第15話 捕まっちゃった!
白い壁に大きく描かれた鴉信教のシンボルマーク……そしてその前には、等身大よりも少し大きな教祖『朝唐将宙』の銅像。全体的に黒、白、灰色のモノトーンでまとめられた“第九サティアン”の礼拝堂に、その朝は殆ど全ての信者達が集められていた。
彼らの前にはまるで見せしめのように、シチロー、てぃーだ、子豚、ひろきの四人がそれぞれ椅子にロープで縛られた形で一列に並べられていた。この中に、かおりの姿は無い。やはり彼女はこの施設の中では、何か特別な待遇を受けているらしい。
「一体、何が始まるのかしら?」
「さぁね……少なくとも、楽しい事で無い事は確かだと思うよ……」
不安げな表情でお互いの顔を見合わすチャリパイの四人。
すると、ともなく整列した信者達が中央で真っ二つに割れ、その奥から教祖『朝唐将宙』が何人かの幹部を引き連れて悠々と登場して来た。
信者達から沸き起こる拍手。それに両手を挙げて応えると、朝唐は、シチロー達の顔をひとりひとり眺めながら、口角を上げて嫌みめいた笑い顔を見せた。
「どうやら、この施設に大きなネズミが4匹もいたらしい」
「ネズミだったら、天井裏にもっと沢山いたわよっ!」
朝唐の皮肉めいた発言に、てぃーだが負けじと応戦する。しかし、てぃーだのそんな返しも今の朝唐は全く動じる事は無い。むしろ心地良いような表情をしている。
「ワッハッハッ。これは活きの良いネズミ達だ」
そして信者達の方へと振り返り、得意の演説口調で話を始めた。
「諸君、この四人は我々の尊い修行活動を妨害し、この施設からの逃亡を企てたいわゆる“裏切り者”達である!よって、このような裏切り者にはそれに相当する重大な罰を与えなければならないだろう!諸君もそう思いませんか~~っ!」
「そうだぁ~~っ!罰を与えろおぉぉ~っ!」
朝唐の呼び掛けに、信者達も拳を高々と挙げ大声で応える。
“罰”と言われてこの後の処遇が猛烈に気になるシチローが思わず叫んだ!
「罰って何だよ~~っ!一体オイラ達に何する気なんだ~~っ!」
「スゲエ~ひどい事をしてやる!」
「キャア~ッ!そんなの絶対イヤだわっ!」
「ってか、“抽象的”過ぎて全然分からないんですけど……」
罰と聞いて、子豚が絶望的な表情で呟いた。
「きっと私達、この後わさび入りのシュークリームとか食べさせられるんだわ……」
「そんな罰で済むかっ!」
「じゃあ、罰って何よ!」
「さぁ…この教団の事だから、さしずめ『宗教儀式の生贄』かあるいは
『毒ガスソリンの人体実験』といったところかな……」
それは、罰と呼ぶよりは“処刑”と呼んだ方が相応しい。しかし、シチローのその言葉には妙なリアル感があった。
そして、シチローは天を仰いで大きな溜め息をつく。
「あぁ……チャリパイ初の大仕事だったのに、オイラ達の運命もこれまでかぁ……」
身動きも出来ない今の状況に、すっかりあきらめモードのシチロー。
「ちょっとシチロー!
シチローが三人を森永探偵事務所に誘った時のセリフを引き合いに出して、なんとかしろと猛抗議する子豚。
そして、そんな子豚にてぃーだが一言。
「そういえば、映画『タイタニック』も最後に主役のディカプリオが死んじゃったしね……」
「そんなぁ~~っ!」
客観的に考えても、チャリパイが助かる手だては皆無に等しい。
四人を縛り付けているロープはすこぶる頑丈で、全く解ける気配も無いし、閉ざされた教団施設の中には助けてくれる味方もいない。四人にとっては、完全なアウェイ状態である。
もはや出来る事といえば、神に祈る事くらいだろうか。
「あぁ!神様どうか助けて!……此処のじゃなくて、別の神様~~っ!」
いつも呑気なひろきも、この時ばかりは泣きそうな顔をしていた。
「さて、どんな罰を与えてやろうか!」
『毎日、毎日、何の変わり映えの無い生活に飽き飽きしていないかい?
ドラマや映画のような刺激的な経験をしてみたいとは思わない?
もし、君達がこの誘いに乗ってくれたならば、手に汗握る特別な経験を提供する事を約束するよ!』
シチローと三人が初めて出会った時に聞いたあの台詞が、再び三人の脳裏を横切った。確かに三人にとって、手に汗握る特別な経験には違いない。
だが、それも命があっての事である。死んでしまっては何もならない。
身動きもとれず助けも呼べない。そんな絶望的な状況から、チャリパイの四人は果たして抜け出す事が出来るのであろうか!
チャーリーズエンゼルパイ絶体絶命のピンチ!
「キャア~~ッ!こんなのイヤだあぁぁ~~っ!」
「誰か助けてえぇぇ~~~っ!」
声を限りに叫び始める、チャリパイの四人。しかし、閉ざされた教団施設の中で、助けなど来るはずも無い。
ところが、この四人の悪運の強さはハンパでは無いようだ……
奇跡は起こったのだった!
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