第41話 モニュメント「オシドリ」

 意気地なし……まあ、でもドキドキさせてくれたから。


 おやすみ、はやて君。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「お母さんおはよう……寿々花すずかちゃんおはよう。もう起きたんだ」

『あら、慈枝よしえおはよう』

『慈枝さん、おはようございます。その、朝食の準備を手伝おうと思って』


 晶に食べさせてやりたいのかな?


『えーと、その、慈枝さん、あきらは何が好きでしょうか?』


 やっぱり。


「晶はなんでも食べるけど、朝ご飯とかお弁当のおかずなら卵焼きが好きらしいよ」

『そうそう、甘めのね』

『本当ですか。じゃあ、砂糖を少し多めに使って』

『ちょっと待って』


 お母さん、キッチン収納を開けて何か探してる。


『じゃーん、マヌカハニー。これを使うとコクが出るよ』

『え、マヌカハニー……それはきっとおいしい卵焼きになりますね』

『注意すべきは水に溶けにくいから、先に水、薄口しょうゆとよく混ぜ合わせてから卵液を加えるのがコツよ』

『そうそう、あと、焦げ付きやすいから注意ね』

『はい。頑張ります』


 ごはんは……あと10分か。


「お母さん、私は味噌汁作るよ」

『具は冷蔵庫にあるものを適当に使って。ああ、長ネギは隼人はやとさんが採ってくるよ』

『私は、隼人さん謹製の漬物を準備しましょうか』


 寿々花ちゃん、手際がいい。

 寿々花ちゃんといい、琴菜ことなちゃんといい料理上手ね。私の高校生の時はどうだっけ?


『みんなおはよー』


 はやて君とあきらが起きてきた。


 ん?


『(ヒソヒソ)あれ、晶の表情が柔らかい』

「(ヒソヒソ)ほんとだ?」


『お、卵焼き』

『おばさんと慈枝さんに晶の好みを聞いたから』

『え、ありがとう。颯さん、寿々花は料理上手なんです』

『それはよかったね。慈枝さんも上手だぞ』


『なんか仲良しになってないですか?』

「何があった?」


『『秘密だよ』』

『隠し事するなんて悪い子ね』


 これは、何か話し合いがあったのね。

 そういえば、夕べ、颯君が部屋に帰ってきた後でもう一つ足音が聞こえた。


『ネギ、採ってきたぞ』

「お父さん、おはよう。ネギありがとう」

『おじさん、おはようございます』

『おはようございます』


 …………


『『『『『「ごちそうさまでした」』』』』』


『寿々花、卵焼きおいしかった。ありがとう』

『気に入ってくれてうれしい』


『慈枝さん、味噌汁おいしかったです』

「いつもありがとう」


『あー俺もなにか言ったほうがいいのか? ザワークラウトは俺が作ってるし……そうだ、ごはん旨かった。いつもよりもっちりしてて』

『隼人さん、無理に形容しなくていいのよ。隼人さんがいつも喜んでてくれてるのは知ってるから』


 あれは、かなわないな。

 年季が違うというか、息合いすぎというか……


 おや、寿々花ちゃんがワクワクした目でみてる。


 …………


 父母は、久々の休日出勤ということで出かけてった。


『大丈夫、俺車で送ろうか?』

『バスで1回乗り換えで行けますから大丈夫ですよ』

「晶、バスに乗るとすぐ寝ちゃうから気を付けたほうがいいよ」

『慈ねぇ、それ幼稚園のときのこと』

『慈枝さんたちはデートを楽しんでください。晶はちゃんと引率しますから』

『寿々花まで!』


『『行ってきます。戸締りおねがいします』』

『「行ってらっしゃい。気を付けて」』


『寿々花ちゃんっていい子だね』

「うん、とってもしっかりしてる」


『俺たちも出かけようか』

「はい」


 …………


「あのね、これから行く滝なんだけど、一部で“別れの滝”なんて言われてるの」

『あーそういう実例があるんですかね。まあでも、そんなのすべての場所がそうなる可能性がありますよ』

「え」

『だって、別れ話が行われたら、別れのなんとかでしょ。確かにそうかもしれないですけど、別れの高校、別れの商店街、別れのゲーセンなんてことは言いませんよね』

「そうなんだけど……」

『百歩譲って、それがジンクス的なものになってるなら、それを打ち破りにいきましょう』


「うん……そうね」

「颯君に話して良かったよ」


 …………


『紅葉がきれいだねー』

「颯君、こんにゃく餅だって」

『こんにゃくで餅? どんな味がするんだろう。お、湯葉刺し』


『お客様、ぜひうちで食事していってください」


「帰りに食べて行こ」

『そうだね。じゃあ帰りに寄ります』

『お待ちしております』



『大人2枚お願いします」


チケット売り場でパンプレットをくれた。


「このトンネルの途中に第1観瀑台があって、その奥のエレベータで上がったら第2観瀑台ですって」

『第1観瀑台の手前に恋人たちの聖地があるんだ。鐘かな?』

「行きがけに見ていきましょ」



『あ、これいいですね。慈枝さん、手前のブランコの左に立ってください』

「写真ね」

『撮りますよ』



「見せて」

『はい、これです』

「いいね。私をブランコの向かって右に立てたのは、このモミジを活かしたかったから?」

『そうです。うまく表現できました』

「颯君、写真上手よ」

『ありがとう』



『あの、すいません。写真撮ってもらっていいですか』

『はい、よろこんで』


 ん、男性は30台後半かな、女性はハタチぐらい?

 ああ、でも二人ともとってもいい表情だから、かな?


『ありがとうございました。あなた達の写真も撮りましょうか』

「お願いできますか」


 二人にはモニュメント「オシドリ」の両側に立って写真を撮ってもらった。

 “オシドリ”にはちょっと引っかかるものもあるけど、まあ良しとしよう。


「ありがとうございました」

『お気をつけてどうぞ』


 …………


『第2観瀑台からだと4段落ちの一番上の段が見えるんだ……すごいですね。人気の観光地であるわけがわかるよ』

「でしょー」


「滝をバックに写真撮ってあげる」

『はい、お願いします』


「いい表情の写真が撮れたよ」

『慈枝さんのおかげですよ』


『意外と寒いですね。慈枝さん大丈夫ですか』

「そうね、吊り橋渡って、川の向こう岸を通って帰りましょう」

『うん、すごい景勝地を紹介してくれてありがとう』

「喜んでもらえてうれしい」



 吊り橋で、心なしか颯君の顔が青かったし、ずいぶん真剣そうに手すりを握ってたけど、内緒。



『俺、生ゆば刺身とこんにゃく餅3種、お茶サイダーお願いします』

「私はあゆの塩焼きとこんにゃく餅3種、りんごサイダーお願いします」

『生ゆば刺身とあゆの塩焼き、こんにゃく餅3種が二つ、お茶サイダー、りんごサイダーですね』

『「はい」』


「ねえ、このあとなんだけど、淡水魚専門の水族館があるんだけど、行ってみない?」

『淡水魚専門とはめずらしいですね』

「そう、オオサンショウウオもいるの」

『それはすごいですね、ぜひ行きましょう』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 オシドリの繁殖期は春から夏にかけての時期で、その時はつがいで生活してますが、オスは育児に協力しないし、群れで暮らす冬にはパートナーを変えるとのことで、“おしどり夫婦”なんてとんでもないです。



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