第16話 色々やるしか無いじゃないか1
「うっわ。作戦も何もない平押しって本当にあるんだね」と、ウルシュラ。
「これはあれだね。僕たちが参考にできる作戦じゃないね」と、サントス。
「でもこれが本源的な作戦って物だと思うわ。相手より多くの武装を集め、圧倒的な武力で押す。シンプルで分かりやすいわ」と、エチエンヌ。
参謀本部員を招集して、笹本達が休暇の間に起こった国家連邦政府宇宙軍1から5艦隊が行った南の魚座αフォーマルハウト解放作戦の様子を3Dレコーダーで見た感想がこれである。
実はこの戦い、相手の方が3艦隊も多く参戦しているにも拘らず、公国側は艦隊を集中運用せずフォーマルハウト全体にポツポツと置いたまま迎え撃ち、各個撃破されている。しかも味方が攻撃されているにも関わらず、ほとんどの艦隊は救援などの動きを見せていない。
「ハハ。エチエンヌ。
意外にもナオミ・フィッシュバーンが、笹本が思っていたことを言ってくれたので笹本はもうちょっと黙っている事にした。
「あ。今のもう一度見せてください」
サントスが不意に巻き戻しをウルシュラに依頼した。
「良いよ。ついでに再生を24倍速から少し落としておくね」
「ほらここです。公国側が数に恐れをなして一斉射すべき主砲を散発的に使っているんですよ。このフォーマルハウト2-3-2担当の敵は僕たち以上の素人なようです」
2-3-2というのは宇宙
「それは私達も相手を笑えません。こちらこそ胸を張れる程の素人です」
珍しく叢雲が3Dレコーダーの様子をにらみながら話し出した。笹本に言わせれば叢雲が明確に何かを見ているのを確認したのは面接の時以来だ。
「ですが今の指摘から解る事は有りますね。指揮艦以外の艦船にも意志が有って行動している事。もしかしたら私達と同じく船団長が移乗出来る可能性も無い訳では有りません。そうなると相手はより粘り強く食い下がるかもしれません」
叢雲はそう発言し渋い顔をした。
「楽観視は出来ないけどね。それは無いと思うよ。例えば提督座乗艦『チェリーブロッサム号』が轟沈したとしようよ。その後を例えばオオバパパは後続指揮を執ってエンブレムを揚げる自信は有りますか?」
ウルシュラがそう大場忠道に聞いてみた。確かに第2戦艦船団の船団長であり、エンブレムを持った船団長では一番の年長者だ。指揮権を決意するのに全く問題は無い筈だ。
「無理ですね。私が持っているのは剣術とポーカーフェイス位なものです。指揮権どころか指揮の仕方も分かりません。お手上げですよ。むしろそれは小島さんの方がお上手なのでは?」
急に話を向けられ小島が動揺した。確かに前回の戦役で小島さんもカミカゼガールとしてエンブレムを拝領している。
高校時代の書道が得意な友人からその通りに『神風がぁる』の筆を貰い、白地に黒でその一筆をエンブレムにしている。
「認められないよ。世界に冠たる国家連邦政府の艦隊の指揮艦がまさか揚陸艦一豊号だなんて笑えないよ」
「ま。そう言う事さ。向こうも概ね同じだと思うよ。まあ、お互いの欠点洗い出した感じだけどね。お互いそんなものだと思うんだ」
「いや、重要な話だね。もし参謀陣と提督が戦闘不能になったらどうしたものかなんて考えてなかったよ」
ここで思わず笹本も口を挟んだ。
「今回に限っては提督と参謀が戦闘不能になった時の後続指揮権保有者を叢雲さんが決めてみてはどうだい」
「え?あ、はい先輩さん。後日発表します」
「なあケンジ、そうなる前に僕たちが各艦船に移乗しておくのも手段なんじゃないかな?」
サントスの提案した。それにエチエンヌも首肯した。
叢雲も同意だったようで発言した。
「それは私も賛成します。今回の作戦の一部にやってみたい陣形も有りますので」
叢雲が早くも作戦の一部を考えている事に笹本は喜んだ。実に結構な事ではないか。このような子に日の目を当ててあげたいものだ。
「それは良いとしてサナエ、何か参考になりそうな物は有ったのか?」
普段あまりディスカッションに参加しないでいるアリーナ・ガイストが話を元に戻す。実の所今回の参謀本部招集はフォーマルハウトの戦いという、宇宙開発歴史上2番目に起こった戦いから参考になりそうな戦略や戦術を引っ張ってこようとしていたのだが、まるで平押し。一方的な殺戮ぶりに笹本以下が呆れていたところからこのような話が出てきたのだ。
「今後の参考にはなりましたが今回の相手はこちらの約1.5倍。平押しに行ったつもりが平押しされてしまうでしょうからね。生憎本当に同じ戦いは出来そうに有りません」
叢雲の明確な解答から笹本は次回の提案をするしかない。
「そうだろうね。実際僕もこれを見るのは初めてですが、ここまで単純明快な戦闘をしているとは思いませんでした。ですが課題を出します。叢雲さんはスターク艦隊に勝てる必勝の策を用意しておきましょう。他の皆さんへの課題ですが、何故相手がこんなにも無造作に敗北し、救援も援護もしなかったのかを調査したり考えてみたりして欲しいんです。相手も相手でかなり低能なやり方ですよね。どんな裏が有ると思いますか?どんな事でも構いません。さてと何か質問が有る方は居ますか?無ければ解散しますが」
ここでアリーナが手を挙げ、質問を始めた。
「なあ皆、低能かどうかは私には分からないよ。だって私は中学校の頃6人のクラスメイトにナイフまで持ち出されて闇討ちに有ったが返り討ちにしてやったんだ。数が多ければ勝てる訳じゃない。だけど独りだと私の陰に怯えていたクラスメイトはナイフと人数で私を闇討ちする勇気と元気が出たんだろうよ。たださぁ……」
「ただ、なんですか?アリーナさん」
叢雲が首を傾げて促す。
「大人の喧嘩は理由付けと金がかかるようだな。
「あ!」「そう言えば」「なんで誰も気付かなかったんだ敵の経済力」「かなりヤバい敵なのかもしれない」「あれ?課題が重いテーマになってんじゃね?」
最後に気付いて出た物を聞いてアリーナがぼやいた。
「あれ?課題を私が難しくしたのか?悪い質問しちゃったぞ」
「いや。アリーナ。今日は来てくれて本当にありがとうね。今日ほどアリーナを誉めたい気持ちになった日は無いよ。今度お気に入りのあの店のチャーシュー丼、食べ放題にしてあげる。答えはここでは出ないので今日は解散しよう」
笹本はアリーナに感謝し解散を促した。結論から言えば笹本は独立したての国家が莫大な経済力を持っているなんて思っていない。パトロンが居るのに違いない。大慌てで宇宙軍本部に問い合わせしなくてはならないし、次に叢雲にやって貰うスキルアップを用意しなくてはいけない。エチエンヌ・ユボーは『お休みで』とか言っていたが、割と身の回りは忙しいのだ。
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