第22話 暗幕の戦い 2回目の接敵より

 戦場の後始末。というより使えそうな艦船への破壊工作を大場あられに託し、艦隊は再び敵を探してさ迷う事になる。死亡判定無し、負傷者無し。艦船の損壊22隻、沈没轟沈無し。初戦は圧倒的勝利に終わった。しかし敵の頭の中が読めない事に微妙な苛立ちを叢雲臨時参謀長は感じているようだ。前面パネルを見つめたまま、独り言を言い続けている。

「見事な勝利じゃないか。だが、何か気に食わないのかな?」

 グェン提督が話しかけたのを機に、叢雲が我に返った。

「いえ。勝利はみんなのお蔭、敗北は私の責任です。みんなの勝利を気に食わない訳は有りません」

 ほくそ笑みも浮かべずに叢雲は答えた。

「責任の重さに潰されそうに苦しい事と、自分がやろうとしてた作戦を全てキャンセルしての平押しが納得行かないだけです」

 そんな聞くだけで苦々しい回答にナオミ・フィッシュバーン船団長が景気付けをしだす。

「ハハ。簡単に勝てたんだ。終わったらサナエと乾杯したいくらいだぞ。あ。日本人はお酒は二十歳からか。ならばサナエとジュースで乾杯だな。ハハハ」

「ナオミさんありがとうございます。ドクターベヘルでお願いします」

「あの薬臭い炭酸飲料か?」

「おいやですか?ならリミットコーヒーで」

「あの練乳入りの甘いコーヒーか?よし。どちらもどんと来いだ!ハハハハ」

 このやり取りでほんの少しだけ笑顔と余裕が戻った叢雲はやっと次に移れるようになった。

「ふぅ。間もなく索敵の第1陣が折り返しになりますね。全員を入れ替えていきましょう。注意事項は同じです。モールストーチを必ず確認してください。艦隊自体は元のルートに戻すように移動します」

 切り離された第7駆逐船団から『ケントウヲイノル』とトーチを貰いながら元の進路に戻ろうとしたときにトーチが反応する。

 『敵艦見ゆ。総数15000程。航宙母艦4か。エンブレム、旗幟は不明。位置0-4進路上。向かい来る。速い』

 やはり意味が分からないと思うので解説すると、今回は総数15000しか分からないけど後方に大型の艦船が居ます。航宙母艦と思われます。誰が指揮しているのかは分かりません。第4惑星の軌道上に居て巡航速度で向かっています。と言う意味だ。

 総数は何もパイロットが数えている訳ではない。例の赤外線の反射で総数を割り出しており、今回艦種が分からない理由は巡航速度と言う戦闘速度よりも速い速度で流れているから数は判別出来ても艦種が分かるほどには反応できないのだ。

「なんだ?遅れて来た罠かな?」

 ウルシュラの言い様に意外な人物が反応した。

「違うわ。後れ馳せながらの救援よ」

 そう答えたのはエチエンヌ・ユボーだ。

 叢雲は悩んだ顔をしたが、あまり悠長にはしてられない。巡航速度で来ているならやる事は難しくは無い筈だ。

「全艦照明を落として闇に紛れます。主砲は一斉砲撃の準備だけお願いします。各武装も装填急いで下さい」

 叢雲は現時点で未だチャフが有効ならばと一計を案じたのだ。巡航速度で移動中の艦船は殆ど攻撃が出来ない。武器を前に射出すると発射速度より艦船の方が速い為、射出時に暴発してしまうからだ。

 闇に紛れる為に照明を消すのはなかなか面白いアイデアだ。艦船からは艦内の照明の他に敵味方の識別やら見方同士の接触防止用に多数の灯りが付いている。これを消すと元より暗闇な上にレーダーが効かない為完全に姿を消せる。無防備無策で敵が突っ込んでくれるかもしれない。

 

 一通りの準備が終わるかどうかの所で敵が来た。なんと敵は一番足が速い揚陸艦を先頭に、揚陸艦どうしを有線ケーブルで繋いでいる感じだ。揚陸艦と次に足が速い駆逐艦には距離が有り、更にその後方に巡洋艦、戦艦と続いている。

「一斉射は温存します。ナハトドンナーミサイルから行きます」

 叢雲は相手に合わせて初回の武装を切り替えた。これは上手いと笹本も思った。相手にはどうあがいても主砲が無い。ならば速射性の低い、しかも一回発射したら約5分の装填時間がかかる主砲は温存してこそ正解だ。今回は射程めいいっぱいで放つ指示を叢雲は出した。これは相手が巡航速度なので火だるまになって突っ込んでくるのを防止する為だ。叢雲は実に冷静だ。

 ナハトドンナーミサイルが放たれ次々に炎上爆発する敵の揚陸艦。それに速度が落ち切らない後方の艦船が次々に衝突したり爆風に呑み込まれて追加炎上している。

「うーん。バカめと言ってやります。電磁レーザーで敵艦の炎上爆発を援助してやりましょう」  

 言われるまでも無く電磁レーザーの照射は始まっている。たまに爆風を浴びながら、あるいはかいくぐって出てくる揚陸艦に向けて電磁レーザーが集中攻撃され新しい炎上場所を作っている。

 どうやら揚陸艦は全て沈黙してしまったようだ。エンジンが停止し、現在敵の揚陸艦は惰性で流れているのが確認できる。敢えて揚陸艦を強調したのは、炎上している周囲に駆逐艦が混ざり始めたからだ。もっとも混ざったからと言って未だ速度が衰えていない艦船である。まだ敵から何か武器を発射する事は出来ない。通常なら減速の為に22分必要なのだ。しかしそれを7分に短縮する手段が無い訳ではない。エンジンに大きな負荷をかける為推奨されてはいないが、逆噴といってエンジンをバック方向に噴射してしまうのだが、敵はそれすらやっていない。駆逐艦はチラリと現れてあっという間に全ての艦船のエンジンが停止した。惰性と慣性のみに任された駆逐艦が次々炎上に突っ込み更なる炎上を起こす。

「うわ!バッカだぁ。駆逐艦乗りの奴異空間アンカー打ち込んじまいやがったんだ」

 ウルシュラがあちこちのモニターを確認し状況を報告し、叢雲、笹本、エチエンヌなどに画像を送る。

 異空間アンカーと言うのは宇宙空間上で完全に停泊したい時などに使用するもので、現在の世界から艦種によって本数が変わるが異空間へと打ち込む杭のようなものだ。

 しかし準巡航速度からブレーキの代わりに打ち込んでしまうのは高速道路で100キロ以上の速度で走る車がサイドブレーキを引いている以上の負荷と衝撃がかかる。

 現に映し出された映像では打ち出した杭が艦船の速度を落とす以上に艦船の杭固定器具が艦船を前から後ろに大きな傷というより溝を切り、挙句それでも艦船は停止できずにアンカーがエンジンの後方に引っかかるように残り、アンカーが抉った箇所が大きすぎて多大なエア漏れを起こしている。

 多分中に乗組員が居たのだろうが全員緊急脱出テレポーターの使用対象になっただろう。

「巡航速度でアンカー打つとああなるんだね。知らなかったよ」

「あの中に乗組員が居ないと艦船は動けないですよね?多分もっと細かく分乗出来るのかもしれません」

「本来第3次索敵に温存しておいた最後の航宙隊を発艦させます。武装はお好きなようにと」

 「残る敵の艦数は約5000。戦艦と巡洋艦に航宙母艦ですかね。相手の航宙機が発艦出来なければ脅威ではないですね」

  

 俄かに提督座乗艦が活気づく。士気が上がっている証拠だ。早速気の早い航宙機が爆装のまま直掩を始める。有線ケーブルからの報告は航宙隊はほぼ全員出たいと言っているばかりか、帰投したばかりのアリーナや小鳥遊君がいた第一次索敵隊も武装の換装待ちをしているようである。戦いそのものには勝てるだろう。勝ち方の問題なのだ。

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