第43話 いいパートナーなれる資質を持ってる

Lilasリラ先生に連絡しました。10月31日の土曜日の夕食に誘われました。アルコールありです』

「じゃあその日、お兄ちゃんちに泊まれるようにお願いしておくね」


 前回、決めたつもりだったけど、また勇気がなくなってる。

 ごめん、意気地なしで。


『うん、おねがい』

「ところで、どこまで話したの?」

『えーと、事実だけで、出会ったのは両家族で海浜公園に行った時、その時一目惚れ的に好きになった、告白できないうちにあの洪水で消息不明、再会後告白した、と』

「じゃあ、もっといろいろ聞かれそうね」


『後で聞いた話だけど、芳幸よしゆきさんもいろいろ聞いたんだって。だから、俺たちの分も合わせて作品にしようと考えてるかもしれないです。ストーリーにもよると思いますが、そうなったら慈枝よしえさんは許諾します?』

「あらすじというか、プロットっていうんだっけ、それを見せてもらわないと何とも言えないわね。はやて君は?」


『俺はLilas先生の作品を出版する出版社に勤めてるわけですから反対できないです。反対したかったら仕事を辞めるしかないわけで、だから完全に板挟みです。R18要素でもあれば別ですけど』


 R18!

 そんなの、まだよ。


 あるいは、ひょっとしてガイドブック的なものになったりして?

 昔、お母さんの本棚にあった雑誌にが載ってて夢中で盗み読みしたことがあった。確か、エル何とか、というような名前の雑誌だったと思う。


『Lilas先生はそんなの書いたことがないですし、事前にこういう作品を書こうと思ってるんだけど、という相談があると思います』

「まあ、よっぽどじゃない限り反対しないかな」

『同感です。じゃあ、Lilas先生に返事しておきますね』


 今週末か~


「うん、おねがい。私はお兄ちゃんに頼んどくね」


『はい、じゃあおやすみなさい』

「おやすみなさい」


 ヨシ!


【慈枝】お兄ちゃん、今電話いい

芳幸よしゆき】おう、いいぞ


 …………


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『いらっしゃい。琴菜ことなちゃんのお兄さん。はじめまして、武川さん、私は酒巻さかまき 蘭華らんかといいます。蘭華と呼んでください』

『こんにちは、蘭華ちゃん。はやてでいいですよ』

「はじめまして、武川たけかわ 慈枝よしえです。今日はお招きいただきありがとうございました。私のことは慈枝と呼んでください」


『颯さん、慈枝さんって綺麗な人ね。あの芳幸さんの妹さんだから当然か』

「そんな、綺麗だなんて……それより、蘭華ちゃんが中心となって琴菜ちゃんを探して、見つけてくれたんですよね。それで私達も付き合えるようになったんだから、感謝しかありません。ありがとうございました」

『うれしいです。そう言っていただいたことも、お役に立ったことも』


『蘭華~いつまでも玄関先で話してないで、上がってもらって』

『は~い。ごめんなさい、上がってください』


『「はい、お邪魔します」』


 リビングに行くと、女性が迎え入れてくれて、きれいな金髪の男性がキッチンに立っていた。


『武川さんいらっしゃい。 私は酒巻さかまき 莉良りらです。私の作品を読んでくれてるのね、ありがとう。あ、莉良と呼んでね』

『涼原君、武川君の妹さんいらっしゃい。俺は、Леонидレオニード Павловичパーヴロヴィチ 酒巻さかまきです。ЛеонидでもЛёняリョーニャでも』


「武川 慈枝です。慈枝と呼んでください。兄ともども、娘さんにお世話になりました」

『蘭華が役に立ってよかった』


『ささ、食事にしよう。蘭華案内して』

『はーい。慈枝さん、颯さんこちらへどうぞ』

『「ありがとう」』


『今日のメニューはロシア料理の簡単なコースだ、といっても全部一度に並べてるぞ』


『これはオリヴィエサラダ。簡単にいうとポテトサラダだ。そっちの漬物は、ザワークラウトのようなものだな。で、ビーフストロガノフ、クレープみたいなのがデザートでブリヌイという。飲み物はクヴァス、蘭華のはアルコール分1%未満のものだ」


 オリヴィエサラダおいしい。


「兄が、ポテトサラダが好きで、我が家ではよくポテトサラダが出るんですが、それとは少し違っていておいしいです」

『サワークリームを使ってるから普通のポテトサラダとは少し違うな』

『芳幸さんが好きっていうことは、琴菜ちゃんが練習してるんじゃない』

『うん、俺、こーちゃんの練習台になってるよ』


「みんなおいしいです」

Лёняリョーニャの料理はおいしいわよ』


「家事の分担をされてるんですか?」

『分担を決めてるわけではないけど、Лёняは結構やってくれるよ』

『まあ、手つかずで残ってるものはさっさと片付けたくなる性分でな』

「私の父母は、私が中学生の頃はかなり忙しくて私たちも家事を分担してたんです。兄は料理と洗濯、私は掃除を担当してました」

『そうなの?』

「はい、その際父母も似たようなことを言ってた記憶があります」


『颯君は?』

「颯君も結構料理上手です」


『俺、大学は実家を離れて一人暮らしだったんですけど、その前に父母に仕込まれたんです。一人暮らしになった後は、母が時々検査しに来て』


『検査、それは大変だったね。どう、面倒と思った?』

『最初はそうでしたけど、1年もしないうちに息してるのと同じぐらい自然にするようになりました』


『うん、合格』

『慈枝さん、涼原君はいいパートナーになれる資質を持ってるぞ』

『「それは、ちゃんと話し合って進めたいと思ってます」』

『おやおや、シンクロしちゃって』


 私も顔が熱いし、颯君が赤くなってる。


『颯君、家事は24時間勤務みたいなものだから、そのことを忘れないようにな』

『はい』


 …………


「あの、兄と琴菜ちゃんの出会いと再会で作品を作られるということを聞きました」

『ああ、この前お話を聞かせてもらって、今は登場人物のパーソナリティとかの初期設定を検討してるのよ。それで、できればあなた達のエピソードも取り入れたいと思ってる。オムニバス形式になるかどうかはわからないけど』


「具体的にはどのようなお話しになるんでしょう」

『まだプロットすらない段階だから、具体的なところは何もないわ。ただ私は氏名を変えて、都市間の駅の数とか移動に要する時間はリアルなものとするけど都市は架空のものとする。観光スポットの構造、遊園地ならそれぞれのアトラクションの位置関係とかはリアルにするけど、観光スポットの名前はほとんど出さないわ。お店なら扱ってる商品、飲食店ならメニューはリアルなものとするけど、商号は創作するの』

『安心できるかしら?』


 それなら身バレしないかな。


「プロットが完成したらぜひ見せてください」

『当然よ。颯君いいでしょ』

『SNSにあげたりしなければ……慈枝さんはそんなことしませんから大丈夫ですよ』

『あらあら、どっちの味方かしら?』


『じゃあ、交渉成立ということで、少しお話を聞かせて欲しいわ』


『待て、追加のデザートと飲み物を持ってくる』


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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