第101話 生存本能って怖いなぁ(棺桶に片足突っ込んで全力疾走)
「「「「若返りの薬を売ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」
物凄い数のおばさん達が殺到してくる。
「うひぃぃぃぃぃぃ!」
逃げる私。ひたすら逃げる私。
「ま、待ってくれぇ、儂に薬を売ってくれぇ……」
そして車椅子に乗って現れるお爺さん達とそれを頑張って押す黒服の人達。
そうなのです、私は今無数のお爺さんお婆さんおばさんに追いかけられていたのです。
「姫様、上! 上に!」
「そうか!」
リューリの言葉に自分が飛べることを思い出した私は、羽を羽ばたかせて空へと逃げる。
「ふぅ、助かったぁ」
「キュイ!!」
しかしクンタマの切羽詰まった悲鳴に何事と振り返れば、そこにはおばさんの顔が」
「ひぃっ!?」
「ちぃっ! よけられた!」
間一髪で回避された事を悔しがりながら、おばさんが地上に落ちてゆく。
「姫様! また来る!」
「ええ!?」
リューリの警告に振り向けば、地上から飛び上がって来た無数のおばさん達の姿が私に近づいてくる」
「うひゃあ!」
必死でおばさん達の群れを回避する私。
「「「「若返りの薬売って頂戴ーっ!!」」」」
何なのこのおばちゃん達!? 身体能力高すぎでしょ!
「姫様もっと 高く!」
「これ以上は無理ーっ!!」
「キュイキュイ!」
クンタマの警告に振り向かずに回避。
背後からチッという何かが掠る音。
「とにかくここを離れて!」
「わ、わかった!」
しかし私の飛行速度はそこまで早くない。
おばさん達の襲撃を回避しながらじゃ猶更だ。
「このままだと捕まっちゃう!」
単純な速度が足りないなから、逃げる方向に先回りされちゃう。
「キュキュイ!」
と、そこでクンタマがある方向を指差した。
「え? あ、そうか!」
と、クンタマの言葉が分かるリューリがなるほどと手を叩く。
「姫様あのビルに向かって!」
「ビル? でも中に入る前に捕まっちゃうよ!?」
中に入るには一度地上に降りなきゃ入れない。そこで捕まったら中に立てこもる事も出来ないよ!?
「いいから! クンタマに任せて!」
「わ、わかった!」
私は言われた通りビルの方角へと逃げる。
道中もおばさん達がピョンピョン飛び跳ねて襲ってくるのを回避する。
「網だ! 網を用意しな!」
「ロープ持ってくるんだよ!」
ヤバイヤバイ、早くしないと捕まっちゃう!
向こうも私の回避パターンを理解してきたのか、どんどん狙いが正確になってきている。
「着いたよ!」
なんとか捕まる前にビルに到着するとクンタマがビルに向かってジャンプする。
そしてビルの外壁に張り付くと巨大化。
「姫様クンタマに捕まって!」
「そうか!」
すぐさましがみ付くと、クンタマは物凄い勢いでビルを登り始めた。
「逃げたわ!」
「追うのよ! ビルの屋上なら逃げ場はないわ!」
確かに、このままだと屋上の入り口を封鎖してもジリ貧だよ!
そうこうしている間にもビルの屋上に到着する。
「姫様転移して!」
「あっ、そっか!」
◆
「ふぅー、助かったぁ」
世界転移スキルでエーフェアースに転移した私は、皆と一緒にどこかのお家の屋根にへたり込む。
しかしうっかりしていた。そうだよ、逃げるなら転移すればよかったんだ。
「ああでも、人目に付く場所で転移するのもそれはそれでマズいかぁ」
転移スキルが使える事がバレたら、自分にも使い方教えろっていう人出るだろうからなぁ。
それにうっかり転移に集中してる時におばちゃんに捕まったら、おばちゃんが異世界デビューしちゃうところだったよ。
「助かったよ二人共」
「ふふーん、役に立つでしょ!」
「キュイ!」
「それにしても、あのおばちゃん達怖かったねぇ」
「だよねー」
「っていうか何でおばちゃんがあんな飛んだり跳ねたりできるの?」
「冒険者だったんじゃないの?」
「あ、そっか」
そうか、あの世界はずっと前からダンジョンがあるんだもんね。って事は一般人に見えても昔はダンジョンに潜っていてもおかしくない。
なんなら今でも潜っている人が居るだろうしね。
「にしても困ったな。あんなに人が群がって来たらダンジョン探索どころじゃないよ」
「だよねー。あれじゃおちおちお菓子を買いに行くこともできないし」
「キュイ!」
二人も全くだと肩を竦める。
「そんなに若返りの薬なんて欲しいものなのかなぁ?」
「人間の権力者は年を取ると永遠の命を欲しがるって話だよー」
あー、漫画とかでもよく権力者が不老不死をー! とかやってるね。
なるほど、あながちフィクションじゃなかったんだね。
「うーん困った。あんな様子じゃほとぼりが冷めるまで、なんて無理そうだよね」
「作ってあげたら?」
「どんだけいると思ってんの。全員分の薬を作るのにどれだけかかるか分かんないよ」
ものがものだけに大儲け出来そうな予感はするけど、それを作るのに時間をかけ過ぎたら何の意味もない。
私の使命はダンジョンをクリアしまくって暴れまわる大神達の力を削ぐ事なんだから。
「暫くはエーフェアースのダンジョン攻略に専念する方向でもいいけど、ルドラアースのダンジョンでレベル上げもしたいしねぇ」
スキルは便利だけど、レベル上げで能力値の底上げするのも大事だ。
人間最後に物を言うのはレベルを上げて物理で殴るなんだから。
「んじゃあ変装スキルを取得したらどう?」
「変装スキル?」
「そうそう、見た目を変えれば分かりづらくなると思うよ」
ふむ、流石は幻覚系のスキルの使い手だけあって人の目を欺くのが得意だ。
「よし、それでいってみよう!」
という訳でさっそく変装を試してみる事にする。
でも変装って言われてもカツラくらいしか思いつかないな。
とりあえずリドターンさん達に相談してみよっか。
◆
「変装となるとスレイオの得意分野だろう」
さっそく相談に来たら、満場一致でスレイオさんが推薦された。
「おいおい、俺は斥候であって詐欺師じゃないんだぜ」
「それでも我々の中で一番偽装が得意なのはお前だろう」
「はぁ、しゃーねぇな」
溜息を吐きつつも、スレイオさんは私に変装について教えてくれるようだった。
「良いか、変装ってのは大雑把に言えば化粧だ」
「化粧?」
「ああ、髪型を変える、化粧で肌の色を変えるとかだな。なんなら化粧で目つきを誤魔化す事も出来る」
とスレイオさんはお化粧の陰影で釣り目やタレ目、鼻の形、頬の形の印象を変える事が出来ると言う。
「ほえー、お化粧だけでそんな事が出来るんですね」
「あとは服そうだな。ドレスを着て髪を整え、楚々とした態度をとればどんなおてんば娘でもご令嬢になるし、逆にお嬢様でもボロを着てお転婆に振舞えば庶民のガキになる。変装の基本は見た目の化粧と立ち振る舞いの化粧だ」
立ち振る舞いの化粧、つまり演技って事だね。
「お前さんの場合どこを見ても派手だからな。まずは髪の色を変える。これを髪に塗り込め。魔法の染粉だ」
と、渡された粉を髪の毛に塗ると、あっという間に髪の毛の色が変わった。その割に髪の毛が染粉で粉っぽかったりベタベタする事もない。本当に魔法みたいだ。
「これは専用の落とし粉を使わない限り2週間は持つ。次に肌だな。お前さんの肌は城過ぎる。これを塗って日に焼けた農民くらい肌を黒くしろ」
おお、これまた魔法の染粉のように粉っぽくないしベタつかない。
その割に運動で日焼けしたような肌の色なった!
「あとはこの羽根だが……これはまぁ頑張って畳むしかねぇなぁ」
「ですねぇ」
羽を消す事出来ないもんねぇ。
私は頑張って羽をペタンとたたみ、マントっぽくしてみる。
「街中や人前ではそうやって誤魔化すしかねぇな」
「が、頑張ります……」
うん、やっぱこれ羽を畳むの面倒。
あとは町で買ってきた地味な服に着替えて、私の変装は完成した。
『初級変装スキルを取得しました』」
「あっ、変装スキルを取得しました」
「またお前さんは気楽にスキルを……」
半ば呆れられつつも、私は変装スキルを取得したのだった。
「しかしそれでもアユミの気品は隠しきれないな。もう一押し欲しい所か」
しかしここまでやっても私のレディとして完璧振りが邪魔をしてしまうのか、スレイオさんはもう一声と言ってくる。
「やはり貴族系のスキルがあると良くも悪くもオーラが出てしまうな」
ん? 貴族? 何の話?
「あっ、それならクンタマと合体して獣人のフリしたら?」
「そうか、それがあったか!」
「キュイキュイ!」
リューリの意見にクンタマもそうしようとばかりに纏わりついてくる。
「それじゃ試しにやってみようか。謙獣合体!」
「キュイ!」
スキルの発動と共にクンタマが私の中に入って来るのを感じる。
そしてピコンピコンと耳と尻尾が生えてくる。
『中級変装スキルを取得しました』
「あっ、中級変装スキル覚えました!」
「……お前、お前」
何だかスレイオさんが心底呆れててるようなジットリした目で見てきてる気がするんだけど気のせいだよね?
「という訳で今日からは謎の獣人娘アユミだー!」
「せめて名前も変えようよ」
じゃあアユミをひっくり返してミユって事で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます