第15話 叢雲発火
「へー。なるほどなるほど。で、いかにこちらを貴殿が揺さぶる気だい?」
笹本はおしゃべりな男は大嫌いだ。
以前薬屋だった時に、やけに口数が多い男性をアルバイト雇用した事が有った。
同じ単語を繰り返し、やたらオーバアクションな男性だったが、そいつは言うほどまともな働きをしないばかりか勝手に医薬品の販売までしていた。
それが間違い無いなら文句は言わなかったろう。しかしソイツは聞きかじり程度の話を声高に喚き立て、みっともない上に正しい医薬品を販売すらしていない状況だった。何度も注意したが収まらなかった為、そいつが辞めますというまで追い込んで追い出した事が有った。それ以来そういう手合いは大嫌いになったわけだ。
「カノープスの戦いでは大変お世話になりまして、わが軍の重軽症者は186名、総司令官のアシモフ閣下は頬骨が陥没し元には戻らない状態だという事ですな。いや貴艦隊には酷い目に遭いまして」
「だから何なのです?もしかして
何故か答えを返したのは傍に居た叢雲だった。
「おや何だね?その黄色い小僧は」
「だいたいみっともないですね。負けた相手に口数で勝とうだなんて。お前の扱ってる武装は何ですか?お飾りですか?全く醜い白豚ですね。黄色い小僧程度で良かった良かった。この白豚白豚」「おいなんだこのクソ生意気な……」「白豚がブーブー言ってるぞー」
「確かに太ってはいるがそれ言っては気の毒じゃないかい?叢雲さん」「白豚が―啼くよ~ブヒブヒオインク~」
「黙らんかこのサルめ……」「豚が泣きますキンコンカーン」「おい黙らせ……」「ブタブタブタブタブッタブタブタ~」
叢雲は相手が口を挟むたびに白豚白豚言いまくってスターク提督がブチ切れるまで無線の相手をしまくっている。
横合いで見ているナオミ・フィッシュバーン船団長とメンテナンス担当のウルシュラ・キタ。そして同じ参謀のエチエンヌ・ユボーまでもが無線映像の映らない所で笑い転げている。
どうもこのやり取りは艦内のイントラネットにまで流され、叢雲は非常に評価が高い方向でコメントが付いている。
ちなみに日本人の感覚では叢雲も相手の提督を笑えない程度にはぷっくらした女の子だが、海外の評価は変わってくる。叢雲の肉付きは多くの海外勢に言わせると可愛いらしい。そしてどこを見ているか分からない一重瞼がオリエンタルな感じで意外と人気なのだ。
「この野郎!テメ―を討ち取ってやるから覚悟しろ!」「上等だ白豚、デブ艦隊は一隻残らず葬ってやんよ。貴様の背油は臭くて蝋燭にもならないだろうさ」「コテンパンにしてやらー」「返り討ちだ白豚ー。ホラなんだニンゲンみたいなクッソでかい鼻しやがって。吊り上げてオインクって言いやがれ」
怒りに任せてスターク提督が無線を切った。
「ふん。勝ちましたね」
「勝ち負けなんて有ったのかい?」
笹本のツッコミに叢雲は例の黒い詰襟を脱いで言い放った。
「残念ながら私は小僧ではなく小娘なので」
上着を脱ぐと白いワイシャツが身体の線を露わにする。なるほどそこに有る双丘は女の子にしかないだろうな。そんな感想を笹本はグッとこらえた。
「いや成程この立派なバストは女の子だなハハ」
「ナオミさんは露骨すぎ。私は全面的に支持するよ。うるさい白豚やっつけろー!」
ウルシュラに気合いのギアが入った。
「サナエ、やってしまえばいいわ。今回ササモトは休ませてあなたが戦場をプロデュースしちゃいなさいよ」
どうしたものかエチエンヌ・ユボーまでが乗り気になっている。なんだろうこれ?笹本は首をかしげた。
「はい。はい。ええ伝えておきます」
電話無線に応答していた各務原が、電話を切って発言した。
「スターク提督から二度と無線なんかしてやるものかと御伝言頂きました。正直助かります。今程の無線だけで通信費8526円かかってますから。こちらにも予算って物が有りますもので」
「かけ放題プランとか友達割引とか無いのか?ってか受信側も払うの?」
「あんな白豚と友達だなんて先輩さん斬新にもほどが有ります」
「あの女々しい口だけのおっさんは女の子に散々な目に合ってしまえばいい。だいたいなんだあのデブっぷりは?自分の身体もコントロールも出来ずに実力主義とは片腹痛い」
「私もそれに同意してしまうわ。それにササモト、今回の戦役でサナエが充分以上の戦果を上げてくれたら3人目の将官が誕生するわ。だからここはサナエ・ムラクモ
笹本は心の中だけでツッコミを返した。
確かにスタークと友達にはなりたくないわー。叢雲さん。
身体にケチをつける気は無いけど仰る通りコントロール出来てませんねウルシュラさん。
この前の検証武官で大騒ぎになった事の一因はそこに有りますねユボーさん。
そんな事口にも出さずに笹本は提督が居ない段階では有るものの解答を返した。
「提督には相談しますが皆さんの意見具申を採用する意向です。ただし監修は僕が務めますし、サントスにも加わって貰います。そしてユボーさん。今回の筆頭参謀をお願いします。あなたにも将官になって貰わないと」
全員が敬礼をした後叢雲が笹本に声をかけた。
「先輩さん、恐れ入りますが参謀長バッジをお借りします」
「承知しました。叢雲参謀長、やってしまいなさい」
若干これは悪癖な気がするのだが、このように参謀と参謀長のバッジが入れ替わってしまうのは第6艦隊の伝統になってしまった。
基本的な立ち位置は交替はしないのだが、休暇中や睡眠中などに船団長バッジが他の者に任されるようになったのだ。階級に縛られていない中で共に研修をしていた者同士だからやってしまう事なのだが、規律がなあなあになりやすい反面、柔軟な艦隊になっていった。
若干悪癖ではあるがそのプランはグェン提督にも採用された。実の所提督もスタークの無線攻撃に辟易していたため、そのお礼として採用されただなんて内容、提督の側近しか知りえない話なのではあるが
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