第98話 ダンジョンの秘宝(悲報と紙一重)

「謙獣合体っ!!」


 クンタマを肩に乗せた私達は、再び合体を行う。

 クンタマが私の内に入り、暴れる力が私の手足、頭頂部、そしてお尻を出口として飛び出し、体の一部を変化させてゆく。


「おおー、これがアユミ様の新フォームですか!」


「ほほう、これはなかなか」


「あらあらまぁまぁ」


「「「可愛い!!」」」


 そう叫ぶなり殺到して私の耳やら肉球やらを揉みしだき始めるアートさん達。


「あわわわわっ、ふきゃん! 尻尾はだめー!」


いかんよ! しっぽはいかん! とくに付け根はほわわわわっ、らめぇ……


 なぜこんなことになっているのか……それはリューリが口を滑らした事が原因だった。

エーフェアースに戻って来た私達は、ダンジョンでの顛末を報告した。

そこでうっかりリューリがクンタマとの合体の事を話してしまった為、皆の前で合体を披露する事になってしまったのだ。


『謙獣合体スキルを取得しました』


 あーほらスキル取得しちゃったよ。


「これはまたなんというか……」


「随分と面白い姿になったもんだなぁ」


「もうなんの生き物なのかさっぱり分からんのう」


「はっはっはっ、弟子が面白くて何よりです」


と、こんな感じでギャラリーの反応は様々だったのだが、モフモフに興奮した一部のギャラリーが暴走してしまったのである。

 うぐぁー! やめろー! モフるなー!


「眷属になった魔物と合体する力とはな。使い魔になる魔物は全て持っている力なのか、それともごく一部の魔物だけが持っている力なのか」


「そもそも魔物を眷属にしたなんて話は聞いたことがないからなぁ」


「調べてみたが、やはり他者と一つになるスキルを取得した者などおらんのう」


 ってお爺ちゃん達冷静に分析してないで助けてー!


「我々人間のスキル取得方法では再現不可能なものですからね。他種族から持ち掛けられなければ取得は不可能でしょう」


 ああ、そういえばこの世界のスキル取得方法って、実際に自分が行った行為を自動簡略化するってものだもんね。

 ってそれどころじゃないー!


「ところでダンジョンをクリアしたと言う事は財宝を手に入れたのじゃろう? 何を手に入れたのじゃ?」


「そ、それはですねっ!」


 と、キュルトさんから話題を振られた事でこれ幸いと私は抜け出す。


「えっと……あっ、これですね」


 ステータスからアイテム欄を確認した私は、そこから1本の瓶を取り出す。

その瓶はフタがしてあるにも関わらず薬草の匂いが強くて鼻を刺激し、表面にはこう書かれたラベルが張られていた。


「若返りの薬だそうです」


うーん、いかにもファンタジーに出て来そうなアイテム。


「「「「……は?」」」」


 しかしそれを聞いたお爺ちゃん達は珍しく間の抜けた声を上げる。

 一番キリリとしたリドターンさんですら。


「若返り? それは本当に若返りなのですか!?」


「肉体の若年化なのかそれとも意識を含めて子供にするものなのかどちらだ?」


 うわぁ、お金儲け大好きな人と魔法とマジックアイテムマニアが喰いついた!


「ええと、若返りの薬と書いてあるだけなのでどう若返るかまでは……っていうか普通にこの世界にないんですかこれ?」


「「「「ないっっっっ!」」」」


 わーお、お爺ちゃん達ピッタリ声を揃えて断言しちゃったよ。


「若返りの薬と言えば詐欺の代名詞だからな」


「といっても鑑定スキル持ちが居ますから、貴族や商人で騙される者はまずいません。精々鑑定する金や伝手の無い人間か、鑑定士本人が詐欺をする時くらいですね」


 あっ、鑑定士の詐欺ってあるんだ。


「ただ詐欺がバレた鑑定士の罪は重い。二度と信用されなくなるしな」


 あー、警察が犯罪をするようなものか。信用第一の仕事で信用を失ったらそりゃ仕事が無くなるよね。


「しかしとんでもない物が出て来たな。これは界隈が荒れるぞ」


「荒れる?」


「若返りの薬だからな。長生きしたい連中がこぞって欲しがるぞ」


 あー、生き物には寿命があるもんね。


「全然理解してないな。お前達はまだ若いから分からんだろうが、年寄り、それも明日にも死ぬかもしれん連中にとっては死活問題だ。それこそいくら払っても買おうとするだろうし、売って貰えなければ力づくで奪おうとするだろう」


 マジかー、もしかしてかなりヤバ鋳物を手に入れちゃった?


「じゃあリドターンさん達使います?」


「「「「なんでそうなる」」」」


 ならばとリドターンさん達にあげようとしたら、全員にドン引きされた。


「いやまぁ、いつもお世話になってますし、そのお礼?」


「日々のお礼にしたって重すぎる。とてもそんなものは受け取れんよ」


「そもそも一本では仲間内で奪い合いになるか人間関係が滅茶苦茶になってしまいますよ」


「四人分に分ければいいんじゃないですか?」


 一人当たりの量が減るから若返る年数は減るかもしれないけど。


「アユミさん、分かっていないので説明しますが、魔法薬は特殊な効能の品ほど摂取量も適切な量が必要なんです。例えば猛毒の魔物に襲われた際に薄めた解毒剤を飲んでも毒を完全に解毒できなくて苦しむ時間を無駄に長引かせるだけになるでしょう? この薬も恐らく適正な量を飲まなければただの味の付いた液体と変わらない事でしょう」


 ほえー、四人分に割って飲んでもダメなんだ。


「この薬を解析して量産できればよいのですが、これほどの薬となると、使用されている素材を調べるのも困難ですからね」


 まぁ確かにね。ダンジョン産のポーションにはコンビニやスーパーで売ってる物みたいに原材料が書いてあるわけじゃないもんねぇ。


「そうですよねぇ、私もクタ草とカタンの根とトトロンの乾燥果実の匂いしか分かんないですしね」


「そうでしょう。使われている素材が全て分からなければ……いや待って。今何と?」


「え?クタ草とカタンの根とトトロンの乾燥果実の匂いしか分かんなかったって」


「分かるんですか!?」


 いや分かるでしょ。凄く匂いするし。


「クンクン、全然匂いしませんよ?」


 しかしアートさん達はビンを嗅いでも匂いがしないと言う。

 何で? こんなに匂いがするのに?


「もしかして、その耳、いや姿だからか?」


「姿?」


 それってどういう?


「なるほど、今のアユミは獣の眷属と合体しておる。その影響で人間では気付けぬ薬草の匂いが分かるうになったという事か」


「ええ!? そうなんですか!?」


 マジで!? クンタマと合体するとそんな能力まで手に入るの!?


「検証が必要ですね。こちらのポーションの匂いを嗅いで貰えますか?」


「えっと……ソトル草とカロン石の匂いがします」


「ふむ。ではこれは?」


「これは……」


 そうして私は何本ものポーションの匂いを嗅がされる。


「分かりました。やはりアユミさんの鼻はかなり強化されていますね。またアユミさんが分からなかったものは貴方がまだ見た事の無かった薬草のようです」


 成程、確かに匂いがする事自体は分かっても、それがなんの匂いか分かんなきゃ連想できないもんね。

 私が知っていたのは、この世界に来てストットさんから学んだポーションに関する薬草や素材だけだったからね。あとは魔物を退治した時に手に入れた素材くらいで。


「という訳で明日からは手に入る限りの薬草と素材の匂いをかぎ分けて貰いましょうか」


「え?」


「可能な限り全ての匂いを調べれば、若返りの薬を再現する事が出来るかもしれません。これはお金の匂いがしてきましたよぉーっ!」


 すみません! 私にはその匂い分かんないんですけど!!

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