第9話 戦後に制服が配給される。グダグダぶり

 難破船の戦いから2日後、やっと掃宙艇が到着してくれた。教官達が勝利を何度も確認し安全を確認してからの送致ではあったが、制服と同時にやって来てくれた事が笹本には嬉しかった。何がどうとかではない。

 このままほって置かれたら、実の所士官学校生徒以上の扱いを受けないし、ジュネーブ条約で守られた軍人の要件すら満たしていないのだ。

 勝てたから良い物を、もし負けて捕虜になった時、即刻頚を刎ねられてもおかしくない状態だったのだ。


 その制服は流石に世界各国から集まった国家連邦政府こくれんさんである。軍装も多様に選ぶことが出来るし、色や模様を豊富なパターンから選ぶことが出来る。その制服が届いたところで明日やって来るインドネシア宇宙軍第8哨戒船団に如何なる報告と連絡をすべきかについての打ち合わせと、新規抱え込みの参謀本部メンバーの顔合わせをしたいと参謀長及び提督の連名で参謀本部を招集した。全員が制服を着て揃うのはこれが初めての筈だ。

 

 今までは宇宙軍研修所で配られていたださぼったい紺色の襟付き作業着か、同じ色の体操服とジャージのどちらかを着ていたのだ。それに階級章のワッペンと所属を記したバッジを付けてはいたが、それだけで軍隊と認めてくれるほど敵は甘くは無いだろう。

 

 笹本の軍装は土色のスーツを採用した。胸には笹本のエンブレムである白地に黒抜きで丸に柏葉一枚の家紋の盾形のそれを取り付け、肩には笹本の階級である准将の階級章がちゃんとはまっている。そこに更に参謀長のバッジを取り付ける。おろしたてのワイシャツに合わせるネクタイは一応3本。紺、赤、灰と用意したが何と言ってもここは赤一択だろう。気分が華やぐようだ。


 なんてことを思いながら会議室で参謀府の面々の到着を待つ笹本に、早速入室が有る。一番最初に入って来たのは案の定大場一家ファミリーだ。

「お初にお目にかかります。招集に応じました第8重巡洋艦船団長の大場あられと申します」

 そのいで立ちはなるほど詰襟モンゴル風の『デール』と呼ばれる装束だ。確かに制服の中にそれは認められているが、更に驚いたのは父親の忠道さんと小柄な息子雄哉君だ。道着だ。剣道の防具を付けていない道着に階級章と本人たちのエンブレムが付いている。これも認められている軍装なんだから国家連邦政府こくれん軍さんは懐が広い。馬鹿なんじゃないかって位に懐が広い。

 実は理由が有るのだ。殆ど戦争が無い時代に軍人を集めようにもやりたがる人なんか居るわけがない。その為国家連邦政府宇宙軍はまず、人類に有害な地球外来生物種の駆除を行う名目で募集したのだ。

 その反動も有ってか軍装でオシャレを決め込ませるのも福利厚生の内だと考えているのだ。


「ってうわ!」

 笹本が更に驚いたのはみぞれの軍装だ。なんと大学の卒業式なんかでよく見る着物に袴。俗にいうはいからさんみたいな恰好をしている。それでもエンブレムと階級章はちゃんとついている。控え目でありながらそれでいて本当の卒業式に居てもおかしくない模様なのがお見事としか言いようが無い。

「制服に有るの?」

「はい。有りましたよぉ」

 霙さんは相変わらずポニーテイル姿ではあるが、あの日と違って目はほんわりトロンとしている。多分元々こういう子なのだろう。

「自由度高いな」

「そうですねぇ。この後も自由度高めな女の子が何人か居ましたよ」

「え?」


 会議室にノックもせずにその自由度高めな女性が4人入ってきた。自由度高めなのは叢雲と小島、そしてアリーナだ。

 確かに自由度が高い。それ以外の各務原若葉だけは型にはまり過ぎていて驚いた。まるでリクルートスーツ。頭にはギャリソンキャップ。この人には剣も銃も似合わない。電卓とメモ帳が有ればそっちの方が実力を発揮出来るに違いないのだから。


 残りは自由度の固まりだ。叢雲は黒のスラックスに黒の詰襟。女の子なのに完全な学ラン姿だ。それに任意の黒いマントを付けている。

「叢雲さんはどうしてこうなったんだい?」

「はい。金色夜叉をイメージしてみました。来年の今月今夜この月の……」

「読んだこと無いよ。私静岡県民なのにだよ」

「コンジキ?そんなアニメ見た事無いぞ」

「アニメ以外の創作物を知ってください」


 笹本にはツッコミの方が追い付かなかった。いや叢雲さん女の子なんだから寛一よりお宮やらない普通?

 よく熱海の話だって知ってたよね小島さん。でも君は掛川の人だよね。知ってなくても仕方ないと思うよ?

 アリーナはまずアニメから離れようか?

 そんでもって各務原さんは小説や舞台を創作物言うの辞めろや。笹本は何一ついうより先に小島の軍装に更にびっくりした。

 紺のスーツにプリーツの多い同色のスカートをウエストで何回も折って膝上15センチのミニスカにして、制帽に作業キャップを前後ろ逆にしてあみだにひょいとかけている。下着類は任意なのだがスカートの下から見えるようにスパッツを履いている。笹本の『JKか⁉』という心のツッコミは呑み込まれていく。更なる。最早何かの原住民みたいないで立ちをしているアリーナを見たからだ。

 真っ赤な短スーツに緑のベスト、黄色のシャツ。スカイブルーのキュロットスカート、頭には茶色の二角帽コックドハット。極めつけは抜けるように黒いネクタイをちょっと崩して付けている。色弱なのか?アリーナは色弱なのか?でなければ色使いがおかしいだろうが?


 笹本がゴチャゴチャ考えている間に次々参謀本部の面々が揃った。それぞれに個性的に過ぎるので笹本が苦言を呈した。

「えーと皆さん。軍装が随分個性的なようで僕は困っているのですが。みんなとりあえずカブくなよ」

「バカを言うな。ケンジだってなかなかな物じゃないか」

「笹本さんシャツの裾が半分だけ出てますよ」

「え?」

「ハハ。軍刀は上着のウエストマークではなくズボンのベルトに下げろよ。ハハ」

「え?」

「申し上げにくいのですが寝ぐせと無精ひげを何とかした方が宜しいかと」

「え!」 


 笹本は言われた箇所を撫でまわして言うしかなかった。

「すると何か。僕が真っ先にカブいていたわけか」

「生憎そうなるわね。ササモト」

「まあ、自ら率先する笹本君を嫌がる理由は無いけどね」

 エチエンヌ・ユボーとウルシュラ・キタがそっと肯定した。

 この傾奇者と同列だったか……気まずい沈黙が会議室を満たす。

 

「……提督、こんな時僕はどうしたら良いんでしょうか」

「わしに対処出来る事を聞いてくれんか?身だしなみは社会人の常識だとばかり。寝ぐせと無精ひげって。まあ笹本君らしいが」

「えーと。仕方ないので始めますね」

 微妙な空気が流れる中、参謀本部の会議が始まる。

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