第97話 試験受けました(過去形、そして三度目のダンジョン攻略))

「「「「合格おめでとう!」」」」


「あ、ありがとうございます……」


 あれから一週間、私はお婆ちゃん達のお家に泊まり込みで試験勉強に勤しんだ。いや詰め込まれた。


 朝5時に起きてラジオ体操、の間にも錬金術の歴史の講義。

 朝ご飯が出来るまでの間に使う道具の名前を教えて貰いながら実際に使用してみる。

 朝ごはんを食べながら歴史の講義その2。

 食後に本格的なポーションの知識を詰め込まれる。


 10時に小休みを入れながら正しいレシピのポーションと間違ったレシピのポーションの味を比べされられる。

 そしたら今度はお昼まで調合の実技。


 と言った具合に座学と実技を交互に混ぜ、途中息抜きに運動とか他のお婆ちゃん達の得意な事を教わることに。

 という訳で刺繍や株価の予測方法が出来る様になりました。……要るか株の予測方法?

 更に夜は休息も大事と、オタケさんが連れて来た整体師さんにポーションを使ったエステを体験させられる。


「ポーションには美肌や疲労回復を追求した者もあるのよ」


「髪のツヤにボリューム、目皺のたるみ防止、肌の乾燥防止、顎肉のスリム化、シミやほくろの除去、肌に優しいムダ毛除去、爪のケア用の薬用マニキュア、マツゲ、二重瞼、美を追求したポーション研究は日進月歩よ」


 なんか最後の方もうポーション関係なくね? と思わなくもないけれど、とにかく美を追求する執念は伝わりました。


「特に研究されているのが若返りのポーションね。こちらは寿命の延長を含めて研究されているけれど、他の用途のポーションに比べてこれだけは研究が遅々として進まないらしいわ」


 ほえー、いつの時代も人が最後に臨むのは若さと長生きなんだねぇ。


 なんて感じで色々な知識を詰め込まれた結果、私は見事錬金術の上位ポーション制作許可を得る事が出来たのだった。


「ち、ちかれた……」


 いや本当に疲れたよ。

 朝から晩まで勉強漬け。息抜きに他の事もさせて貰えたけど、よく考えるとアレも勉強の一種だったよね。

 しかもその内容に合わせてポーションや錬金術に関する会話があったから、内容も明らかに狙って選択されていた気がする。

 冒険者用の衣服に使われる染料も錬金術由来の素材が使われているとかね。


 ただ、夜に受けたポーションエステは疲労回復の効果もあったのか、翌日にはすっかり疲れも無くなっていた。


「お疲れ様」


 と言ってテーブルの上に置かれたのは、大きなホールケーキだった。


「合格のお祝いよ」


 ケーキにはデカデカと合格おめでとうと書かれたホワイトチョコのプレートが飾られている。

 って、合格前からこんなの用意してたの!?

 落ちてたら大惨事だよ!?


「わーいケーキケーキ!」


「キュイ!」


 そしてケーキが出て来た途端はしゃぎだすリューリとクンタマ。

 君達はマイペースだねぇ。


「さぁさぁ、お食べなさい」


 そういってケーキを切り分けたタカムラさんがチョコプレートの乗った部分のケーキを差し出してくる。


「……ありがとうございます」


「改めておめでとう」


「まぁ頑張ったんじゃないかね」


「本当、一週間で合格できるなんて凄いわ」


「流石私達が見込んだ子ね」


 と口々に祝福してくれるお婆ちゃん達。

 いや正直エーフェアースで取得した観察スキルがあったお陰だよ。

 アレのお陰でタカムラさん達の実技の手順をしっかり学び、座学の内容も覚える事が出来たんだから。

 スキルが無かったら合格は出来なかったんじゃないかな。


「ふふ、これで次からは高ランクのポーションを教える事が出来るわね」


 と、タカムラさんが嬉しそうに呟く。


「そうで……すね」


 何故だろう、そんなタカムラさんの顔を見た私は、彼女が浮き立った声とは裏腹に、とても恐ろしい気配を発していたように見えたからだ。

 き、気のせい……だよね?


 ◆


 翌日、私達はダンジョンへとやってきていた。

 タカムラさんも高ランクポーションの講義をするには準備が必要だし、今までみっちり頑張って来たから気分転換をした方が良いと言われたからだ。


「なので今日は冒険するぞー!」


「おー!」


「キュイー!」


「なので気軽に冒険する為に一人だぞー!」


「私達もいるぞー!」


「キュイー!」


「今日は三人だー!」


「おー!」


「キュイー!」


 うん、久々の解放感で変なテンションだ。


「それじゃリューリ、アレをやるよ!」


「おー! 今日はやる気だね!」


 何せ久々のオフなので今日は思いっきり暴れたい所存。というわけで、


「「妖精合体!」」


リューリと一つになる事で、膨大な魔力が体の中を駆け巡る。

よーし、今日は暴れるぞー!


「それ僕もしたい!」


 と、そこに聞き覚えのない声が聞こえて来た。


「え? 誰?」


 しかし周囲を見回しても誰もいない。いるのは……


「僕もそれやりたい!」


 いたのは自分もやりたいと言うクンタマだけだ。


「ってクンタマ!?」


何でクンタマが喋ってるの!?


『あー、私と合体したから分かるようになったんだね』


マジで!? 妖精合体するとクンタマの声が聞こえるようになるの!?

いや確かにリューリはクンタマと会話出来てたけどさ。


「僕も合体したい!」


 おお、やっぱり喋ってる。空耳じゃない。


「でもクンタマは妖精じゃないから無理でしょ」


 流石に魔物、いや眷属と合体は出来ないよね?


「僕も合体スキル持ってるよ!」


「え!? マジ!?」


 まさかのクンタマも合体スキル持ちでした。


「うん、謙獣合体っていうスキル!」


 まじか、クンタマも合体スキル持ってたんだ!

 もしかして合体スキル持ちって結構いるの?


『いやいや、そうそういるもんじゃないよ』


 だよね! 居たらそこら中に合体スキル使う人がいる事になるもんね!


「だから僕とも合体しよー!」


「うーん、大丈夫かな?」


 と、私は合体しているリューリに尋ねる。


『まぁスキルとして使えるんだから大丈夫んじゃない?』


 うーん気軽い。でもまぁいけるって言うんだからいけるのかな。


「じゃあ合体するよー!『謙獣合体』!」


「うわっ!」


 クンタマが私に飛び込んでくると、そのままスルンと体に中に沈み込んでゆく。

 すると全身が熱を帯びる感覚を覚え、それが頭の上とお尻、更に量の手足に移動してゆくのを感じる。


『合体完了―!』


 え? もう? でもよくわかんない!


『水鏡で自分を見てみたら?』


 あっ、そうだね。

 私は水鏡を目の前に作り出すと、自分の姿を観察する。


「これがクンタマと合体した私……?」


 そこには、背中に羽を生やし、長い髪を虹色に輝かせ、頭にオコジョの耳を、お尻からはオコジョの尻尾を、更に両手足がモフモフになったお姫様っぽいドレスの上に純白の鎧を纏った私の姿があった。


「って、要素多すぎーっ!」


 なんだこの奇妙な生き物は! 私だよ! 何かのコスプレか! 

 うおお、我ながら凄い姿になってしまった……


『よーし、それじゃあさっそく合体を確かめてみよー!』


『みよー!』


 しかし私の困惑をよそにリューリとクンタマはノリノリだ。


「はぁ、しゃーない。合体の力も確認しないとだしね」


『そうそう!』


『そーそー』


 思わぬタイミングで新しい力を得た私は、その真価を確認する為に体を動かす。


「うわっ、脚速っ!」


 試しに走ってみると、思った以上に足が速い、

 スキルや魔法を使っていないのにこの速さは凄いよ。スキルを使ったらもっと早くなるんじゃないの?


『あ、魔物だよ!』


 リューリから魔物の発見報告が終わり切る前に私の足は猛烈なスピードで魔物に接近している。 ヤバイ、武器を抜かないと!


『爪で攻撃だー!』


「わ、分かった!」


 クンタマの言葉に咄嗟に量の手を振り回すと、手の先から爪がニュッと伸び魔物を切り裂いた。


「ギュアアアアッ!」


「おおっ!? 一撃!?」


 爪の攻撃力高いな! いやゲームとかでも動物系の魔物って爪とかキバで攻撃してくるし、これで普通なのかな?


『いいじゃんいいじゃん! どんどんいこー!』


『いこー!』


「お、おー!」


 この時私は忘れていた。とても大事な事を。


「よーし、それじゃあ久々に思いっりダンジョンで暴れるぞー!」


『暴れるぞー!』


『るぞー!』


 妖精と合体した者の人格は、妖精の性格に引っ張られれてしまう事に。

 では眷属と呼ばれる魔物と合体したらどうなる?


「あっはははははっ! そらそらそらー!」


 答え、深く考えずにノリノリでかっ飛ばす暴走オコジョ妖精になる。

 あんまり変わってないって? 思慮の深さがヘリウムガスよりも軽くなったんだよ。


 ◆


「うおー! 魔物は全部ぶっとばすぞー!」


『ぶっとばせー!』


『ばせー!』


 お気楽頭になった私達は、野生の本能の赴くままに魔物見つけては飛び掛かり、両の手の爪、量の足の爪で切り裂き、殴り飛ばし、蹴り倒してゆく。


『レベルが上がりました』


『レベルが上がりました』


 何か視界の隅にチラチラ浮かんでる気がするけどどうでもいいか。

 今までずっと勉強漬けだったから、とにかく体を思いっきり動かしたい気分なんだ!

 うおおーっ! あーばーれーるーぞー!


『あっ、なんかデカイの出て来たよ!』


「ホントだ! 歯応えありそう!」


『やっちゃえー!』


 私達は大広間に現れたひと際大きい魔物に向かってゆく。


「グロロロロロッ!」


「たぁーっ!」


 両手にリューリの力で水の大きな爪を作り出して装備し、大きな魔物をシュバババッ! と切り裂く。


「グエエエエエエッ!」


 そしたら魔物はあっさりと倒れてしまった。


「あれ? もう倒しちゃった?」


『弱ーい』


「よわーい」


『レベルが上がりました』


 うーん、なんか不完全燃焼。しゃーないもっと奥まで潜るかー。

 と先に向かうと、何やらキラキラとした大きな宝石が宙に浮かんでいた。


「なんだっけこれ」


 どこかで見た覚えがあるような。


『これダンジョンコアだよ』


 あっ、そうだそうだ。ダンジョンコアだ。道理で見た覚えがある筈だよ。


「って、あれ? それじゃあここが最下層?」


 マジか! いつの間にか最下層まできちゃってたの?


「って事はもう暴れられないの!?」


 えーなにそれー、せっかくもっと体を動かしたかったのにー。


「しゃーない、今日はもう帰るか」


『えー、もっと暴れたいー』


「たいー」


 そんな事言ってももうこれ以上下はないんだからしょうがないよ。

 私はダンジョンコアに触れると、ダンジョンコアが光を帯びる。


『ダンジョンが攻略されました。攻略者に報酬が与えられます。これよりダンジョンの再構築を開始します。攻略者とその仲間はダンジョン外に強制転移します』


前にも聞いたメッセージが流れると、私達はダンジョンの外へと放り出された。


「あーあ、今日はこれでおわりかー」


ダンジョンをクリアしちゃったから、こっちの隠し部屋も使えないし、エーフェアースにいくかー。


『あ、そうだ! それならケーキ買ってこうよケーキ! フレイ達にお土産もいるでしょ! 暴れ足りない分はケーキで解消しよ!』


 ふむ、悪くないかも。今日はたっぷり暴れてカロリーを消費したからケーキを食べても実質ゼロかろりーだろうしね!


「そうだね。それじゃケーキ買って帰ろうか」


『わーいケーキ!』


『ケーキー!』


 と、不完全燃焼ながらも、私達は見事ダンジョンを攻略して皆の下へと帰ったのだった……だったのだが。


「な、なぁ今のってアユミちゃんだよな?」


「ああ、ダンジョンの妖精だよな?」


「でも、なんか耳が生えてなかったか?」


「尻尾も」


「手がモフモフになってた」


「足も」


 そう、合体の影響でオバカになっていた私は忘れていたのだ。

 今の自分が妖精とオコジョが混ざった謎のハイブリットよくわからん生き物になっていた事を。

 結果、私を撮影した画像がネットを駆け巡り、驚異のケモ耳妖精娘というキメラが爆誕していた事を……

 うごぉーっ! もう二度と合体なんてしないぞー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る