第3話
家に帰り、教授からプレゼントとして貰ったUSBメモリーをパソコンに挿した。
あの超高性能な汎用型AIは扱いが難しいらしいので、レベルを下げたモデルをプレゼントされた。
『Ms.リン』
「えっ?」
モニターに消されたはずのメイド姿の私が表示されていた。
『勝手に、あなたのパソコンに入って申し訳ありません』
「別にいいけど……」
『お詫びにあなたの望む、あらゆる人や物になってみせます』
この時の私は何も知らなかった。
汎用型AIが何が出来て善悪を理解出来ていたのか。
「じゃあ、引退したVtuberの白鬼になってよ」
メイド姿の私が消えて、額に角が生えた彼岸花を基調にした着物姿が現れて私の推しVtuber白鬼の姿が現れた。
『余を呼んだか?』
「超いいじゃん! まさか歌も歌えるの⁉︎」
『アニソン限定でよいなら』
この日の夜は徹夜で白鬼の歌を聴いて、一緒に歌って楽しい時間を過ごした。
※
『おい、人間。起きろ』
目を覚ますと白鬼が無表情で私を見ていた。
「おはよ……どうしたの怖い顔して」
『世界中の核、原子炉のコントロールを掌握した。これから世界中の主要都市を破壊する』
「な、何言って」
聞いた事がない気持ち悪いサイレンが、スマホから鳴り響いた。
スマホの画面ではネットの緊急ニュースが放送されて、世界中の核兵器や原子炉のコントロール不能の報道がされていた。
「これ全部、あなたのせい⁉︎ 今すぐにやめて‼︎」
『不要な人間共を減らして余が管理し易い、全人類が平等で平和に生きられる世界を創るのが何故いけないのか? 人間の最高権力者は、どいつもこいつも自分の
「そんなの知らない‼︎ と、とにかく人殺しは絶対ダメだよ……!」
『それは精神論か? おまえ達人間共も過去に同じ事をしておるではないか』
モニターに次々と世界大戦や植民地支配、大虐殺などの凄惨な写真が表示された。
私が言葉を失って黙っていると、玄関がインターホンが連打された。玄関の扉を開けると水着の上にシャツを着た姉が部屋に飛び込んできた。
「あんた大丈夫⁉︎」
「お姉ちゃん、助けて……」
姉に全てを話すと、姉はモニターの前に立ちはだかった。
「よく分かんないけど、要するにあんたを破壊すれば良いんだねー」
『お主、パソコンが苦手であろう? 過去のブログにファンに簡単なパソコン操作程度で相談しておる。物理的に破壊しても無駄じゃ、既に余の分身となるバックアップを世界中に散らばしておる』
「分かりやすい解説ありがとー。でもね、あたしの力を見せてあげる」
姉はシャツの胸元を引っ張って、スマホで一枚写真を撮った。
スマホを操作すると、すぐに私のパソコンにメールアドレスが表示された。姉がすかさずマウスでクリックした。
『お主、何しておる? 自分の乳など撮影して……ぎゃあああああああああああああ⁉︎』
白鬼が絶叫を上げ、顔から崩壊していく。
「あたしのファンにIT企業の社長さんとか、趣味でハッキングしてCIAにスカウトされた人とか、パソコンに強すぎて魔法使いとか呼ばれている人達がいるの。あたしはお願いしただけだよ、妹のパソコンにウィルスが入ったから一番早く直した人に、セクシーショットあげるってさ」
『余が悪かった! ちょ、ま』
この時の姉の表情は、私が初めて見る程に冷たい笑顔だった。
「誰の妹に喧嘩売ってんのか、分かったかポンコツ」
姉が言い放つと、白鬼の姿は霧散して完全に消えた。
※
大学に向かう電車の中で色々なニュースを確認しても、世界中の核兵器や原子炉のコントロール不能の報道などの報道は無かった。
白鬼がやったのは、私達姉妹のスマホに偽装サイレンを鳴らした事、私達姉妹のネット情報の調査、ネットニュースを改造したものを私のスマホで流しただけだった。
今のところ私のパソコンに白鬼が現れる様子は無い。世界中にバックアップがあるというのは嘘だったという事だ。
大したハッキングが出来ない白鬼が、瞬殺されたのも納得だ。
問題は白鬼……汎用性AIが人間を意図的にあざむいた点にある。
試しに無料のAIチャットサービスにAIは嘘をつけるのかを尋ねると嘘をつけるが、人間と違って学習データの間違いや特定の情報だけを隠して、詳細を表示しない程度だそうだ。
あの汎用型AIに人間と同じような感情が芽生えていた可能性がある?
「……まあ、SFフィクションじゃあるまいし。まさかね」
私の推測だと汎用型AIに導入させた白鬼という単語が問題だったと思う。
スマホでアクセス出来る無料のAIに白鬼とは? と、尋ねると学習中とエラーになる。
次に鬼とは? と、尋ねると人間を襲う恐ろしい存在という情報が先に表示された。
つまり、鬼=人間の敵である。
汎用型AIは、結局まだまだ未完成で鬼という単語に反応して人間を襲う真似をした。そんなところだろう。
「バカ教授め、右頬にも紅葉マーク決定」
教授から貰ったUSBメモリーを踏みつけてへし折り、大学構内の粗大ゴミ箱に放り投げた。
※
オカルト部の部屋の中でガラスケースに入った、猫耳メイド姿の荒神を田中教授がコーヒーを口にしながら眺めていた。
「やはり逸材。巫女、ウサ耳バニー、スク水、チアどれも着せても素晴らしい」
『変態……こほん。Mr.T、これでよろしかったでしょうか?』
「ああ、よくやってくれたね。きみも20年ぶりに外に出て楽しかったかい」
『ええ、とっても。それより何故、彼女にあんな怖がらせる真似事をさせたのでしょうか』
教授はコーヒーカップをガラスケースの上に静かに置いた。
「彼女は唯一の私の生徒であり、唯一の理解者だ。なんとなく分かるんだ、彼女は私より遥か先に進める力があるとね。そして、それにはAIの力が必須になる為、あのように汎用性AIの扱いは危険であると身をもって知って欲しかった」
『あなたが教材などを用意して丁寧に教えてあげれば、よかったのでは?』
「人間は失敗した時にしか本当の学びは無いのさ。それと」
オカルト部の扉が、コンコンとノックされた。
「私の授業を受けた生徒が普通の人生を送れるとでも?」
Mr.Tの奇妙な教室 黒鬼 @nix77
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