第6話 寝ちゃったよ
『この辺って中学生の時以来なんですけど、だいぶ変わってるんですよね』
ここって、
「私が大学に入学した時と比べても、デパートがなくなって、郊外型の量販店が増えたわ」
『駅前のスーパーは、昔とは違うチェーンのスーパーになってますね。ここに良く買い物に来ましたよ』
私たちは喫茶
『
「ああ、雑貨屋さん。ファンシー系もあるのかな」
『ありますよ。母とこーちゃんの御用達のお店でした』
「あのね、私、ぬいぐるみが好きで、結構コレクションしてるの。28歳にもなっておかしいでしょ」
『おかしくはないですよ、ぬいぐるみの肌触りはいいですし、好みは人それぞぞれ……俺は子供の時に買ってもらったアニメのDVDを今でも持ってますよ』
「どんなアニメ?」
『もともとは1980年代にTV放映されたアニメで、包容力のある大柄なヒロインと小柄で意地っ張りな男主人公のスクールラブコメです』
「ハッピーエンド?」
『はい。原作コミックスはエンディングで指輪してました』
この時代のラブコメって、難聴系とか肉食系・草食系とかの変なラベリングに頼っていないから、見てて微笑ましいのよね。
「ふーん。今度見せて」
『はい。ただし、今時のアニメと違って絵はイマイチなのでストーリーで見ていただけると幸いです。今度持ってきましょうか?』
「DVD-BOXでしょ。持ってくるのは大変じゃない? 私がそっちに行ったときでもいいよ」
『は、はい』
「何緊張してるの?」
『その、俺の部屋で二人で見るわけで……あ、こーちゃんに立ち合いをお願いしておきましょうか』
「何バカなこと言ってんのよ。
……これは言っておかなきゃいけないのね。
「紳士でお願いします。ただし」
『ただし?』
「いずれは、そういう関係になる日がくるかもしれません」
私はその日が来るよう願うよ。颯君も願ってね。
「紳士たるもの、その暁にはそのように行動するのよ」
『え!』
「もう、恥ずかしいのを抑えて言ってるんだから“はい”って答えて!」
『は、はい……わかりました。慈枝さんに気に入ってもらえるように頑張ります』
「そんなに気負わなくていいのよ」
…………
「あ、これ可愛い」
『確かに、可愛いですね。プレゼントしましょうか?」
「だから気負わなくてもいいのよ。どこぞの勘違い女とは違うから、使った額で評価したりしないよ。ま、大した値段じゃないし」
『はい……お、この入浴剤』
「ん、どうしたの?」
『この入浴剤って、割と珍しいんですよ。買っていこう』
「プレゼントにする?」
『いえいえ、消耗品ですし、大した値段じゃないんで』
「フフフ」
『ハハハ』
『リーズナブルなのは良いこと?』
「そうだね」
お腹もすいてきたので、ファミレスに入った。
「こういうお店に入ってると思い出すわね。国営ひたち海浜公園に行った後のファミレス」
『俺も、思い出してたところです。競争に勝ったのは俺たちだったけど、あの場の主役はやっぱり
『ペンネアラビアータ、タマネギのズッパ、ドリンクバーください』
「私は、パルマ風スパゲッティ、チョコレートケーキ、ドリンクバーください」
『ご注文を繰り返します。ペンネアラビアータ、タマネギのズッパ、パルマ風スパゲッティ、チョコレートケーキがおひとつづつ、ドリンクバーがおふたつでよろしいでしょうか』
『「はい」』
『では、ドリンクバーをどうぞ』
…………
『うん、おいしいですね。突き抜けたところはないですが、安定のおいしさです』
「そうでないとファミレスはね……この後どうする?」
『すいません、ノープランでして』
「フフ。明日休みでしょ、良かったら実家に泊まりにくる?」
『え、いきなりですか』
「いきなりも何も、知らない間柄じゃないでしょ」
『その、心の準備が』
「颯君、男は即断即決しなきゃいけない時があるのよ。心の準備は今して」
『……それ、母が良く使うフレーズです。はい、お邪魔させていただきます』
おかあさん、そんなことを言うんだ。
危なかった。即断即決されてよその女にくっつかれたら取り返しがつかなくなるところだった……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「実家まで、だいたい1時間ぐらいかかるんだけど、颯君今朝早かったんでしょ、寝てもいいよ」
『助手席で寝るのは良くない……運転手が眠くなるっていいますから』
「あんまり意識したことはないかな……眠くなったこともないし」
「そうなんですか。でもせっかくのドライブデートですから起きてますよ」
何のことはない、出発してから10分ほどで寝ちゃった。
私の運転を信頼してくれてるのかな?
可愛い顔して寝ちゃって。
こうなると、逆に燃えるんだな。
“寝た子を起こさない”運転に。
いつもより先読み。
カーブは厳密にout-in-out。
うん、今日は調子がいい。颯君のおかげかな?
うれしい気持ちになれる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「颯君」
『あ、慈枝さん。ごめんなさい寝ちゃいました……着いたんですか?』
「ううん、大丈夫よ。ここは道の駅。休憩していきましょ」
『はい、じゃあトイレに行ってきます』
「いってら~」
私は飲み物を……
『しまった。
「ああ、そうね」
『ここで売ってるものでも大丈夫でしょうか?』
「大丈夫よ。父母はBelle Equipeじゃなきゃだめなんてことは言わないから」
『じゃあ、これあたりどうでしょう?』
「うん、きっとみんな喜ぶわ」
『それは、良かったです」
「ついでに飲み物を買っていきましょ……私は、レモネードにしよう」
『慈枝さん、ご当地サイダーですって!』
「ああ、それ。おいしいけど、私達からしたら別に珍しくもなんともないよね」
『俺もそうですけど、これにします』
…………
「さあ、あと15分ほどだよ」
『ところで、俺が行くことは知らせてあるんですか?』
「さっき電話した。歓迎するそうよ」
『ちょっと緊張します。俺、彼女のご両親に挨拶したことがなくて』
「大丈夫よ。知らない仲じゃないし、みはらしの丘で二人になれるよう計らってもらったでしょ」
『は、はい』
私は……夕べから覚悟は決まってるから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
寝てる人って、駐車すると起きるんですよね。
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