第93話 銀河系外縁の戦い④

 普段やっている揚陸をされて第6艦隊は大いに浮き足立っている。

 大場一家が出撃した為、駆逐艦の筆頭が駆逐艦船団長最高齢者に移されるのだが、指揮は今一つ生彩を欠く。第6艦隊自体はユニークな人材の宝庫ではあるが、如何せん数が揃わない。慢性的な人材不足なのだ。


 外では揚陸した敵艦に逆揚陸をかけている者もあり、旗艦チェリーブロッサム号は普段よりいびつな姿になっている。


「くそ!白兵戦で追い払え!出力落ちてるぞ!」

 笹本が珍しく激昂しているが、グェン司令長官が宥めるように声をかける。

「笹本君、艦のダメージコントロールは引き受けよう。君は指揮に集中して」

 ナオミ・フィッシュバーン船団長が更に続く。

「では私が白兵戦の陣頭指揮を取ろうか」

 ナオミが艦長席から立ち上がり、軍装のロングスカートの側面を手で切り裂き駆けて行った。

 

 本来ならならダメージコントロールが艦長の、指揮が司令長官の、陣頭指揮が参謀の役割なのだが、そこら辺に第6艦隊の悪癖が滲み出る。


 揚陸現場近くに着いたナオミはとんでもない話を聞かされた。

「今渡辺真美子烹炊ほうすい長がここを通りがかりました。真美子さん武器なんか何も使えませんよ」

 普段なら幕張に居る真美子だが、戦時糧秣りょうまつにおにぎりやサンドイッチを配布しに来る事は有る。大佐の肩書きは有るが、基本的に何一つ武器を持っていない。

 師団長から聞かされたナオミは右手に青竜刀を、左手にそこらにあった無反動モーゼル銃をひっつかみ最前戦へと駆け出した。簡易バリケードが用意され、そこで撃ち合いが発生している。

「おら貴様、キン○マ付いてるのかよ?突撃しろよ突撃!」

 普段なら自分も含めて世界中を笑い物にしているように笑うナオミが、今日に限っては本気の顔だ。

「私は女です!」

 女性師団長が口答えをする。現状突撃なんて出来る状況ではない。

「よし乳出せ乳!切り落とせば男になるだろう!嫌なら突撃だ!」

 ナオミは自ら突撃をかますべく立ち上がり簡易バリケードから頭を出し、青竜刀を構えモーゼル銃をぶっぱなち叫ぶ。

「当たると思うから当たるんだよ!当たらないと思えば当たらねぇんだ!ウラウラ!」

 

 確かにナオミには何故か弾が当たらない。見ていた女性師団長も勇気づけられたのか頭を出し軽機関銃を撃ち放つ。

「オラオラ!突撃!」

 女性師団長が突撃し、それにナオミと多数のAI歩兵が続く。

 次々倒れる後方のAI歩兵。しかし何故かナオミと女性師団長には当たらない。いよいよ敵に肉薄する。ナオミが敵の師団長の真ん前に突っ込み、激昂した。

「真美子ママに手を出すな-!」


何故か青竜刀での伐り着けではなくグリップを握った手でのグーパンを放つ。

敵の師団長がまさかのぶん殴りに対処も出来ず3メートル程吹き飛んだ。

「何の話だぁ」

 思わず師団長が叫ぶとナオミはそいつを蹴り飛ばした。

「ママのスイーツが毎日の楽しみなんだぞ!そのママを引ったくろうとはふてー野郎だこのやろう!」


 ナオミがゲシゲシと敵の師団長を蹴り続ける。既に抵抗など出来そうには無いがナオミは止まらない。

「このやろう!何が楽しくて艦隊勤務してると思ってんだ!このやろうこのやろう」

「私スイーツの為に突撃させられたんですか?」

 女師団長の問いにナオミは答えない。辺りは他の師団長やAI歩兵が制圧した後だ。


「あらナオミちゃん。荒れているわね」

 ナオミの背後からおにぎりとサンドイッチを配布している渡辺真美子烹炊ほうすい長が声をかけた。

「ハハ、真美子ママ。無事だったのですね」

「無事も何も。配ってるだけよ」

「ハハ。嬉しいよママ。おにぎり貰って良いかな」

 ナオミは両手におにぎりを一つずつ掴み、その場で美味しい美味しいと食べている。

「あの?私おにぎりの為に突撃させられたんですか?」

 女師団長の問いにナオミは答えなかったが、心の中では『他に何が有ると?』と返していた。


 ナオミの突撃は成功したが、雄哉は苦戦していた。辻で待ち伏せされ、右上腕に刺突を受けたのだ。傷口をメディカルパッチで止めて痛み止めを飲めばまだまだ戦えるが厄介極まりない。確かに敵は今までとは違う。 

「全員分かれ道が有る時は真ん中を歩いてください。辻斬りに逢いますから」

 雄哉は今戦ってる師団長達に呼び掛けた。

 最近師団長達は銃剣道、薙刀、剣術のサークルで戦闘の基本動作を教えてあるため下手な相手に遅れは取らない。しかし師団長ではなく今対処している人の中でただ一人近接戦闘に心得が全く無い人が居る。

 他でもない。母親のあられだ。

「ちょっとかーちゃんの様子見てくるよ。ここは任せて平気かい?」

 雄哉はお任せくださいの声を聞き、母親の元に駆けて行った。


 その頃母霰は占拠された一室を手榴弾で制圧し、内部に踏み込んでいた。簡易生存者チェッカーが一名の生存を感知している。大怪我をしていたら大変だ。


 中はあちこち焦げていて、生存者なんか居なそうに見えるが、倒れたデスクの影から飛び出した敵兵が、霰の腕を決めた。その時部屋の外が再び奪い合いになっている。

 霰は嵌められたのだ。

「これは無念。しかし貴殿は私より早かった。だから私が負けた。さあ遠慮は要らない。この首スパッと持っていくが良いわ」

 普段から『敵を倒せる者は自らが倒される覚悟の有る者のみ』を信条にしている霰の言い様に敵の師団長が参っている。

「いや?首は要りませんよ」

 答えた敵兵はアレハンドロ・パーラ子飼いの師団長の一人で、エンブレムも持っている。

 しかし首は要らないだろう。

「何を言う。首級しるしを上げて勝ち名乗りを致せ」

「いや、捕虜にする辺りで手打ちにしちゃくれませんか?」

「なるほど生かして虜囚の辱しめを与えたか。それは死ぬより辛かろうな」

 「いや?ちょっと?あの?捕虜の虐待なんか禁止ですよ?」

「討ち取って名を上げよ!その覚悟なら出来ているわ」

 霰が再び言った返答を返したのは敵兵ではなかった。

「そう言ってくれるなよ!」

 

 室内に銃声が轟き、敵兵がそちらを見やる。

 そこには雄哉がAK-47を構えている。銃口からは煙が吹き、敵兵が力を失いよろめく。

「お見事。でかしたな、若いの」

 雄哉の放った麻酔弾は即効性が高い。敵兵がバタリと倒れ、霰が救出された。

「かーちゃん、無事か?」

「あら雄哉、息子に助けられようとは私が落ちぶれたのかしら?それとも雄哉が頼もしくなったのかしらね?」

「後者なら嬉しいけどね?怪我はない?」

「腕が上がらないわ」

 

 この二人は既に負傷兵だ。しかし霰は肩間接を傷めており、そのまま雄哉に連れられて救護所に向かう。大場一家の初めての敗北だった。

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