第102話 謎のケモ耳娘登場(異世界にケモ耳娘は不在)
ざわざわと、街中が騒がしい。
道行く人達、その中でも老人と一部のおばさん達は物凄く殺気立ってる。
中には若い男との人達もキョロキョロしてるけど、こっちはそれほど切羽詰まった空気を感じない。
「うん、バッチリ気付かれてないね」
クンタマと謙獣合体してケミ耳娘になった私が謎の妖精少女アユミだと気付く者は誰もいなかった。
「ふふふ、これで若返りの薬の事で追われずに済むよ」
「「「若返り!?」」」
「っ!?」
瞬間、さっきだったおばさん達が一斉に振り返り周囲をキョロキョロと見回し始める。
あ、あっぶなー、小さく呟いただけなのに聞こえるとは思わなかったよ。
次からは気を付けないと。
「……」
と、腰にパシパシと何かが当たる感覚。
見れば腰に設置した妖精の小瓶から小さな手が伸び、私の体を叩いている。
「まずはお菓子の補充でしょ。分かってるよ」
そう言うと、手は満足したのか小瓶に引っ込んでいた。
言わずもがなリューリである。
若返りポーションの件で追われている以上、妖精のリューリを連れていたら折角の変装が無意味になってしまう。
なのでリューリにはこうして隠れて貰っているのだ。
念のためリューリにはエーフェアースでお留守番して貰おうと言う話もあったんだけど、それはリューリが絶対嫌だと言ったのでこうして隠れてついてくることになったのである。
「あー、おみみー」
「あらあら、ホント可愛いお耳さんねー」
「何あの耳、可愛いー」
「凄いリアルだけど、どこかの新ブランドかな?」
と、道行く人達は私の耳を見ても本物とは思わず、コスプレ、もしくは冒険者の装備として流してゆく。
「ふひっ、ロリかわケモ少女!」
「肉球ですよ肉球! 耳だけでなく四肢にもケモ感を出すとは中々分かってらっしゃる」
なんか 一部辺んあコメントもあるけど、まぁ許容範囲内。
君達はあっちで鋭い眼差しをしているお巡りさんに気を付けてください。
コンビニに入ると、周囲の視線が集まる。
「凄いね、めっちゃリアルだよあの耳」
「他のケモ系配信よりリアルだし、もしかしてレアな魔物素材かな?」
ケモ系配信なんてあるんだ……
なんかこのままだと話しかけられそうだったので、お菓子を買いだめしたらさっさと出よう。
『ボクあれ欲しい!』
と、合体しているクンタマからお菓子の催促が入る。
「はいはい、あっそうだ。雑誌もいくつか買ってこ」
ついでにこっちの世界の情報というか流行を探る為、雑誌をいくつか見繕ってレジに持ってゆく。
「ありがとうございましたー」
買い物を終えた私は、即ダンジョンへと向かう。
勿論向かう先はもはや自宅と化した隠し部屋だ。
「どれだけ稼げるようになってもあそこが一番人の目を気にしなくていいから楽なんだよね」
道中遭遇したポップシープやリトルゴブリンを武器を使わずケモハンドのツメで一蹴する。
『わーい、狩るよー!』
合体してハイになったクンタマのはしゃぐ声が脳内に響く。
「よっ、ほっ! とう!」
その影響か、いつもより体を動かしながら戦うのがなんだか楽しく感じる。
走ったりジャンプしたりするだけでなく、壁や天井を蹴ってまるでゴムボールみたいにダンジョン内を跳ねて魔物を攻撃してゆく
「おっと、行き過ぎる所だった」
うっかり隠し部屋を通り過ぎそうになった私は、慌ててブレーキをかけると、隠し部屋のスイッチを押して中へとはいってゆく。
「ただいまー」
自宅気分で中に入ると、扉を戻し合体を解除する。
「キュイ!」
「んー、やっと出れるわ」
クンタマとリューリがピョンと飛び出し、ぐぃーっと体を伸ばす。
「よいしょっと」
その間に私は魔法の袋からソファーとテーブルを取り出し、設置してゆく。
はいそうです、家具を買いました。
リドターンさんの伝手で買ったこのソファー、魔物素材を使用しているらしくてフワフワのフカフカで凄くいいんだよね。
勿論テーブルも高級感たっぷり。魔物を撲殺できるくらい頑丈なんだよ。
いやそんな頑丈さ居る? と思わないでもないけど、まぁ魔物の脅威が身近にある異世界人の考える事だしね。
「姫様! お菓子お菓子!」
「キュイキュイ!」
「はいはい」
リューリとクンタマに急かされた私は、テーブルにお菓子を並べてゆく。
「わーい!」
更にリューリ用の小さなティーセットとクンタマ用の深皿に飲み物を注ぐと、自分用にコンビニ紅茶を注ぐ。
「うーん、美味しい!」
コンビニの食べ物や飲み物って下に見られる事が多いけど、十分美味しいよね。
季節によって色んな新商品も出るし、飽きる事がない。
たまに大ハズレを買っちゃうこともあるけど、それは御愛嬌だ。
「明日はどうしようかな。ここを探索するのもいいけど、他のダンジョンにいくのもありかな」
そんな事を考えながらコンビニで買った雑誌をパラパラとめくる。
その内容はいかにもダンジョンのある世界らしく、オシャレなダンジョン装備や、可愛いダンジョンコーデなどの特集組まれていて、なんだかおもしろい。
「お? ダンジョン旅行?」
そんな中、ダンジョン内を刊行するダンジョン旅行なるコーナーがあった」
「夏場に最適な海辺ダンジョン、秋の味覚を楽しむ紅葉の森ダンジョン、やや上級者向け雪山スキーダンジョン……」
凄いなぁ、異世界はダンジョンが観光地になってるんだ。
これまで地下迷宮みたいなダンジョンしか見たことが無かった私は、記事の写真にびっくりしていた。
「成る程、あくまで観光地になってるのは安全な上層部で、下層は普通に危険なんだね」
腐ってもダンジョンなんだしそりゃ当然か。
「でも面白そう。他の町のダンジョンにも行ってみようかな」
ダンジョン雑誌を見ながら、私は新しいダンジョンに思いを馳せるのだった。
自分を中心に新しい騒動が起きるとも知らずに。
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