふっと頭によぎる、この世界のここまであったいきさつ。


かなり古い言葉になるが、元は日本で放送されていたドラマか何かだったかな?



思えば遠くに来たもんだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



気付くと、何かに浮かんで緩やかに押し流されているような感覚があった。

なんだここは?一体全体どうなっている??

何がどうなってこういう状態になっているのか、さっぱり思い出せない。


意識がはっきりしてきたので周りを見てみると、かなり巨大おそらくは100メートル近くの直径があるチューブ状の通路を何かの力でゆっくりと押し流されているようだ。

ゲームが好きな俺としては、某悪魔合体ゲームの、とある経路のワープゾーンが頭に思い浮かんだ。


なんだこれはと自分の手のひらを見ると青い半透明状で、驚いて全身を見るとこれまた青い半透明。

眼も半透明だとしたら物が見えるわけがないはずだが…


おいおい、ということは俺は死んで幽霊にでもなっているのか?

この巨大なチューブが三途の川とか?


夢にしては意識がはっきりしすぎているし、これは現実なのか…


周りをよく見渡すと、自分と同様に青い半透明状の人間のようなものが大量に漂っていて、全て緩やかに同じ方向に流されている。


ただ、俺のように周りをキョロキョロ見渡している者は皆無で

皆、うつむいた状態で身じろぎせず流されているように見える。


とりあえず、平泳ぎのようにジタバタしても流される速度や漂っている位置が変わったように見えないので、どうやらどうしようもないようだ。


うーん、三途の川という概念があるなら、このまま進んでいくと成仏してラーメンが食べ放題、コーラが飲み放題の天国に行くんだろうか?


そんな悪い事をした記憶も無いし地獄はないだろう、と思いたい。もしくは生まれ変わるとか??


色々思案していると、突然目の前に光り輝く巨大な手のひらが現れた。

驚いてる暇もなく、その手のひらに全身を掴まれ、巨大なチューブから引き抜かれてしまった。


そのまま凄い勢いで引っ張られ続ける事、体感で数十秒。引っ張られるのが収まったと思うと、手のひらが開かれた。


おそるおそる周りや下を見てみると、巨大な両方の手のひらの上に俺を置いて掲げ上げている。頭のような部分は平伏している。

手のひらでこの大きさなら全身が数十メートルはある光り輝く巨人?のようだ、光線とかも出せるかもしれない。


周りを見ると、真っ暗な空間のところどころに巨大な光が点在しているのが見えた。

この光り輝く巨人が何人かいるのだろうか?


突然大きな声があたりに響く。


『おお、大いなる天主よ。お伺い奉りまする。

天主が創りたもうし人の子の体に、大いなる齟齬が生じておりまする。

体は健勝なものの、魂が既に消滅しておりまする。


小さな齟齬ではありまするが、異常な状態故に全命脈の歪みの恐れがある故

齟齬を解消せんがために、別の世の魂にてこれを補填いたすことをどうぞお許し願いたい』


声が止まってから、数秒ぐらい経ったところで

突然目の前が巨大な光に包まれた。


よくよく見ると、かなり離れた位置に、俺を掲げている巨人が幼児に思えるレベルの

さらに巨大かつ尋常じゃない光量を持った光の巨人が立っている。

そして別の大きな声が響く。


『よかろう、その魂にて補填することを認める。』


『ご配慮傷み入ります』


やり取りの後、小さなささやき声が聞こえる。


『矮小なる異星の人の子よ、意識があるのであれば大いなる天主に賛辞を述べよ』


俺を掲げ上げている、光の巨人がこちらに向かってささやいているようだ。


何のやり取りをしてるのかもよく分からないし、言ってる事に嫌な予感を禁じ得ないが、もう死んだ(っぽい)身だし、ご機嫌取りをすれば天国行きも有り得るかもと思いなおす。


「大いなる天主よ、多大なるご厚情に矮小なるこの身、感動を禁じ得ません。

ありがたき幸せに存じます。」


しばらくの静寂の後、大きな声が再度響く。


『ほほう、魂だけの存在となりながら意識を持ち得て、さらには殊勝な態度。見るべき所のある魂よ。

気に入った、特別に我の加護を授けてやろう。この者はどういう者か?』


『死の前に、薬学を修めていたようにございまする』


『よかろう、我が薬師の加護を授ける。矮小な人の子よ、我の偉大さを存分に噛みしめ受け取るが良い。

これにてこの件は了とする。』


その声が響くと同時に、辺りが一瞬で完全に真っ暗になり、何かに急速に引っ張られるのを感じた。

さっきから何の説明もなく振り回され続けている。


薬学を修めていたとか言っていたが、大学で薬学を専攻していたわけでもなく、仕事でもないが…。


ふと思い出したが、まさか少し前に始めた登録販売者の勉強と受験の事だろうか?

一応は合格した記憶もある。


大学の専攻は化学なので、どっちかと言えば化学の加護の方が良かったかもしれないなあと

のんきに考えながら、何かに引っ張られ続けた。

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