第100話 試される愛情(砂場の泥ダンゴ料理的なアレ)
「わ、若返りの薬?」
「はい! ダンジョンをクリアしたら手に入りました」
「ダンジョン攻略報酬かい。とんでもないモノを手に入れたもんだね」
「ダンジョンの報酬……確かにそれならありえなくも……ないのかしら? けどそれにしたって都合よく人数分用意できるなんて、もしかして四人で攻略したの?」
「いえ、一人でクリアしました!」
「「一人で!?」」
「あっ、リューリとクンタマもいたので三人です!」
「そのとーり!」
「キュイ!」
いけないいけない、ここで数に入れないと拗ねちゃうからね。
「あと若返りのポーションは自分で増やしました!」
「増やした?」
「はい! 成分と分量を調べて再現しました!」
「そ、そんな事が……」
そう、私は若返りのポーションを再現した。
ただし今回作ったのはルドラアースの材料でだ。
というのもキュルトさんから疑問が上がったのが始まりだ。
何故ルドラアースで手に入れたアイテムをエーフェアースの素材で再現できるのかと。
言われてみればその通りだ。
私はルドラアースとエーフェアースのポーションの作り方を習ったけど、それぞれの世界で使う薬草は名前も見た目も全然違うアイテムだ。
なのに何故か私は若がえりポーションの匂いからエーフェアースの素材の匂いを感じ取った。
そこでストットさんから一つの推測があがる。
「アユミさんが匂いを感じ取った事が鍵かもしれませんね」
つまり私がかぎ取ったのは素材の薬効成分そのものなのではないかと。
乱暴な話だけど、バニラアイスの匂いの元はとある植物の成分だ。
タマネギのツンとした匂いも気化した成分。
「ポーションは二つの世界にあります。しかしその結果に至るまでの素材は違います。では共通点は? そう、薬効です」
だから私が嗅ぎ取った匂いとは、二つの世界の共通点薬効部分だったのではないかというものだった。
で、それを証明する為、私はルドラアースで色んな薬草を買い集め、クンタマと合体してひたすらに匂いを嗅ぎまくったのである。
その結果、ルドラアースの素材でも若返りポーションを作れるようになったのだ。
うん、これかなり凄い事だと思う。
何せ分量や作り方を調べ直す手間はあるけど、同じ成分の材料さえ見つければお互いの世界にないポーションを作れるようになるんだから。
実質新発明みたいなもんだよね。
「これが若返りポーションねぇ……疑う訳じゃないけどまさかそんなものが実在するなんて……」
ふふふ、驚いてるね!
タカムラさん達はお婆ちゃんだから、若返りポーションのお土産は喜んでくれると思ったよ!
うちのお母さん……前世のお母さんもよく「また小じわが増えたわ」とか「あー、また白髪」とか言ってたからねぇ。
「どうぞ! ぜひ飲んでみてください!」
「……ええと」
しかしタカムラさんは困ったような顔になる。
あれ? 嬉しくなかった? それとも薬の出来が気になるのかな?
「大丈夫ですよ。同じのを飲んだ人はバッチリ若返りましたから!」
「人に飲ませたの!?」
そりゃまぁ薬なんだし、飲むでしょ。
「はい、これの調合にアドバイスしてくれた人なんですけど、出来たからにはぜひ自分の体で試したいってグイッといきました!」
うん、キュルトさんの好奇心は凄いよね。
あの人の魔法的な者に対する執念は凄いよ。
ちなみにストットさんはそんなキュルトさんの様子をみっちりメモに取っていた。うん、鬼だね。
「髪の毛が黒くなって、腰の痛みが無くなったって言ってました!」
「自分で飲むなんて随分と無茶する人ねぇ」
「はははっ、活きの良いバカが居たもんだよ!」
呆れるタカムラさんに対して、オタケさんは愉快そうに笑う。
「よし、それじゃ私が飲んでみるよしようかね!」
と、オタケさんはポーションのフタをキュポッと開ける。
「オタケちゃん!?」
「誰かが試した方が良いだろ? ああ、私が若返った事をウチの家族が信じてくれなかったらアンタ等から証明しとくれ。
「証明?」
「アタシがピチピチになっちまったら、美女に戻り過ぎて家族が分かんなくなっちまうだろ!」
ああ、成る程、それでタカムラさん達は飲むのを躊躇っていたんだ。
確かに突然若い女の子がやって来て、ポーション飲んで若返ったなんて言われたら、家族もビックリしちゃうもんね。
「それに腰の痛みが無くなるのは願っても無いことさ! さっさと飲まないとめんどくさい連中が大挙してくるだろうしね」
めんどくさい連中って誰の事だろ?
「はぁ、しょうがないわねぇ。分かったわ。何かあったら私達がフォローするから好きになさい」
「そうさせてもらうよ! ゴクッ!」
オタケさんは景気よく若返りポーションをあおる。
するとオタケさんの体から青いオーラが浮かび上がり、体に変化が起きる。
真っ白な髪の毛の一部が黒く染まっていき、更に腰が真っすぐになって気持ち大きくなったようにも見えた。
「なんとまあ」
お婆ちゃん達はオタケさんが変わってゆく光景を見て目を丸くしている。
「ふぅ、どうだい? 若返った私は?」
とオタケさんがニヤリと笑みを浮かべてこちらに尋ねてくる。
「……あんまり変わんないわね」
「はぁ!?」
いやまぁ。うん。若返ったと言ってもそこまで劇的に変わってはいないね。
「どういう事だいアユミ!? 失敗作だったのかい!?」
「えっと、そうじゃなくて、この薬一気に若返り過ぎないように小刻みに若返るみたいなんです」
「小刻みに? 何でまた」
そう、キュルトさんが若返りポーションを飲んだ時も少しだけ若返るにとどまっていた。
お爺ちゃんから白髪が増えて来た初老のお爺ちゃんくらいに。
「飲んだ人の推測なんですけど、一気に何十年も若返る薬を若い人がうっかり飲んじゃったら危険な事になるから、誰が飲んでも危なくない様に数年刻みで若返る程度に濃度を調整しているんじゃないかって事です」
若返り過ぎて生まれう前まで若返ったらどうなるかってね。
「成る程そう言う事かい。って事は何度も飲めばその分若返るのかい?」
「連続して飲むのは良くないかもしれないので、ある程度時間をおいて試すって言ってました」
キュルトさんとの会話を伝えると、オタケさんはなる程と頷く、懐から取り出した鏡で自分を見る。
「成る程ねぇ、髪もいくらか黒くなってる目皺も減ってるねぇ」
そうなの? 正直違いが分かんないけど。
「アンタも年を取ったら分かるようになるよ!」
ひぇっ、何も言ってないのに!?
「それに肌の艶も良くなってるね。成る程確かにこれは本物だ」
「凄い薬もあったものねぇ」
と、若返ったオタケさんを見てフルタさん達も自分が受け取った若返りポーションの瓶を見つめる。
「小刻みに若返ると言うのもありがたいわね。あと気になるとしたら、薬の効果が永続か時間限定かよね」
あそっか。そういえばこの薬がどのくらい効果があるのかまでは考えてなかった。
キュルトさんが飲んだのが昨日だから、最低でも一日は効果があるんだよね。
まぁその辺はキュルトさんの様子をチェックしていけばいいか。
「流石に若返りの薬が時間限定とは思わないけどね」
「でもこれなら私達が飲んでも大丈夫そうね」
「そうね、大事に持っていても面倒の種になるでしょうし。さっさと飲んじゃいましょう」
オタケさんが何ともなく……無くはないな。
飲んでも困る事にはならなかったので、タカムラさん達も安心して若返りのポーションを飲む。
「あらあら」
「まぁまぁ」
「これはまた……」
と、若返ったタカムラさん達は自分の体の変化に興奮気味だ。
「ほらビビる事なかっただろう?」
「ふふ、そうね」
若返った事で調子が良くなったのか、タカムラさん達はご機嫌だ。
「この後が怖いけど、今だけは純粋に喜びたい気分だわ」
ふふ、喜んでくれて何よりだよ!
と、無邪気に喜んでいた私だったのだけれど、数日後タカムラさんが言った『後が怖い』という言葉の意味を嫌と言うほど知る事になるのだった……
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