第10話 戦後処理てんこ盛り

 戦闘から4日経った昼に大慌てで日本宇宙軍が到着した。日本艦隊は世界に冠たる位には精強だ。戦艦2番艦みすま〇ゆりかに護衛艦8隻のみを引き連れて星域にやって来た。

 さて国家連邦政府宇宙軍は日本艦隊の旧型艦を使用している。かつての日本宇宙軍は世界最弱を絵に描いたような弱小艦隊だった。理由は現在の日本の政権にある。


 現在のスペースコロニー『いてまえ16号政権日本』が、旧政権である、無政府官僚統治機構日本から惑星いてまえ(現在の惑星イザナミ)を首都に独立を宣言したところ、各国から日本政府と話し合いをしたいと多数の申し出があった。

 官僚統治による役所のたらい回しと印鑑証明に実の所世界各国が辟易していたのだ。そこに時の天皇が錦の御旗を郵送し、惑星いてまえは官軍になった。政権無きたらい回し国家に嫌気を感じていたのは国民も天皇も同じだったのだ。

 いてまえ政権は新憲法の作成に乗り出し、日本と世界の平和の為に武力を所有する事に憲法改正を行ったが、日本がどうしても捨てられなかったことが有った。

 それは結局世界で唯一核攻撃を本土に堕とされた国家らしく『一切の核の戦争利用禁止』だった。

 この条文の前に世界で常識だった核融合エンジンを宇宙軍に搭載出来ず、今一つ速いが出力不足が否めない光子力エンジンを使っていた。


 出力不足の艦船が放つビームも電磁レーザーも威力、射程共にお粗末なものだったが、そのハンデを克服する技術はとんでもない所から登場した。

 それは炭素をメイン素材に使っているものの、如何なる重力にもひずみや変形をしない素材『アンチグラビティ―カーボン』。略してAGCの開発だった。

 これは光さえ呑み込むブラックホールを前にしても全く変形しなかったのだ。日本宇宙軍はその素材でブラックホールを先頭という名の真下に供えた新型戦艦を就航させた。

 BHブラックホール推進と呼ばれたそのエンジンは、機動力と攻撃力に優れ、更に今までの宇宙紐ワープよりも長距離をワープできる超ひもワープを実装し、ブラックホールが形成した真下にただ落下しているだけなので、世界で最も低燃費なエンジンとなった。


 最強の武器はブラックホール突撃。敵の艦船を丸ごと吸い込む突撃の前に居残る艦隊は無い。この推進機の向きを手早く変える為、真球型の胴体をしている。

 今まで推進機に割かれていた光子力エンジンのエネルギーをふんだんに使った8式曲線電磁レーザーが多数備えられているが、実弾への換装も可能で、11式褐色矮星わいせい徹甲弾は劣化ウラン弾よりも遥かに重量が有り、それは艦に当たれば文字通りどんな装甲も貫通するそうだ。

 当初丸い胴体の何とも不格好なデザインの艦船だったが、艦名に1番艦△りゆき、2番艦みすま〇ゆりか、3番艦やま△とよーこ、4番艦ど△んけいと宇宙戦争を題材にしたアニメの女性キャラが採用されて以降、艦にそのキャラクターが描かれ人気が上昇している。


 そのみすま〇ゆりかが各国の観戦武官……というか戦闘が終わってしまった為、『検証武官』に呼称を変更した将校を山ほど連れてきた。本来これの対処はグエン提督とエチエンヌ・ユボーが行い、技術士官の群れをウルシュラ・キタが捌く。そして笹本が日本宇宙軍の話に付き合うものとされてはいた。

 ちなみに叢雲、サントスなどの20歳未満の参謀、参謀本部員は今回の応対には幼すぎてボロが出るという事で今回の応対には外していたはずなのだが、各所から無線無電緊急報告がひっきりなしに上がってくる。

「サブアドミラルササモトですか?今スタッフムラクモの周りに検証武官さんが集まっています。私では階級柄何も言えませんで……対応をお願いしますよ」

「笹本さーん、私の所にマスコミ沢山来てますよー。呼んだんですか?」

「笹本准将、僕の所にも観戦武官が。どうも特殊部隊みたいなんですが。何をどうした物やら困っています」

「副提督、大場みぞれさんの所にもどうもナイフ使いっぽいのが山ほど……なんかきな臭いんですよ」


 どうしてこうなったと悩むのもバカバカしい。検証武官は大概が将官。最低でも佐官級が派遣されている。一方それを迎えるのはグエン提督中将と笹本が准将の二人きり。

 実の所応対係になっているウルシュラ・キタ、エチエンヌ・ユボー、叢雲早苗が中佐。ナオミ・フィッシュバーン第一戦艦船団長と大場忠道第2戦艦船団長が少佐。大場霙さんに至っては中尉、大場雄哉君は少尉だ。良い言い方をすれば自由な見学を許す下地を階級の低さが作ってしまったのだ。悪い言い方をすれば舐められたのだ。


「各検証武官には何でも答えてください。正直言って隠す物なんか何も有りません。大場みぞれさんは喧嘩にならないようにしてください。そちらにとりあえず二人大佐を送りますので」


 一応大佐が艦隊内には二人いる。モンゴル原始共産主義共和国のドルチドトエン医術大佐御年92歳と渡辺真美子烹炊ほうすい大佐59歳だ。二人とも武力無し艦隊指揮権無しという応対の役には立たない紙切れだけが証明した佐官だ。しかしもう送れる佐官なんか居ないのだ。

「で、小島さん。すまないんだけど今回マスコミを招待した覚えは有りません。そいつらは全員密航者です。逮捕監禁してください。近所に居る各員もAI歩兵と協力して捕えてください。暴れる奴には攻撃も構いませんが……殺さないで!」

 小島と周囲の者がピックアップされ了解の声を発して逮捕拘束に踏み切り始める。何故かこれがハイライトになっているのには驚いたが、マスコミが次々拘束されていく。マスコミが報道の自由がどうのこうのと言ってはいるが、公国の刺客や間諜だったら堪らない。

 予定にない奴らはこうなるべきだろうし、自分の身は自分で守って貰わなくては今後もマスコミなんか受け入れる事は出来ない。

「やあ笹本准将。思い切った事しますね」

 日本宇宙軍の高官が言ってきた。それに笹本は簡単に答えた。

「マスコミの皮被ったスパイかも知れませんし、どうやって入り込んだのか分からないし予定も無いしそれに……」

「それに?」

「こいつらが地球外来有害鳥獣で無い保障も無いのですから」

「まあ。国民を守らなくてはならない日本宇宙軍とは性格も対応も違うさな」

「各艦に連絡!検証武官に混じって不審者が紛れ込んでいる可能性がある。私服の者を捕えろ!」

「ま。仕方ないよね。どうやって入り込んだのやら」

「全く。お陰でまた戦争ですよ」

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