第14話 会戦14日前
何故?
「くっ!こんなザマ無い戦いがしたくて私は先輩さんから参謀長バッジを借りた訳では無いです!」
「叢雲さん!許しません!参謀バッジを投げ捨てるな!」
大爆発と共に笹本と叢雲の会話は轟音と閃光に呑まれた。
どうして?
「ちょっとー!私の出番無いじゃない?もう良いから突撃しちゃうよ!」
爆轟と砲弾が降りしきる中、遠慮も躊躇も無く放った小島の揚陸艦が光の渦に消えていく。
何を間違えたのか?
「勝敗は兵家の常、敗軍の将は兵を語らずとは言いますが、これは一方的に余りある」
第2戦艦船団長の大場忠道もその一方的な結果の前にただ茫然としたままだった。
「パパ、まだよ。まだ終わってないわ」
新人船団長の第7駆逐艦船団長の大場霙が父を励ます。
「まだやらなきゃダメだよとーちゃん」
同じく新人船団長になった大場雄哉第8駆逐船団長が父を引き戻そうと声をかける。戦場の怒号と共にその後はかき消されていく。
5日間の一斉休暇が終わった第6艦隊に徐々に乗組員が集合し、頃合いを見て次回の戦役先がマレーシア領トビウオ座β後方約200光年、パラメスワラ惑星系と発表された。トビウオβには最近になって星座の由来とは関係なくジョホールという名前が付いたが、今回はその200光年も地球の向こう側の話だ。
惑星系というのは太陽系などが恒星系と呼ばれるのに対し、その中心が光を放つことが無い星で構成された星系の事であり、概ね3種類に分かれている。
一つはかつて太陽の何百倍も大きかった恒星が中心にブラックホールを残して構成されたブラックホール星系。
一つは太陽程度の大きさの星の寿命が尽きて矮星となった褐色、白色矮星系。
そして今回向かうパラメスワラ惑星系は太陽以下木星以上のガス惑星がほぼ永遠に存在し続けるガス惑星系と呼ばれている。
特にこのパラメスワラ惑星系は中心となるガス惑星の大きさが絶妙で、ガスが圧力で押しつぶされて出来た地表には核融合や核反応による火山が確認されており、金、銀、プラチナ、銅、イリジウムなどの高価重金属の他、コバルト、タングステンなどのレアメタルが多く、その他レアアースや天然テクネチウムなども産出される稀有な惑星だそうだ。
その惑星系の権益をめぐり、実力至上主義の公国と本来はマレーシアが衝突するのは当たり前の事だった。生憎そのマレーシアは宇宙軍が余りにも充足しておらず、国家連邦政府がその肩代わりをすることになったのだ。
笹本達第6艦隊はそこまで約3週間で向かう。その間は準待機期間であり週休3日で交代で休暇を取ることが許されている。その間にも各乗組員に色々な変化があるものだ。
大場一家が剣道、銃剣道、薙刀でサークルを立ち上げ大人気になっている。薙刀と銃剣道のサークルでは協会から講師が来てくれて艦内で稽古に励んでいる。
叢雲は自分が大好きなオムライスを食べ歩くサークル『オムライス愛好会』なるものを立ち上げ、日本中のオムライスを休日ごとに食べ歩いている。そんなサークルに人が集まるのかと笹本は心配したが、3人の同好の士が集い、休みを同じくして巡っているそうだ。会報も写真と文章でなかなか読ませるものを用意している。
小島
笹本が注目しているサークルは航宙隊日本人男性で構成された『
「我々は不良です!不良として人が嫌がる事をやってやろうぜー!」
などと言いながら基地の周囲に有るドブ側溝の清掃やカフェテリアで皿洗いのボランティア。その他各艦内の美化営繕ワックスがけを始めた。なるほど人が嫌がる事を率先してやってくれる勤勉で熱心な子たちだ。意味も分からず加入した不良ではないサークル仲間もどんどん協力してくれているようだ。
一番大きな変化が有ったのはアリーナだろう。以前は笹本と小島にぺったりと懐いていた彼女は、自分で暴走航宙隊集団『ワルきゅ~れ』を素経苦汰悪に対抗するように立ち上げた。内容はポスターも有る。『あまかける航宙乙女隊 ワルきゅ~れ 仲間募集』
細かい内容を見てみると航宙隊の女の子で、速さと自らを輝かせる事を誓い、発起人アリーナと一緒に勉強して成績を上げたいと思う人を歓迎する意向なようで、ついでながらポスターのあまかけるが『
ヒジャブを被ったイスラム系の女の子、黒い肌の女の子。様々だ。
アリーナはバイク泥棒の前科があるなんて事をコンプレックスにしているようだが、それが多くの第6艦隊乗組員にとって気にならない位に明るく前向きで、そしてとことん低成績で。皆が愛すべき、そして庇いたくなってしまう良い妹分だ。何事も頑張ってみて欲しいものだと笹本は思う。
三週間ピリピリしているのも大変なのだ。サークル活動はむしろ宇宙軍では推奨されている。
逆に独りの時間が多い人が居る方が心配される。
気がつけば『宇宙絶望症候群』という宇宙空間だけに起こるうつ病を発症し、酷い時は自殺まではかりだすのだ。宇宙空間では友達作りも大事なのである。
「副提督、無線が入っています。次回会戦する予定のスターク提督です」
通信手のミアリー・ラボロロニアイナが笹本に応答を依頼した。今日はフルフェイスの補助具を付けていない為、クリンとした目元も小さ目な口元もよく見える。黒い肌に白目と歯が綺麗に白いこの女の子は可愛いともっぱらの評判だ。
このような会敵相手からの通信は結構多い。広大にも程がある宇宙空間に於いて、まず索敵をするのが大変なのだ。そこで予め大まかな会敵箇所を決めてしまおうというのだ。
「そう言ったことは本当なら提督がやる事なんじゃないかな」
笹本は奥の提督席を見たが、その脇にあるデスクで各務原若葉さんが何やらパソコンで文書を作っているのが見えるだけだ。提督は居ない。今日も何やら不満を持っている誰かの話を聞きに行っているのだ。居ないならば仕方がない。コイツと話くらいしてやろう。
「やあスターク提督、口数が多いですね。おしゃべりな男は嫌われますよ」
笹本の対応はかなりつっけんどんだ。実はこのスタークという男、いい加減7~8回も連絡してきている。そして朝方も連絡を寄越してきているのだ。
「敵に好かれる提督なんて無能な提督位だろ?ならば充分かと思うが」
「ああ。なるほどね」
この敵はなかなか出来た敵さんだ。こうやってこちらの腹の内を探り、情報を引き出し、精神的に圧迫しようという魂胆だ。
なかなかシミュレーターでは出来ない事やってくれるお相手様じゃないか。笹本はピリピリした。前哨戦は既に始まっているという訳かよ。
……と。
冒頭のような状況に至るまであと14日の所である。
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