第16話 衝撃の真実

「今すぐ、その四人のロープを解きなさい!」


この状況からは考えられないチャリパイの解放を訴える言葉が、大勢いる信者側の方から聞こえた。


「誰だ!今言ったのは!」


朝唐の鋭い視線が、信者の方へと向けられる。

まったく予想外の出来事に、信者達もざわめきながらその声の主の方へと振り返っていた。


「どうして信者の中に、オイラ達の味方がいるんだ……?」


チャリパイの四人も、最初はあまりに唐突なその予想外の出来事に戸惑っていた。

しかし、声を発した主のその姿を見た途端に、全ての謎は明らかにされた。

ロープに縛られたまま、大きく目を見開き四人の声がぴったりと揃う。


「ああ~~っ!あれは!!」

「あれは、和子さん!」


そこに立っていたのは、森永探偵事務所の今回の依頼者である朝田和子の姿であった!


「ヤッタわぁ~私達、助かるかも」


窮地に現れた思わぬ助っ人の登場に、喜びを隠せない子豚とひろき。

しかし、シチローとてぃーだは、そうとは思っていなかった。


「バカなっ!こんな所に1人で現れて、一体何が出来るっていうんだ!」

「これじゃあ、和子さんも奴らに捕まってしまうわ……」


確かに、和子1人この場所に乗り込んで来たところで、態勢に変わりは無いように思える。和子にしても、その位の事は分かりそうなものだが、チャリパイの最大のピンチにいてもたっても居られなかったのだろうか?それとも、何か勝算のようなものがあるのだろうか?


「おや、まだ1人ネズミが残っていたのか」


反乱分子が女ひとりなのを見て、余裕の表情を和子に向ける朝唐。


「あら、私がネズミに見えて?教祖様」


和子も負けてはいない。一体、そんな余裕がどこから出てくるのだろう。


「なんだお前、私に向かって大層な口をきくじゃないか!一体、何者だ!」


まるで朝唐を挑発しているような和子の口振りに、見ているシチローも気が気では無い。


「あぁ~余計な事を!あまり朝唐を刺激しちゃダメだって……」

「でもシチロー。あの和子さんの余裕、何か異常じゃない?」

「もしかして、和子さん警視庁の“女捜査官”とかだったりして!」


子豚が淡い希望を抱きながら、そんな妄想を口にする。しかし、それがそんなに大げさとは思えない程、和子の態度は堂々としていた。


「朝唐教祖。私が誰だか分からないの?きっと、てぃーださんの特殊メイクのおかげね…だったら、これならどう!」


そう言って、和子はまるでスパイ映画のワンシーンのように、自分の顔に貼り付いた特殊素材のマスクを、ベリベリと音をたてながら剥がし始めた。朝唐は勿論のこと、チャリパイの四人、そして礼拝堂を埋め尽くす信者達まで、そこにいる全ての人間がその和子の様子を固唾を飲んで見つめていた。

そして、マスクを全て剥ぎ取った和子の顔を見た朝唐は、これ以上は無いといった驚き様で叫ぶように和子の事をこう呼んだのだ!



「か…か~ちゃん!!」

「は…………?」


揃って目が点になる、チャリパイの四人。


「“か~ちゃん”って言わなかった?今……」

「あたしにもそう聞こえたんだけど……」

「“和子”の“か~ちゃん”じゃなくて、奥さんって意味のか~ちゃんよね?」

「……って事は、和子さんは朝唐将宙の奥さんって事に……」



「なんですとおおおぉぉぉ~~~っ!!」


衝撃の真実に、声を揃えてぶったまげるチャリパイの四人であった!


「まったく、アンタって人はっ!

仕事もせずに朝っぱらから焼酎ばかり飲んでど~しようも無いから家から追い出したら、今度は変な怪しい宗教団体なんて始めちゃって!しかも、かおりを信者にするなんて、一体どうゆうつもりなの!かおりは私が連れて帰りますからね!」


この教団では“神”に最も近い存在とされる大教祖『朝唐将宙』を、信者達の目の前で怒鳴りつける和子。


「そうはいくかっ!かおりは俺の娘だ!」

「なに言ってんのよっ!アンタなんかにかおりを任せてなんかいられないわよっ!」

「うるさい!大体、お前は口うるさ過ぎるんだ!かおりだけは譲らんからなっ!」

「それはアンタがあまりにもだらしないからでしょ!かおりは連れて帰ります!」

「なにを!かおりは渡さん!」


そんな二人の様子を見ながら、てぃーだが呆れたように呟く。


「要するにコレって、かおりちゃんをめぐっての単なる夫婦喧嘩だったのね……」


戸惑う信者達、そして冷めた表情のチャリパイの視線をよそに、朝唐将宙とその妻、和子の夫婦喧嘩は続いた。


「大体、ゴミの捨て方だって、ペットボトルとキャップは分別しなさいってあれほど言ってたのにやらなかったし!」

「お前こそ、俺がニンジンを嫌いなの知っていて、わざわざ晩飯のカレーにニンジン入れやがって!」


その内容は、日常の些細な出来事にまで及び、二人の罵り合いはヒートアップしていく。可哀想なのは、この模様を呆然とした表情で見ている大勢の信者達である。

何しろ、今まで“神”と崇め続けてきた大教祖『朝唐将宙』が、今はその威厳もどこへやら、カレーにニンジン入れたなどと甚だスケールの小さい事で醜い言い争いをしているのだから。


「とにかく、かおりを返して頂戴!」

「いや!かおりは渡さん!かおりは俺と暮らすんだ!」

「わかったわ!そこまで言うのなら、出るとこ出て話をつけましょうか!」

「望むところだっ!裁判でも何でも受けて立ってやる!」

「あ~あ~ヤバイ雰囲気になってきたな…とうとう裁判とか言い出しちゃったよ、二人共……」

「裁判になったら、和子さんの方が有利なのかな?……やっぱり……」


ロープで椅子に縛り付けられながらも身の危険の心配が無くなったチャリパイの四人は、まるで他人事のようにそんな話をしている。


そしてシチローが心配する通り、朝唐夫妻(いや、朝唐は本名では無いので朝田夫妻と言うべきだろう)の対立は、とうとう最悪の事態を迎えてしまった。


「離婚だ!離婚!お前とは、話にならん!」

「ええそうね!アナタがそこまで言うのなら仕方が無いわね!でも、かおりの親権は私の方にしてもらいますから!」

「ふざけるな!親権は俺の方だっ!」


激しい口論の末、ついに二人の口から『離婚』の二文字が持ち上がった。























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