第9話
日が落ちる。
向こうの山に橙色の大きな太陽が隠れはじめる。空が、山の端が赤く染まる。
麓では湖が黄色く輝いていた。
準備は終わっているらしい。
「たぶん今日生まれるよ」
レオの瞳は黄金色に染まっている。
一発の空砲が鳴る。
これから始まる。
提灯は次々に飛びはじめる。
列をなし続々と飛び立つ姿は風になびいて龍のように昇っていく。
「見て」
泉が淡く光る。
水面に提灯の黄金色の龍が昇っていく。
「やっと孵るんだ!」
だんだんと強く、輝きを増していく。
「え、龍の赤ちゃん初めてみるかも」
「大人でもなかなか見れないよね」
ミャーコとマコトは歓喜の声を上げている。
その時、
ブォーと山が揺れるほどの突風が走った。
枯れ葉や小石が巻き上がり、小鳥も枝から落ちるほどの風。
水面は荒れ、昇り龍の姿も映さなくなってしまった。
それと同時に泉は光ることをやめた。
「提灯がっ!」
少女の悲痛な叫び。
空で提灯が舞っていた。
列は乱れ、落ちるものもある。
これでは龍にはならない。
「どうするレオ」
「レオ」
「なんとかできないの」
「どうして」
「怖がらせちゃうかもしれないけど」レオは少女の目を見ていう「俺たちは人じゃないんだ」
瞬間、レオは黒いライオンに変化する。
「ごめんね」
ミャーコはネコに。
「内緒にしてね」
マコトは鳥に。
「任せろ」
シンはイノシシに姿を変えた。
シンの魔法で上空へ六班全員を移動させると、ミャーコは自らを空気に変化させる。
落下しながらマコトの魔法で風を整理し、レオの魔法で未来を微調整する。
空には長い龍が昇っていく。
体をうねらせ、悠然とその姿こそが正しいとばかりに。
落ちながら山の泉が光るのを見た。
とても強い光を放つと、小さな何かが飛び出す。
それは真っ白な龍だった。
まだ小さく細いが虹色に輝く鱗が印象的なとても美しい姿をしていた。
『ありがとう』
すれ違う中で少女の声がした。
夜と夕の混ざる狭間、その小さな龍の行き先に数多の龍の群れを見た。
「良かった」
誰かがいう。
みんな頷いた。
自由落下しながら。
「地面まであと数分」
「シンの魔法で」
「ムリ魔力切れ」
「私も切れた」
「ならレオは何かない? 助かる未来に連れていってよ」
「、ごめん」
「どうすんの、全員で死ぬの!?」
マコトの叫びがこだまする。
全員目をつむる。
地面に叩きつけられるんだ。
そう覚悟を決めた。
「六班で良かったよ」
そうだね、全員が頷いたのが見なくても分かった。
――パカッ
『六班さん、レクリエーションクリアおめでとうございます』
のんきな先生の声。
目を開けると見慣れた学園の前にいた。
六班は無事生還した。
「生きてる?」
「らしい」
「良かった」
「良かったよ~」
六班はひとしきり抱き合っていた。
腰が抜けて立てないとは誰も思わなかったという。
龍の泉を輝かせろ 宿木 柊花 @ol4Sl4
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