第7話

「マコト頼めるか」


「別にいいけど意味があるとは思えない」

 杖を両手に持ち、マコトは呪文を呟く。

 木々がざわめき、草花を揺らしながら風が集まる。降り注いでいた光は粒になってマコトの周りをゆっくりと回る。


 音が消え、舞う枯れ葉は宙にまる。


 淡い光が徐々にマコトの体を包み込み、マコトは踏みしめるようにを歩く。

 その足元から波紋を描くように水が澄みわたっていく。底の見えない泥水は水底の砂粒一つまで見えるほど、どこまでも透き通っていく。


「何度見てもすごい綺麗」

 見惚れるミャーコは植物に変化へんげして地中を調査している。


「ミャーコだって十分じゅうぶんすごいだろう」


「みんなすごいよ。この調子ならすぐに調査も終われそうだね」


「本当に……」





 底なし沼は見る影もなく透き通り、青空を反射してキラキラと輝いている。

 そこに一匹の金魚が跳ねた。


「ミャーコどうだ?」


 金魚は岸に近づくと高く高く飛び上がった。

 くるりと回転して着地したミャーコは何か納得したような顔をしている。

「レオの仮説通りかもしれない。ここの底には何かある」

 

「浄化してる時に何か感じた」


「だが底をさらうにはあまり時間がないぞ」


「すごくキラキラ」


「何か方法があるはず」


 四人は泉のほとりで水を掬っては眺めている一人の子供を見た。

 浴衣とは違うハッピとも違う和服を着た少女。

 自力で来たとは思えないほど身なりは綺麗で汚れ一つついていなかった。


「女の子だよね?」

「町で見る子と雰囲気違うような」

「いつからいた? 巻き込んでしまったのか?」

「一般人に魔法を見られた!?」

 六班は大慌てで緊急会議を開く。


「これだけ綺麗なら、きっと見えるよね?」

 少女はキラキラと水面を反射させる泉を眺めている。

 ザブンっ……!


「な、!」

 シンの目のはじで泉に消える少女を見た。

 そばを打てるほど太い杖を泉に向ける。

「やめろ! 一般人に魔法を使うな」

 レオがその杖を握りしめる。

「だがこのままでは」

 振りほどこうとするシン。

「私が浮き輪になれば」

 駆け出そうとするミャーコに足を掛けて阻止する。

「それでは……」


「普通に飛び込めばいいっしょ?」

 小脇に少女を抱えたマコトが髪をかき上げながらずぶ濡れになったシャツを払う。

 少女は困惑しているのか、自らの小さい手を眺めていた。

「見えてる? なぜ?」

「目の前で泉に落ちたから拾った」

「違う!」

 少女は活きの良い魚のように暴れるとマコトの腕からスルリと抜ける。

 混乱しているのか落ち着きなくうろうろしている。

「今の人間はうちが見えなくなったはずなのに、お前たちはなんで見えるようになったんだ!」

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