第11話 密航者狩りと笹本の苦渋

 検証武官たちはたっぷり3時間艦内で質疑応答したりクルーを質問攻めにしたり。あれこれして帰って行った。その直後笹本とグェン提督の連名で艦内イントラネットで一斉指令が流れた。

 『艦内に残存する密航者を逮捕拘束せよ』という内容だ。予定にはなく何人入り込んだのか分からない為艦内をくまなく捜査しなくてはならないのだ。

「随分絡んでいくじゃないか?何か理由が有るのかケンジ」

 アリーナ・ガイストがのほほんとした顔して聞いてきた。相変わらず軍服がカラフルだが見慣れてしまった。

「未だに捕まっていないマスコミがスパイだったら困るからね。一番怖いのは換装かんそうされた核融合エンジンに遠隔操作の爆弾仕掛けられてどこかに降り立った所で爆破されたら、立派な核兵器の出来上がりだもの。何万人という人が亡くなってしまうんだよ。怖いだろ」

 笹本は分かりやすい事例を出して危機をさとした。アリーナは元より熱心に物を考えることが無い子ではあるが、事例を出して教えてあげれば理解できる子なのだ。

「そうかそういう理由か。ハハ。考えにも及ばなかった」

 何故か答えを返してきたのはナオミ・フィッシュバーン第一戦艦船団長だ。

「だってナオミさん。鉱山に部外者が勝手に入って怪我したら困るでしょ」

「あー。なるほどな。ハハ。で?居るかいないかも分からない部外者をどう割り出す?」

「実際軍装していたら分からないよね。アキバで揃っちゃうもの。そこでこれの出番さ」

 メンテナンス担当のウルシュラ・キタが艦橋の脇に置いてある機械を指さしながら解決策を提案した。

「え?軍装一式が秋葉原で売ってるの?」

 思わず笹本は機械ではなく軍装に興味が行ってしまった。

「さすが秋葉原斬新ですね」

もっともレプリカだけどね」

「サナエ、アキハバラって何だい?」

「サントスはもっとアニメを見るべきだな。聖地と謳われた永遠の都の事だ」

 

「いやアリーナちゃん。アニメは良いから。さてとこの機械は『生存者チェッカー』って機械なのさ。くたばった敵の指揮艦に居残った生存者を救出する為に開発された機械なんだけどね、コイツをちょっと弄っておいたよ。今第6艦隊内部の生存者は3258人。内、部外者5人がミゾーレさんの傍で酒宴をはっているのは知っているよね」

 それは笹本も……と言うより全艦隊クルーが承知している事だ。新人のナイフ使いを見に行ってみればのほほんとしたトロンとした目の女の子な上、お上品に大正浪漫ないで立ちのそれを見たナイフ使い達は騙されたのかといきり立ち始めた。

 ナイフ使いの皆さんに大場霙は一歩も引かず宥めた。

「まあ。皆さん心の刃を隠しておかなくてはデートの時にお相手を困らせてしまいますわ」

 これに一気に場が和んだところに渡辺真美子烹炊大佐が割烹着姿でやって来て、お酒とおつまみを出して酒宴になったのだ。内二人がダウンしている。残りももうヘベレケだ。そんな中霙さんだけが顔色一つ変えずに飲んでいる。

 

 現時点で第6艦隊には3250人のクルーが居る。逆算は非常に簡単だ。繰り下がりも無いから。

「密航者は3人と確定。そこで各員4人一組を厳守して密航者を捜索してください。尚、余りが出た場合は参謀本部に集合してください。3人以下で行動している者をあぶり出していきます」

 早速アリーナが小島と叢雲と笹本を誘うのを笹本がせき止めた。

「君たちはダメです。余った人と組んでください」

 

 4人一組が出来た者達が次々に電磁警棒やテーザー銃を手に取り3人以下の行動をしている人物に声をかけていく。

「あ。声をかけるとナノテクマシンの紹介画面が出るからすぐに分かるんだね」

「あ。ホントだわ。ふうん。ブルギナ・ファソから来たんですね。ってどこだか知らないけど」

「はい初めまして。今から参謀本部に行こうかと」

「それには及ばなくってですわ。見てくださいまし。あちらに3人だけのチームが有りますわ。私の知り合いも居ますからクルーであることに間違いは有りませんでしてよ」

 

 このような新しいクルー同士の交流のやり取りが目立つ。3人以下を狙い撃つだけのアイデアだったが、艦隊内の知己の拡大や、友好の拡大に一役買ったものになっている。案外良い効果じゃないか。笹本がニコニコしながら思っている頃、イントラネットの不審者捜索掲示板に反応が有った。

「居たぞ!こいつらステータスの反応も無い!男女の二人組だ!」

「応援向かいます」

「こいつら電磁警棒もテーザー銃も効かないぞ」

「やっぱりスパイなんだ!」

「おい縄もって来い!」

「殴ったら倒れちゃった」

「起きたらまた殴っちゃえ。今ロープ持って向かってるから」


 このようなやり取りが文字列として流れた後、独自に4人一組を作っていたウルシュラが、栗毛色の髪の女の子を一人伴ない帰ってきた。

「あいつ等本当に新聞記者かい?なんかあちこちから盗聴器や隠しカメラが見つかっているし、本人たちもかなり高価なナノテクマシン身体に仕込んでいるんだ。今無効化しておいたよ。ナノテクマシンスキルキャンセラーナノテクマシン吞ませといたから」

 そう言いながら笹本にポーランド語で書かれた紙を手渡した。それが翻訳・通訳ナノテクマシンで簡単に翻訳できる。


   記者の服用ナノテクマシン一覧(ナノテクマシン省略)

 翻訳通訳 テレポータージャミング 視聴記録プリントアウト 第三者記憶改ざん デマゴーグ育成 緊急脱出 捕縛時メッセージ発送 その他諸々。笹本はいい加減見るのも怖くなった。多くが日本のネット上で評判が悪い新聞の記者である。


「最後の二人はフリージャーナリストの男性と女性カメラマンだね。多分3年前にどこかの過激派に監禁されて日本政府は身代金を払わなかったって話の渦中の人だよ。もう全員監禁してあるけどね」

「なぁにササモト?その捕まり癖のある異常体質のマゾヒストチームは?」

 そう聞いてくるエチエンヌ・ユボー。笹本は『僕に聞かれても困るよ』とは思ったが口には出さずに艦内指揮に戻った。

「これで密航者はあと一人か」

「ああ。それも見つかったよ」そう言って連れてきた栗毛色の女の子を笹本の前に引き出した。いや、女の子は密航者ではない。ちゃんとナノテクマシンがステータスを紹介して反映させている。ウラジオストク共和国の18歳の女の子だそうだ。

 そして最後の密航者は女の子が胸に抱えた子猫だ。頭には脱出用テレポーターが点灯している。

「あの副提督、申し訳……ありません」

 女の子はじっと笹本を上目使いに眺めながら謝った。

「あの。こんなおおごとになるなんて思わなかったんです」


 笹本はその大き目な目元が愛らしく思えたし、白い見た目も好ましく映った。許されるなら抱き上げたいとまで思った。だから笹本は強く怒る事が出来なかった。

「メッ!!」

 女の子はキョトンとしてしまったし、参謀本部の女性陣は呆れている。

「おい笹本君そんな怒り方って何だよ」ウルシュラは呆れている。 

「ササモト。ちょっと弱腰じゃない?」エチエンヌは眉をしかめている。

「おや。先輩さんあの子には弱いですか?」叢雲はムッとしている。

「あんな顔私には向けないよな」アリーナは仕方なさそうにしている

 

 笹本は脅かさないように言った。

「だって猫ちゃん可愛いんだもの。僕も連れて行きたくなっちゃうよ!」

 笹本健二26歳。歴史の他に猫も本当は大好きな参謀長兼副提督なのである。メッ!!はやっと出た立場上のコメントで、本人は女の子と猫の可愛さと素晴らしさを語らいたい一心なのだ。

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