第42話 緑と赤と青

 私たちと晶たちはほぼ同時に帰ってきて、午前中で切り上げてきたお母さんが出迎えてくれた。



寿々花すずかちゃん、彩葉山いろはやま公園はどうだった?』


『すっごいよかったです』


『あの公園、所々にある常緑樹がありますよね』

「うん。そうだっけ?」

『常緑樹の深い緑と空の青がかえって紅葉を鮮やかさを引き立てていると感じました』


『そうか、俺たちは葉っぱが落ちる前のことはあんまり気にしたことがなかったが、緑と赤と青が、なるほどそうだな』


『公園内の水路と池の様はまさしくあの和歌の再現でした』


『落ち葉が水路を埋め尽くしてして、地上に赤く染めた布を敷いたようでした』

『なるほど、それがあの和歌に歌われた情景ですね』

『まあ、“神代も聞かず”とは言い切れないですが』


『ここからはあの和歌からは離れているかもしれませんが、水の流れで時々落ち葉が浮いてない部分が現れるんです』

『落ち葉が浮いていない部分は空の青さが写っているんですが、それが水中から水面を通して空を仰ぎ見ているみたいで』


 この子、すごい感性を持ってる。


『自分たちが住んでるところにそこまで感動するスポットがあるのは、やっぱり誇らしいよ』


あきらは、どうだった? 退屈したりしてないでしょうね」

『退屈なんかしてないよ。寿々花ほどすごい表現はできないけどいい景色だと思ったよ。それに、寿々花が喜んでるとなんかうれしいし』


 わかってるね。


『慈枝さんたちは滝を見に行ったんですよね』

「うん、4段落ちする滝はすごい迫力あるし、やっぱり紅葉がきれいだったね」

『写真撮って来てるよ』


『これは?』

「恋人の聖地よ」

『ここは鐘や南京錠ではなくモニュメントだな』

『……いいですね』


『「?」』

『ああ、この二人ね。年齢が離れたカップルがいてね。写真撮ってもらってもいいですかって』

『え』

「聞いたわけじゃないんだけど、男性のほうは30代後半、女性はハタチぐらいだと思った」

『ずいぶん離れてますね。でも、こういうのってちょっとロマンがありますよね』

『俺もそう思うよ、いや、この二人、とってもほほえましかった』


『(ヒソヒソ)慈枝さん』

「(ヒソヒソ)寿々花ちゃん?」

『(ヒソヒソ)男たちは単純にほほえましいって思ってるみたいですが、これっていわゆるパパ活っていうやつだったりしないですか?』


『晶君たちはお昼何食べたんだ?』

『ケバブです。彩葉山公園の駐車場にケバブ屋さんのキッチンカーが来てたんです。おいしかった~』

『それは何よりだよ。俺たちは滝の近くのレストランで、こんにゃく餅、生ゆばの刺身、アユの塩焼きとご当地サイダーだよ』

『あ、それ、おいしそうですよね』

『おすすめだよ』


「(ヒソヒソ)それ、私も考えたけど、二人ともとっても幸せそうな顔してたから、多分違うと思う」


『(ヒソヒソ)フフフ、じゃあおめでたいことなんですね。そっかー』

『(ヒソヒソ)ところで、カレカノになるとそんなに表情って変わるものですか?』

「(ヒソヒソ)颯君なんて、しょっちゅう見破られてるよ」

『(ヒソヒソ)え、そうなんですか。気を付けないと』

「(ヒソヒソ)寿々花ちゃんも晶もいい顔してるよ」


『慈枝さん、そろそろ俺たち帰りますか』

「あ、もうこんな時間、寿々花ちゃん、晶のことよろしくね」

『はい』


『晶君達は電車だろ』

『うん、5時ぐらいに出発するよ』

『じゃあ、まだしばらくこの家にいるんだ』

『おとうさん、おかあさんが買い物に行って二人っきりになったとしても、押し倒したりしてはだめだぞ』

『そ、そんなことしない……というかなんですかその細かい設定は』


 寿々花ちゃん、一瞬だけ、ほんのちょっとだけムッとした。

 へー、もうそんなこと考えてるんだ。


『おや、俺たち買い物に行ったほうがいいのか、2時間ぐらい』

『買い物に行かれるんなら私も連れて行ってください。いい商品を選ぶコツを習いたいです。特に野菜の』

『ええっ!』


 W


「じゃあ、私達帰るよ」

『うん、気を付けて』

『そうだ、エナドリもってけ』

『ありがとうございます。助かります』


「晶たちも気を付けてね」

『うん』


 …………


「エナドリだけじゃなくてね」


『……ん』



『後、何時間でも走れますよ』


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Valentinaワレンチナ】みなさんこんばんわ

【Gr:Earhartイヤハート】こんばんわー

【Gr:Litvyakリトヴァク】こんばんわ

Halseyハルゼー】やあ、ワレンチナ


【Valentina】あれ、シェパードさんとブリーズさんは?

【Halsey】シェパードさんは寝落ちして風邪、ブリーズさんは土日は無理だって

【Valentina】そうですか


【Earhart】何か変なチームがワールドチャットでギャーギャー言ってたんです

【Valentina】なんてチーム?

【Earhart】確かVritra……ヴリトラっていったかな

【Litvyak】私はFenrir、フェンリルってチームが似たようにギャーギャー言ってたのに出くわした


【Halsey】お、またワールドチャットで吠えてるのがいる

【Valentina】Krakenって名乗ってますね

【Litvyak】クラーケンか!

【Earhart】ヴリトラ、フェンリル、クラーケンってみんな怪物だな

【Halsey】素行悪そうだから絡まれないように注意


【Earhart】シェパードさんとブリーズさんにはDM送っときます

【Halsey】こういう連中がいるとゲームが荒れるんだよな


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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