第5話 爆『KAMIKAZE Girl!!』誕
「という訳でこのライン付近にいる艦船は援護射撃を盛大にかましてやってくれ」
笹本がそう言うと小島の揚陸艦船団の位置や敵の指揮艦の位置、更にそれを直線に繋いだ予想進行ルートが3次元ホログラムで出てくる。
なんて便利なんだと笹本は思ったが、便利はそれ以降も続いた。進行ルート付近にいる航宙機乗りや船団長がモニターアップされたのだ。彼ら彼女らが一斉に返答する。
「了解」「ラジャー」「イエッサー」「ガッチャ」「ヨーソロー」「アイアイサー」「ほーい」「合点タイショー」
意外に思ったが了解の返答を誰一人統一させる訓練を受けていなかったのだ。これは
そんな事に思いを取られていたのと同じ時に小島が9機あるリモート揚陸艦を凄い勢いで奔らせていた。
揚陸艦は実の所戦闘速度だけはどの艦よりも速い。しかも今回はぶつける事が役目であってその後のことは考える必要が無い。まるで彗星が翔ぶような勢いで指揮艦に突っ込んでいった。
9隻あったリモート揚陸艦の内、2隻は撃沈され一隻はバランスを崩して別の艦船に衝突し、3隻は狙いが逸れて指揮艦の向こうに突き抜けたが、3隻がまんまと指揮艦に突き刺さった。その模様はハイライト1番目にがっちり収録され、第6艦隊の全員が知る事となった。どうやらそのシーンに関する会話もモニターの下に納められているようで、文字列が躍っている。
「あれが……伝説のカミカゼアタックか」
「おい誰だよ誰がやったんだ?」
「第7揚陸の。あ、この子だ」
小島のスナップがアップされている。
「可愛いじゃないか」
「素敵じゃないか」
「このような可憐な少女が咲かせた大輪の死に花、無駄に散らしてなるまいぞ」
「弔い合戦だ!」
「死んで無いよ?死んで無いよ?私は生きてるよ!」
小島までが混ざり込んで盛んに言い合っている中誰かが叫んだ。
「カミカゼガーーーーール‼‼‼‼」
「オオオオオオオオオオオオオオ」
この瞬間劣勢を強いられていた第6艦隊の各員のボルテージが大幅にアップした。
「うわー。こいつら馬鹿ばっかりか」
エチエンヌ・ユボーが呆れた様子で呟いた。
「バカでも何でも良いさ。踏み止まってくれるならね」
笹本が苦笑いしながら答えた。
「笹本君、衝突した揚陸艦のAI兵は7割が使えるみたいだよ。伝えて」
ウルシュラが状況を知らせてきた。
「小島さん、突入を」
「今こそだよ!」
小島から元気な声が帰ってきた。ハイライトの2.3.4番が突入するAI兵とテレポーターで移動してきた師団長が映し出される。
2番ハイライトはどうも艦内の管制スペースに突入したらしい。モニターに向かっていただろう敵の将兵が逃げ出したり立ち向かうべく武器を手にしたりしている。まだAI歩兵が到着していないようで撃たれて脱出テレポーターが発動しては消えていく。やがてこのハイライトは師団長の活躍を大写しにし始めた。
アサルトライフルにビーム銃剣を装着し、小柄な男の子ながら大男3人がかりで襲い掛かる敵を軽やかに捌いて致命傷判定を与えて消していく。
他の2隻は配電や配線区画にぶち当たったらしく、それらを徹底的に破壊し尽くしていく。
1番目のハイライトは船団長席から立ち上がり檄を飛ばす小島の映像だ。
「行け!進め!敵をやっつけろ!蹂躙の時間がやって来たよ!向かってくる敵は勇敢な敵だ皆殺せ!逃げる敵は狡猾な敵だ!討ち果たせ!死んだ敵兵だけが良い敵兵だ!悔い改めよ!ジャスティース!」
チャットも変な方向で大盛り上がりだ。
「こんな奴らに俺のご先祖様はガチンコで戦ってたのかよ。俺二度とこいつら怒らせねえ」
「おっと株式会社USAの弱音は聞きたくないぜ」
「カミカゼの次はこうなるのか。何と恐ろしい」
「あれだ。日本って昔から討入りとか好きだよな。それだよきっと」
「こんな奴らと西暦年間にやり合ったバカな国が有ったらしい」
「おい、株式会社USAの悪口はそこまでだ」
そうこう言っている内に指揮艦からの指令が届かなくなったリモート艦が次々に砲撃を停止し、コントロールアウトしていく。5番目のハイライトがそれを映している。
艦船が次々と他の艦船に衝突しては炎上し、重力に引っ張られ右翼方向である恒星カノープスに引っ張られていく。どうやら総司令官であるアシモフとかいう人物の座乗艦だったらしい。大船団の真ん中に攻撃の止んだ場所がぽっかりと広がっていく。
笹本にとって意外だったのは1艦隊に所属する艦船の総てを指揮艦1隻で運用している事の方だ。
笹本と傍らに居たサントスが思わずレーダーを見てみる。提督や参謀、そしてある程度名を馳せた人物はエンブレムが用意されている。レーダーにはそのエンブレムもどこかに記載されている。
第6艦隊のエンブレムはグェン提督の紅に黄色のS、笹本が白に笹本家家紋である丸に柏葉一枚紋。サントスが黒に横棒に
そこには黄色に黒抜きのコンドルのエンブレムが燦然と残っている。本当ならアルゼンチン宇宙軍A+判定の提督、アレハンドロ・パーラのエンブレムだ。笹本以下多くの参謀本部員が見て見ぬふりをした大提督が、総司令官アシモフに取って代って艦隊の指揮を執り始めた場合、絶対に勝てない相手が残ってしまったのだ。
開戦後7分経過。約束の15分まで8分しかないのにも拘らず、笹本もサントスも安心なんか出来ないでいた。辛うじて安心できる点が有るとすれば、戦場では無能な司令官と判明して死亡判定を受けたアシモフが率いていた艦船が重力に引っ張られてパーラの率いる艦船に衝突して炎上している事だけだった。
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