第52話 小鳥遊君のお茶会
松の内が開けた辺り。笹本はいい加減暇になってしまい、戦後昇格する面々についての処理を始めた。
今回一番目立つ昇格人事は何と言っても航宙隊に将官が誕生する事だ。アリーナ・ガイスト、小鳥遊高雄が准将。その他達者な者が大佐だの中佐だのに昇格する。
航宙隊の出世は2種類のコースがある。一つは航宙母艦の船団長になるコースと、そのまま大量のリモート航宙機を抱えて航宙機乗りを続けるコースだ。だいたい300機の航宙機を乗せる航宙母艦に対して、准将は100機の航宙機を持っている。放っておくと航宙機を乗せる航宙母艦が足らなくなるのだ。だから誰かに航宙母艦の艦長をして貰いたいのではあるが、航宙機乗りから第6艦隊についてはそれは選べない。
血気盛んにして年端も行かない第6艦隊の航宙機乗りはその血気盛んさで航宙母艦の鉄則『前に出ず後方から戦場を支える』事が苦手だし、その年端のせいで航宙母艦の船団長に不適合の烙印を押されてしまう。航宙母艦はその1隻1隻が恐ろしい程高額で、取扱いには慎重目な大人が選ばれやすいのだ。
例えばアリーナなんかに航宙母艦の船団長をやらせたら、誰よりも早くに戦場に辿り着き単艦で敵の前に躍り出て轟沈する未来しか見えない。
笹本は全体寮の自室で頭を抱えている。そんな笹本をあざ笑う奴は笹本が足を突っ込んでいるこたつの向こう側にいた。
「ハハ。ケンジ、お前は相変わらず休日の使い方がへっったくそなんだな。良いかケンジ、休日は休日なんだ。明日のことは全部忘れてうかうかするのが休日なのだぞ。ハハハハハ」
久しぶりの登場はナオミ・フィッシュバーン第1戦艦船団長である。ナオミは笹本の部屋に置いてある5ケースほどの酒類を飲みにちょくちょくやって来る。
この酒類は日曜日になっては各務原などを連れて出掛ける際、運転手を務めた礼にと各務原が置いていく礼品なのだ。しかし笹本はそんなにお酒を飲まないし、各務原は全く飲まない為。加減も分からず際限なく持ってくるので貯まっているのだ。
それを飲んで消費しているのはコイツと、意外なのはウルシュラだ。ウルシュラは案外笹本の邪魔はしていない。だから笹本も歓迎しておつまみに何か出したりするのだが……コイツはダメだ!来てはがぶがぶ飲んで歌って笹本の手を取って訳の分からない踊りを教えたがる。
この前は走れ拘束の~とか歌って振付を教えていた。邪魔だ。めっさ邪魔だ!しかし笹本はあまり強くは怒れない。年上の人だからだ。
「1ケースやるから部屋で飲みなよ」
「ハハ。バカ言うんじゃないケンジ。私はお前を肴に飲みたいのだ。吞みたいのだ。ハハ」
「肴かよ黙れおばさん」
「安心しろ。フレデリックも今呼んだ。ハハ」
「安心できる要素どこにもねえ。あ。フレデリックさん来るの?結婚式はまだですかぁ~」
「ハハ、安心しろ。結婚しても妊娠してもお前を肴に飲みに来るからな」
「来るな!そして胎児に良くないから飲むな!ついでに肴にすんな」
ナオミは答える代わりに大爆笑して寄越してきた。ダメだ。コイツは今日梃でもここを離れる気は無いのだろう。フレデリックさんも呼んだという。ケツの重いお客さんだな。そしてそんな日に限って他に来客が無い。
これは困ったものだと嘆きながら外を見れば小鳥遊高雄君が煌びやかな軍装にアタッシュケースを提げて出掛けて行くではないか。
「やあ小鳥遊君、どこに行くんだい?」
「ああ参謀長さん、今日はお茶会に招待されたので今から行って参ります」
「そんな恰好で?」
「お茶会とは社交の場。相手に失礼の無いよう、全力でお相手するのも礼儀の内ですよ」
「そうですか。気を付けて行ってきてください」
「はい、行って参ります」
小鳥遊君は行動も笑顔も爽やかな子だ。目の前のおばさんとは大違いだ。
「イエーイササモト参謀長、DJフレデリックがお呼びとあらば即参上だぜー。今日は始めからクライマックスで飲んではしゃいで楽しもうぜー」
笹本の自室にうるさいのが増えた。
一方大礼服という煌びやかな軍装に身を包んだ小鳥遊。これは各国の要人などの前で受勲される時に着る礼装軍服で、
マレーシアでも受勲を受けたが、その記章は今回付けてはいない。お茶会の相手が相手だからだ。
「こんにちは。こちらの方で催されるお茶会に招待されてやってきました」
小鳥遊が訪れたのは歩いて20分程の所に有るこども園だ。6歳以下の子供達が集まっている教育施設である。
応対に出た保育士乃至幼稚園教諭さんは最初煌びやかな軍装にぎょっとしていたが、それが子供達にとって面倒見が良い優しいお兄ちゃんだとすぐに気づいたようで、ニッコリ笑って中に入れた。
中では園児の皆と先生方がお茶会の準備をして待っていた。
「皆さんこんにちは。今日は素敵なお茶会にご招待いただきありがとうございます」
本来二角帽子は本来外す物ではないが、小鳥遊は敢えてそれを取ってお辞儀をして挨拶した。帽子とはある意味権威の象徴だ。しかし園児に振りかざす権威も権力も小鳥遊には持ち合わせが有ろうはずもない。
「お兄ちゃんきたー」
「いらっしゃーい」
「お兄ちゃんきたぞイェー」
小鳥遊がこの保育園で人気な理由は、子供たちに遊びを教えたからだ。広場さえあれば何の準備も要らず、道具も要らない。最初は研修時に、後の副提督である笹本が紹介して始めたゲーム『エスケン』という遊びだ。これは当初講習で習っている戦術論を体験できる遊びとして流行した。
そんな遊びを
「今日はお招きいただきありがとうございます」
小鳥遊が園児たちが用意した小さな椅子に腰掛けると、よく懐いてる男の子がその膝の上にちょこんと座ってご満悦な顔をしている。
小さなカップと手作りのお菓子が盛りつけられ、可愛らしいお茶会が始まる。
「おれね おおきくなったら おにいちゃんと いっしょに うちゅうを まもるよ」
「わたしもー」
「ぼくもー」
「それは嬉しいな。待っているよ」
「おにいちゃん このあと いそがしいの?」
「今日はお休みですからみんながお家に帰るまで居られますよ」
「じゃああそぼ。でも」
大礼服が汚れるのを心配したのだろう。
「着替えも持ってきているから平気です」
キャーキャー言いながら園児が外に飛び出し、小鳥遊はトイレで服を着替えて普段着になり、その日1日を費やした。
その成果は決して無駄ではなかった。この子供たちがそれなりの年齢に達した時、このこども園
そのチームは小鳥遊と
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