第6話 大場 THE サムライファミリー
「ケンジ、パーラが動き出したよ」
笹本は大提督パーラとの対決に心が
「あんな所で溶解温度に達しないのか?奴の船は化け物か?」
エチエンヌ・ユボーが思わず声を荒げた。
「少なくともパーラは化け物ですよ。サントス、右翼方面この辺りまでの指揮を頼めるか?どうも大した艦船が回り込んでいる訳ではないようだけど。君にしか頼めない。やってくれ」
欲しい時にホログラムが出て手で仕切ればそれで指示は終わりだ。後はサントスがテレポーターでその辺にいる第12戦艦船団のネームシップ『ぴゅう太号』に移乗すればサントスがやってくれるのだろう。
「残りは左翼側の生き残りを攻撃します。何でも撃ち込んでやれ!」
参謀も手元に居るのは笹本自身とユボーだけだ。
「教科書通りの頭でっかちが残ってしまったわね。不満でしょうけど」
「僕はユボーさんを評価してますとも」笹本はユボーに顔を向けて答えた。
「こんな無茶な作戦に反論してくれたのはユボーさんだけですから」
「だって常識的に無茶でしょ」
実はもう一人、参謀ではないが本当なら笹本が頼って良い人物が一人いる。それはグェン提督だ。がっちり各艦船の督励と心配りに腐心している。
「第2戦艦船団さん、白兵戦の様子はどうですか?無理はしていませんか?」
「ああ提督、目下こちらが押しています」
グェン提督と話している大場船団長の姿がホログラムにアップされるのが笹本にも見える。何故か船団長自ら白兵戦用の日本甲冑型ライトバリアーを全身に貼り、長身のビームサーベルで艦内に居る敵のAI歩兵を薙ぎ倒している。
「船団長自ら剣戟を振って押している?」
「ああこれは……思わず血が滾ってしまいましてね。ははは」
大場船団長は笑いながらAI歩兵を両断し、切り返す時に敵が放った無反動銃の弾をはじき落とした。おそらくこの大場船団長は名うての剣豪なのだろう。それがハイライトの1枚目に指し替わった。
2枚目は小島旗下の師団長でアサルトライフルにビーム銃剣の男の子だ。笹本はふいと見るとナノテクマシンが反応した。
第7揚陸艦船団師団長大場雄哉(18)
日本国惑星イザナミ南5-北州石鐘村出身
州立南沢口高校卒業
プロフィール/本国の銃剣道はどんなものだか楽しみです
どうも各コメントは女性の方が多いようだ。
「可愛くてカッコいい!」
「私も突かれに行かなきゃ」
「結婚して」
「あなた列に並んで順番待ちなさいよ」
「サムライキッズ♡」
「ファンクラブ入会窓口はこちらですか?」
女性乗組員からぽつぽつ人気が出ているようだ。しかしこの男の子はやけに淡々としている為か活躍の割に目立っていない気がする。
逆に目立っているのはハイライトの3枚目だ。第2戦艦船団のその師団長は敵のAI歩兵の攻撃をやはり白兵戦用の日本甲冑型ライトバリアーをまとい、透けたバリアーの下には寒かったのだろうかドテラを着込み、そのドテラに階級章などを取り付けている。
サラリとした長い髪をポニーテールに縛り、ビーム薙刀を振り乱しながら、今突っ込んできた敵の駆逐艦に逆侵攻をすべく突入していく。ヒュンヒュンと振り回した薙刀は、敵のAI歩兵を次々と壊していく。多くの外国人にはこれが着物に見えるのだろう。この女性の方がコメントが多い。
「おい、キモノのサムライも居るぞ」
「綺麗な女の子だな」「素敵な女の子だな」
「あれだろ?これがサムライレディなのだろ?アニメにも侍少女よく出てくるよな」
「あの振り回す槍はなんて武器だ?」
「あれはあれだ。多分ハルバートだ」
「薙刀です」
「ナギナタ。なんてクールな」
「まあ日本版軽量ポールアックスとでも」
「日本の女性向け武器って位置づけです」
「ああ。昔は男性や僧侶の武器でした」
「聞いてみるんだが日本人って戦闘好きなのか?」
「いいえ!」
何故か日本人以外の兵員は日本びいきな人物が多いようだ。海外の募集要員の一部が俗に日本びいきな人物を狙ってダイレクトメールを送付し、ただで日本で行って働けるとアピールして集めた者も多いらしい。日本以外では有効な手段だろう。コメントも日本のイメージ修正の為に飛び出してきた日本人と思しき人が増えている。
彼女の姿にナノテクマシンが反応する。
第2戦艦船団師団長大場
日本国惑星イザナミ南5-北州石鐘村出身
州立南沢口大学農学部発酵生産学科卒業
プロフィール/家族で来ました。宜しくお願いいたします
なんだか随分大場という武闘家を見てしまったが、どうやら家族らしい。
実の所笹本にはほんの少しだけ余裕があった。大提督パーラといえども天空から味方艦が降り注ぐ中では思いのほか実力が発揮できないようだ。かといって背を向けて撤退するのは艦の腹を見せることになる。そんな事をしたら敵軍の格好の餌食である。
今盛んに前と右翼に打って出ようとしてはいるが、大きな攻撃に出来てはいない。公国の艦船もあまりに恒星カノープスに接近しすぎると溶解してしまう。右翼からの攻撃は例えて言うなら渡り廊下程度のスペースしかないようだ。まともな攻撃なんて出来はしない。
多分なのだが乾坤一擲の一撃もパーラには読まれているのだろう。動きが活発になっている。多分正面を食い破って継戦するか何か策を練るかする気で居るのだろう。尚、小島のカミカゼアタックは笹本の作戦の外に有った話だ。あれは笹本の言うところの最初の一撃ではない。随分と楽にはなったので小島には感謝しかないが。
楽になった中ではあるが艦内でウルシュラ・キタが大騒ぎしている。
「逆揚陸出来た駆逐艦に乗り込んでOSを書き換えて味方にしましょう!」
グェン提督に意見具申しているが、もう一撃まで1分しかない。残念ながら却下されてしまったが、ウルシュラはそこで挫けたりはしなかったようだ。パソコンの前で何かやっている。
第6艦隊の左翼をカノープス第1惑星『ダルマバンシャ』が通り過ぎる。それが笹本が皆に約束した15分の合図だ。そこの影の部分に開戦前に叢雲に率いられて消えた高速戦艦と軽巡洋艦が奇襲の為に隠れていたのだ。
「お待たせしました先輩さん。敵がどてっぱら見せてる絶好の殲滅スポット頂きました。ドンドン放て!殲滅してください!」
無線連絡と各艦への指示を同時に行った叢雲は、相変わらずどこを見ているのかも何を考えているかも分からない顔をしている。しかし叢雲がこの15分に集めておいた情報は的確だ。
小島
高速戦艦は戦闘時の高速性を維持する為に主砲は積んでいない。替わりに異例な量の電磁レーザー砲を積んだ速射性と砲撃量が魅力の艦船だ。
目の前のリモート艦を次々吹き飛ばし、遂にパーラの反対側に居た提督の座乗艦であり指揮艦を仕留めてしまった。ここに敵の3艦隊の内2艦隊が戦力を充分に残したまま沈黙したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます