第53話 新兵研修!?
今回なんと622人もの新兵さんが来てくれ、いよいよ我が国家連邦政府宇宙軍第6艦隊もここにやっとまともな艦隊に昇格いたしました。今まではその名で準艦隊という扱いでした。また今回以降は何名かの結婚除隊、妊娠・育児休暇の交代要員以外の新人についてはウクライナのオデッサ第7艦隊が新設されるまでになりました。皆さんの勇気ある入隊に我々一同心より感謝いたします。
さて、本来の国家連邦政府宇宙軍とはいかなる役割を持った部隊なのかを説明しましょう。事の起こりは宇宙開発歴281年。今から6年前に遡ります。中華4国の一角である
有名どころでは株式会社USAのバスターズチーム、EU全体で始めた宇宙外来外来生物懸賞金制度、日本の勇者認定制度等が上げられます。
我々国家連邦政府も無策ではありませんでした。世界の退役軍人等に参加を呼び掛けて宇宙軍を創設したわけです。
この宇宙軍は全く募集人員を満たせなかった為、当初から半数が民間から採用されました。第5艦隊までは軍人と民間人の割合は半々です。
しかし第6艦隊については元軍属まで不足し、民間人のみで構成されてしまったわけです。その研修内容の内訳も宇宙外来生命体と渡り合うにはおかしな内容でした。
殆どが艦隊決戦の手段や戦略論。私たちにとって疑問の残る研修でしたが、最後の研修で意図がはっきりしました。外来生物の駆除は建前で、軍人として集められたのです。
本当ならその場で退職も出来たでしょう。その場から逃げ出すことも出来たでしょう。後に教官から聞いた話ですが、カノープスの戦いでは30分もしたら緊急脱出テレポーターで全員帰還するものと思っていたそうです。
つまり期待もされていなかったのでしょう。本来は補給や後方支援を目的に集められていたそうですから。しかしこの民間人集団は勝ってしまいました。国家連邦政府は最初勝報を信じすらしませんでしたが、こう思ったのでしょう『奴らは使える』と。
我々は多少騙されて軍人になってしまいましたが、この研修以降の皆さんはそうではないと聞いています。皆さんは既にこの宇宙軍が実力主義の公国と戦う事を知って入隊してくれています。私は大いに皆さんに期待し、そして共に頑張りたいと思っています。
以上を持ちまして新兵の皆さんへの挨拶とさせていただきます。
「とまあこんな感じで書いてみたんだけど。どうかな」
笹本が原稿を読み終わって辺りを見回して聞いてみた。
「いや、別にいいんだけどさ笹本君」
「なんだいウルシュラ」
「君その原稿いつ読むんだい?」
「11日だね」
「うん。それを何で5日に書いて発表しているかな?今休日だよ」
ウルシュラは興味なさそうに何かをノートパソコンに打ち込んで聞いていた。
「笹本さん、休日を休日っぽく過ごしてくれませんか?みんながそのように過ごせなくなりますので」
秘書官の各務原若葉もちょっとツッコミが冷静だ。ちょくちょく見るタートルネックのセーターにふんわりとしたジャンパースカート。各務原が冬によく着ている私服だ。
「でもこれが参謀長さんって気がします。そのままで行きましょう」
正式に参謀府入りもした小鳥遊准将の発言は笹本寄りだ。
「ケンジ、そんな事よりラーメン食べに連れてってくれよ」
アリーナは完全に無関心だ。
「挨拶のリハーサルにダメ出しをする為に休日を使うのかぁ。日本という国が発展してる理由が見えてくるね」
サントスも割と笹本寄りな意見だが、真似したくない気持ちが見え隠れしている。
「で?訂正箇所を指摘してよ」
「あー。『奴らは使える』のくだりカットしたら良いよ。笹本さん偉そうに見えちゃうよ」
やっと訂正箇所を指摘したのは小島
「ハハ。そういえばそうだったな。私たち害虫退治に集まった筈なんだよな。なんで人とケンカしてるんだハハ」
ナオミ・フィッシュバーンの今更な疑問。それに叢雲が応じた。
「あれはヒトではありませんよ。宇宙有害鳥獣です。ナオミさんあれがヒトに見えるなんて変ですね。眼鏡かけた方が良いですね。赦される有害鳥獣は投降した奴らだけですよ。うん。スタークさんはデブだけど赦されましたです」
「サナエ、あまり酷い言い方してはダメだわ。女性は時にはしおらしく。棘は隠して残虐に行かなくては素敵なレディにはなれないわ」
笹本がとりあえず集めた集団。主だっては笹本の『職場仲間』なのだが、思いの外制御不能な奴らだ。
叢雲を窘めたエチエンヌ・ユボーだが、本源的にはエリート『失格参謀』で、頭に血が上ると叢雲以上に激情家になってしまい、味方の損害も気にせずとんでもない行動をしかねない地雷参謀女子だ。
「だけど真理ではあるよ。人は支え合い必死に生きるのが人なんですよ。でも公国のヒトたちはその支え合いを自らの何かで切り離して人類の3分の2を切り離したんだよ。スタークさんは言っていたよ。人種差別が嫌だって言う士官の殆どを連れてきたって。残りは人種差別主義者の屑共なんですよ」
そんな事を言いだす小島にアリーナが合わせた。
「で?人種差別って何だ?ふっざけんな。つかラーメン食わせろ」
「教科書でしか見た事は有りませんが何をどうしたらそうなるのか分かりません」
「ふぅ。私は少しだけ分かるかな」
多くの人が認めない流れになっていた人種差別NOの流れを押しとどめたのは本来一番冷静になって欲しいエチエンヌ・ユボーだった。皆のぎょっとした顔が向けられエチエンヌはちょっと慌てたようだ。
「皆さん冷静になって?私がそうしたい訳ではないわ。もちろん人種差別主義者を擁護をする気も無いの。ただ、私は敵将ジュルベーズと延々と話していたから気持ちだけは分からないでもないだけよ。あの人パリ大学でブラックホールの有効活用を学びたかったらしいのよ。それが人種枠で受験資格すら与えられなかったらしいのよ」
「受験しても受かりません。アハハハハ」
「受験資格が有りません。ギャハハ。おいラーメン」
小鳥遊君とアリーナの言いようで妙な和み方をしたが、これでみんながワイワイ言い始め、原稿のダメ出しどころの話ではなくなった。
「笹本さん、今の相手の話、スピーチに組み込んだら如何でしょう」
仕方なさそうに付き合い始めた各務原が案を出してくれた。
「面接官の時はお世話になりましたからね。今度はスピーチ原稿作りをお手伝いいたします。でも今は」
「ケンジー。ラーメン」
「僕も連れてってくださいよ参謀長さん」
「まずはこの空腹を満たしてあげましょう」
笹本は小さく「はい。そうですね」と答え、仕方なく車を借りに行った。
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