第95話 ダンジョンをクリアしました(2回目)

『ダンジョンが攻略されました』


 ボスであるブルーワイバーンを倒した直後、目の前に攻略メッセージが現れた。


「あれ? まだダンジョンコアに触ってないよ?」


『攻略者にはダンジョン制覇者の称号が付与されます』


 けれどメッセージは私の疑問など無視して話を進めてゆく。


『攻略者に報酬が与えられます』


 すると目の前に大きな宝箱が現れる。


「え? 宝箱!?」


 前にクリアした時はこんなの出なかったよ!?


『これよりダンジョンの再構築を開始します。攻略者とその仲間はダンジョン外に強制転移します』


 メッセージの直後、私達がダンジョンの外へと追い出された。


 ◆


「ダンジョンクリアを祝って!」


「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」


「キュイー!」


 ダンジョンから放り出された私達は、ダンジョンクリアの打ち上げとしてちょっとお高いレストランに来ていた。

 しかも個室です。


「ここは探索者用に個室を用意してくれるお店だから騒いでも大丈夫なのよ」


「ほえー、そんなお店あるんですね」


「探索者が酔って暴れると大変だからな。隔離しておいた方が良いんだ。この部屋の壁はダンジョン産の素材を使ってるから、ちょっとやそっとじゃ壊れないしな」


 成程、確かにレベルを上げて強くなった探索者が暴れたら大変だもんね。

 そう言う意味でも個室は必要なのか。


「まぁ実際には名が売れた探索者が面倒な連中に絡まれずにゆっくり楽しむ為が本来の使い方だけどな。売れてる奴らは金があるから、高い物を注文してくれるし」


 あー、芸能人が人目のある場所で飲み食いしないようなものなんだね。


「それにこういったお店はダンジョンで手に入れた貴重な品の分配にも使えるんですよ」


 デザートを食べ終えてまったりタイムに入ると、テーブルの上に分厚いビニールのシートが敷かれ、今回の探索で手に入れたお宝が並べられる。


「基本は金に換えて山分けだな。装備やポーション類を入手した際は探索者協会に鑑定を依頼して性能だけじゃなく金額も査定して貰い、欲しい奴は受け取る金額がその分減る感じだな。新装備を作る為に素材が欲しい奴も同様だ」


「今回はレアモン攻略の報酬があるしね」


 そんなメジヤさんの言葉に皆がテーブルの上に置かれた目立つ武器を見つめる。

 そう、これが宝箱から出て来た報酬、その名も『ブレイムブレード』。

 効果は魔力を込めると呪文無しで炎の魔法が発動すると言うもの。

 いわゆる魔剣というやつだ。

 ちな炎の魔法なら名前はフレイムじゃないの?と思うだろうけど、どうもこの剣、使用者の気合の入れ方で炎の強弱が変えられる事からブレイブ(勇気)と書けているんじゃないかとは鑑定家さんのお言葉。


「流石はレアモンボスの宝箱だよな。こりゃかなり強いぞ」


 とスミツさんは自分が使うでもないのに興奮している。


「そうだな。これは実質スキルを使えるのと同じ効果だ。一種に限定されるとしても有用だ」


 キリヤさん達はかなりブレイムブレードを気に入ったらしい。

 ちなみに魔剣の査定額は今回の探索で手に入れた素材の合計額以上の金額で、数千万円相当になるとの事だった。

 いや魔剣高いな!


「アユミ君」


「あ、いいですよ。その剣は皆さんにお譲りします」


「良いのか!? かなり貴重な品だぞ」


 自分で頼もうとしておきながら、私があっさり了承した事でキリヤさん達が驚きの声を上げる。


「だって私スキル使えますし」


 そうなんだよね。便利は便利だけど、スキルが使える私にはそこまで便利じゃない。

 唯一の違いと言えば、この魔剣はスキルと違ってMPを消費する所くらいか。


「そうか、ありがとう助かるよ。流石に素材の買取価格じゃ足りないから、差額分は別途支払うよ」


「よし! これで俺達も高ランクダンジョンに挑めるぞ!」


 そんな訳で私はダンジョンを攻略しただけでなく、数千万円の収入が約束されたのだった。


 ◆


「あっ、そう言えば今回のダンジョンですけど、ボスを倒した後ダンジョンコアに触れていないのにクリアした事になったのは何でなんですか?」


 素材の山分けが終わり、まったりティータイムになった所で、私は今回の探索で疑問に思った事を尋ねる。


「ああ、ダンジョンの中にはダンジョンコアに触れなくてもボスを倒した時点でクリアになるダンジョンもあるんだ」


「ボスそのものがダンジョンコアに相当するパターンだな。特に今回はレアモンボスだったからな。コイツを倒さずしてダンジョンクリアは認めないって事だったんだろうよ」


 成程、そういうパターンもあるのか。


「そうだ、こっちも聞きたい事があるんだが、あの最後の攻撃さ、君達が岩の中から出て来たように見えたんだが、君の持つスキルの中に岩の中に入るみたいなスキルがあるのか?」


 なんだその忍者みたいなスキル。寧ろそんなスキルあったら私が欲しいわ。


「いえ、アレは岩の中に入っていたんじゃなく……」


「私のスキルで岩の幻覚を作ってたんだよ!」


 と、リューリがテーブルのど真ん中に着地してエッヘンと胸を張る。

 そうなのだ。最後の柱の上での攻防、実はリューリの魔法で岩の幻覚を見せていたのだ。


「内容としてはまず地上に霧を作って姿を晦まし、ブルーワイバーンが風を起こして隠れていたキリヤさん達を見つけてそちらに注意を向けた所でクンタマにこっそり柱の上に運んでもらったんです」


「キュイ!」


 名前を呼ばれたクンタマが呼んだ? とこちらに顔を向けて首をかしげて来たので、それを撫でてあげながら説明を続ける。


「それてリューリのスキルで岩の幻覚を作って貰ってブルーワイバーンが掴みに来るのを待っていたんです」


「成る程、そう言うことだったのか」


 まぁ本当は霧の上の見える場所にこれみよがしに岩を置いて、すぐ狙って貰おうと思ったんだけど、思った以上にブルーワイバーンが頭良くて、そこら中の霧を吹き飛ばして岩を回収してたから、もしかして気付かれてる? と内心焦ったのは内緒だ。

 まぁ結果的には気付かれてなかったから大成功という事で!


 ともあれ、そんな訳で私達は見事2個目のダンジョンを攻略したのだった。


 ◆―――◆


『ダンジョンが攻略されました』


 人間の気配がしない広く狭い空間で、半透明の板が地上の出来事を羅列してゆく。

 それを眺めるのは人知を超えた造形美の女性。

 かつてアユミに自らを女神と称した存在である。


『レベルが上がりました』


 女神はアユミの活躍を見て満足気な笑みを浮かべる。


『神聖力の剥奪に成功しました』


 逆にダンジョンの力が削られた事を示す表示には酷薄な視線を送る。


『……の再構築が開始されました』


「ふふ、漸く始まったわね」


 そして最後に現れた文章を目にした女神の表情は、期待。

 再構築、その言葉の意味を理解できる者は地上にはまだいなかった。

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