第95話 銀河系外縁の戦い⑥
「レーダー感。敵艦約八千」
「参謀長、無線です」
再びパーラからの無線だ。
「出ます」
相変わらず画面前面パネルに大写しで会見を行う。最大限の敬意と言うものだ。
「これはお見事。2回戦突入を考えついたのは君が初めてだ」
「日本人はしつこいのですよ。ご存知有りませんでしたか?パーラ提督」
「なるほど。日本人がどうかは知らないが、君はしつこいみたいだね。さあ。再戦を始めようか」
艦艇の数なら5万対八千。第6艦隊が圧倒的だ。しかし相手の実力差は痛い程見せつけられた。誰も油断はしていない。
既に航宙機隊は半数が発艦し、モンゴル原始共産主義国の見張り員は指揮艦のピンを幾つも放っている。
八千隻の艦隊にやる事ではない。しかしそれもこれもみんなパーラが悪いのである。
「ちぇ。奴め残ったうちの艦船のDOS落とさなかったのか」
ウルシュラが呟いた。
「オペレーションシステム書き換えた段階でBAVEL発動するのにな」
ウルシュラはメンテナンス担当にして本来なら非戦闘職員ではあるが、活躍が凄い。
ちなみに笹本の近隣だとウルシュラの他に
「叢雲さんは……」
「お任せください!」
「そうか。サントス」
「任せてよ」
「エチエンヌさんは」
「二人の参謀に徹し当たり前を振りかざすわ」
「問題は小島さんの替わりか」
「それは僕がやれますよ。敵の指揮艦にピンを刺すのでしょ?」
それに呼応したのは筆頭軽巡洋艦船団長の明石雄次郎だ。
「僕にもいい加減あのアイドルみたいなお嬢の言い様が分かって来ました。なるほどね。ほんの少し速いです。多分この計算を勘でこなしてるんだと思いますよ」
そう言って長い計算式を笹本に送りつけてきた。
見た目を気にしない明石は少しだけ間違えている。
小島に有るのは野生の勘と闘争本能と。そしてセンスだけだ。
「手堅いプロテクトでしたが、敵の無線を傍受出来ました。妨害無線、やりますか?」
そう連絡してきたのは第12戦艦船団長の福富昌孝だ。
「はい。頼みます」
笹本の周囲が着実に有機体となって作用し始める。良い傾向だ。
栗林恵梨香筆頭航宙母艦船団長からも3Dホログラムが入る。
「笹本大将、世界最強提督を前にして処刑台に居る気持ちかも知れませんね。しかし世界に人種差別が良くない事を示す正義の
とのことだ。
この時笹本はその通りだと思う反面、この人日本語でも古語が多いから英語も古めかしく翻訳されて居るのでは?と、疑問にも思った。
「斉射!航宙機発艦二分の一」
笹本の戯れ言を叢雲の号令が叩き斬る。今回の斉射は軽巡洋艦でも艦船が貫けるまで待って抜き放った一撃だ。先刻自軍被害48隻と報告も有った。
「敵艦被弾168。轟沈58」
各務原の読み上げは実に無感情だ。
「前進。乱戦を狙います。なお、誰か旗艦の直掩をお願いします」
「了解」
声も勇ましく出てきたのは小鳥遊准将他3名。地味な役回りをやってくれるようだ。
「揚陸艦はピンをした艦船に
「ナハトドンナー放て!主砲には実弾装填、各個砲撃開始してください」
さしものパーラ提督でも頭数の少なさには辟易しているようだ。
更に旗艦ではなくても指揮艦に挑まれたラム戦と斬り込みで、100隻程が現在航行不能だ。
子飼いの将官には大場一族が。その他には普通の師団長が当たり、次々討ち取っていく。
懸念された
いたのではある。
数で敵わぬと見たパーラ提督が大きく後退し、宇宙円陣に体型を変えて抵抗を試みたのだ。
「あれは不味いねケンジ、近付けばやられるよ」
サントスが半包囲のみを提案した。
「それが良いね。あれは勝てないや」
笹本的にはここでパーラが力尽きて寝落ちでもしてくれたら勝利は確定なのだが、そんな偶然とか願えなかったし、ましてや相手がそんなに無能とも思っていなかった。
「とにかく半包囲のままにらみ合いを続けて。こちらは最後のカードがまだ用意出来てれていないのだから」
笹本には確かにまだカードが揃ってはいなかった。
「しかしまぁ。小天体を背にしてくれていたらやり様有ったのにな」
「吹き飛ばすんだね」
思わずサントスが確認した。
「当たり前です」
笹本が悪辣な罠に胸を張る。小天体に大量の爆弾は設置済みだ。
「あなたには正々堂々とかフェア精神とかは薄いみたいね」
今度はエチエンヌがツッコミを入れる。
「無い!スポーツなら負けても良いから正々堂々とやります。でもこれは戦争です。お行儀良く戦って負けても歴史書は敗けと記されるだけですから」
「で?」
「だから僕は汚い手を使ってでも勝ちます。勝たなければ正統性すら語れない。勝てば歴史書が正義も正統性も付けてくれます。ペテン師?糞食らえです」
「なるほどね。少なくとも私は貴方の敵で無くて良かったわ。幾つ呪いをかけなきゃいけなかったのかしらね」
エチエンヌがどぶ側溝を見るような目で答えた。
半包囲陣形を組み終えた笹本には割と余裕が有った。円陣が後退しても前進しても主砲が届く位置に自動調整してくれる。
反面急遽陣形を乱し始めた時にはナハトドンナーが半自動で動き出す。直掩機を増やして揚陸艦の斬り込みを嫌えば良いのだ。
笹本はただ待っている。待っているだけでは物足りないが、笹本の要望に応え、日本宇宙警察の暗殺部隊と機動隊も出撃している。これ段階で既に
人事は尽くしたのだ。後はただ天命を待つのみだ。
連絡は来ない。かといって攻撃も出来ない。陽動としてやっていた偽無線も最初は効果が有ったが、有線通信とモールストーチに切り替えられたので今は効果がない。
ちなみにAIの機械音声でパーラ提督の声まで作ったらしい。
ただのにらみ合いはかなり長時間に及んでいた。その間に血の気多めな奴らの突撃等の勝手な行為は無かった。
そなにらみ合いは結局二日目に突入していたのだ。
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