第13話 戦士の休日(閑話休題)

 戦闘から7日後、やっと第6艦隊は解放され一斉休暇が与えられた。本来国家連邦政府宇宙軍は週休3日制で運用されている。しかし一たび戦闘が始まると一旦その休日は召し上げられる。その反動は戦闘任務完了後にプラスして帰ってくる。艦隊を安全な所までテレポートした後、全軍に一斉休暇5日間が与えられた。


 笹本が一番恐れていたパーラ提督の単独リベンジは無かった。多分日本宇宙軍が来ることを先に察知していたのかもしれない。

 戦争っていう化け物は相手が何を考えているのか分からないのが厄介なものだ。笹本に言わせればパーラが7日間リベンジマッチを挑まなかった理由は山ほどある。自軍の損耗が激しかったから。国家に撤退を司令されたから。やる気が削がれたから……その他諸々。

 正直言った話だが向き直られた瞬間に第6艦隊は負けていただろう。来なかったことに敵ながら感謝するしかない。

 

 笹本がそう思ってしまうのには理由がある。戦死判定582名、失った艦数1863隻。全体の間もなく3割になる所だった。戦死は判定だけで第6艦隊からは3人の怪我人しか出していない。その3人は滑って転んで打撲や捻挫程度なのではあるが。軍医のドルチドトエンが大急ぎで診察してくれて……というか軽傷すぎて全員回復しているが、振り向かれた瞬間から逃げる事しか出来なかっただろう。

 緊急脱出テレポーターはよく機動してくれたようだ。


 戦功の発表が為された。

 階級特進3階級が1名、大場雄哉。少尉から少佐になって船団長を拝命する。2階級が2名。大場みぞれが中尉から少佐。こちらも船団長を拝命する。小島かなめが少佐から大佐に昇格した。またグエン提督や笹本、叢雲、サントスなど1階級特進が158名。これらは全てAIがはじき出した結果だ。これは問答無用で受け入れなくてはならず、拒否は許されていないそうだ。

 新兵123人が配備された反面、退職者が12名出た。その明細を眺めている笹本に休暇をガッツリ楽しんでいるナオミ・フィッシュバーン第一戦艦船団長が絡んできた。既に酒臭い息を吐きながら笹本の脇にどっかり座り何が可笑しいのか分からないが笑っている。

「ハハハー、やあケンジ、休暇中だってのに仕事かい?全く日本人は休みを巧く使えない人が多いよなハハハー」

 ナオミが手にしているのはストロング16とかいうレモンサワーだ。名前の通りアルコール度数16%だ。それを手に持ちながら笹本の頭を軽く取り押さえながら奨めてくる。

「基地には戻らなかったのですか?」

「うーん。いい男が居れば帰っただろうなー。ミスターオオバみたいな」

「え?雄哉君?」

「お前とサムライキッズはお子ちゃまだお子ちゃま。ダディカッコいいよな」

「あの人奥さんいますからね」

「愛妻家みたいだな。付け入るスキが無いじゃないかハハハハ」

「付け入らないでください」

「お前はお子ちゃまだが私に付け入りたいなら受け入れてやるぞ。10歳年上のお姉さんは好きですか?いいえ無理です。そりゃそうだハハハハハ」

 ナオミは一人でネタを振って突っ込んでかましてどこかに行った。忙しい人だと笹本は思ったが、同時にそこそこ美人さんのナオミが独身でいる理由が思いつかない。

「おいケンジ、連れてってくれよ」

 ナオミと入れ違いに入ってきたのはアリーナと小島、そして叢雲だ。これに秘書官の各務原を加えて笹本が車を出して連れ出す約束をしており、一斉休暇をアリーナの希望で竹岡式ラーメンを、そして叢雲の希望でオムライスを食べに出掛けるのだ。次回の戦役がどこになるのかは今の所グェン提督と笹本しか知らない話だ。休暇を全力で楽しみたい。誰にとっても人生初の秋休みは今ここに始まるのだ。 

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