第5章 野良パーティ編
第89話 ダンジョンをクリアしよう(立ちふさがる切実な実力差)
「それじゃあ、そろそろこのダンジョンをクリアしよっか」
その日、私達はいつものダンジョンの入り口に立っていた。
準備は万端。装備は整えた、スキルやレベルも十分にあげた。
ポーション等の消耗品もそろえた。
転生して初めて体験したダンジョン。
しかし私はまだこのダンジョンをクリアしてはいなかった。
色々あって異世界に転移したり他のダンジョンに浮気したりしていた所為だ。
でも私はあの頃よりも強くなった。
装備も良くなった。
何より仲間が出来た。
「だったら、本格的に後略を目指さなきゃね! 行くよ皆!」
「「「はいっ!!」」」
「おー!」
「キュイ!」
士気も万全、いざダンジョンへ!
◆
「「「「「おわぁぁぁ!」」」」」
はい、めっちゃ逃げてきました。
「ぜんっぜん駄目だ―!」
もうね、下層の魔物には全然通用しませんでしたよ。
『そりゃあね、アユミ様だけ戦力が突出しててもアートちゃん達がね』
『実力の差があり過ぎなんですわ』
『だってアートちゃんちょっと前までダンジョンに入ったばっかの超初心者だったんですもん』
『最近はそこそこ出来るようになってきたけど、それでも初心者に毛が生えたようなもんですよ』
『クンタマちゃんの華麗なる戦闘不能メンバーの積み込みが光る撤退でしたね』
情け容赦のないコメントが私の視界の隅をスクロールする。
そう、これはアートさんの配信コメント欄だ。
あの配信騒ぎの後、私達はダンジョン配信について詳しい話を聞いた。
そしてあの時のようなトラブルが起きる危険はあるけど、リアルタイムで攻略情報を得られるメリットはデカいと判断して、アートさん経由で配信素材を用意して貰ったのである。
名義的にはアートさんの私物って形だ。
そして実際に配信を始めてみると、私達の視界のやや横側に、視界を遮らない様に半透明の文字が表示されるようになったのである。
最初は慣れなかったけど、戦い続けてきたら次第に慣れて来た。
ちなみにフレイさんとエーネシウさんはルドラアースの文字が読めないので、読み上げ機能を使って聞いている。
とまぁそれは良いんだけど、問題はコメント欄の言う通り戦力の片寄りだ。
最初の内は上手くやれてたんだけど、次第に皆の動きが悪くなっていって、最期は魔物に襲われる皆をサポートする事に手を取られて撤退せざるを得なくなったんだよね。
『連携が全然なのもあるけど、純粋にレベルが足りないね』
『完全にキャリー状態ですわ』
「キャリー?」
『レベルの低い探索者が高ランクの探索者に下層まで連れて行ってもらって、高ランクの魔物の止めを刺して強引にレベル上げする行為やね』
『ちなみにキャリーでレベルアップした人間は普通にレベルアップした人間よりも能力値の伸びが悪いと研究成果が出ている』
ほえー、そんな事まで分かってるんだね。ダンジョン社会凄いなぁ。
とはいえ、それは皆の為にもよくないねぇ。
「皆修行して強くなったと思ったんだけどなぁ」
「くっ、申し訳ありませんアユミ殿」
「まさか私達にここまで差があるとは……」
「うう、強くなったと思ったのにぃ……」
上手くいかないもんだねぇ。
こうなると目下の目標はコメントで指摘された通り、連携の練習とレベル上げかな。
でもこの世界だとゲームみたいに高レベルキャラが弱いキャラを介護してレベルを上げても、将来的にはマイナスになるのが困りものだ。
とはいえこの世界のレベル上げって、試行錯誤や修行の成果がレベルアップに反映される形だから、ある意味公正な結果なんだよね。
「そうなるとアートさん達はリドターンさん達に修行をつけてもらって、地道にレベルとスキル両方を頑張って貰った方がいいのかなぁ」
『寧ろスキルなんてチート能力がある分恵まれている』
『でもスキルって取得した技術をめっちゃ使いまくって熟練度を上げないと覚えれないみたいだし、チートっていうよりは修行の成果が目に見えて分かるって感じじゃない?』
おっと、コメント欄が考察モードに入った。
こうなると長くなるらしいから、こっちの話に専念しよう。
「んじゃ今日の探索は一旦お開きにしようか」
という訳で私達は冒険と配信を終え、リドターンさん達に相談する為にエーフェアースに転移する事にしたのだった。
◆
「それはもう地道に修行するしかないな」
「そうですね。戦力に偏りがあるパーティが良く陥りがちな問題です」
「これが原因でパーティを解散して適正な力量の連中で改めてパーティを組む事が多いんだ」
「つまり未熟という事じゃ」
「「「むぐっ」」」
リドターンさん達の容赦ない発言に、アートさん達がヘコみまくってペシャンコになる。
「そう言う訳でこの娘達は我々が修行を付ける。アユミには連携の鍛錬を積ませたいが、今の実力差では連携どころではなくてな」
ううむ辛辣ぅ。
「だからアユミさんは他の冒険者と野良パーティを組んではどうでしょう」
「野良パーティ?」
キュルトさんの聞き慣れない提案に私は首を傾げる。
「ソロ同士で組んだり、トラブルで戦力が足りないパーティの助っ人をする事だ」
成程そういうのを野良パーティって言うんだね。
「野良パーティをいくつか組んでみれば連携の練習にもなるし、お主の実力が正確に周りに知られるからより実力の近い者同士で組む事が出来るようになる」
ふむふむ、確かにそれなら自分の正確な実力を知ることが出来るし、一般的な冒険者の実力も分かるもんね。
私って凄く強い人か子供達といった強い人か初心者レベルしか知らないから、一般的な強さが良く分かんないんだよね。
「分かりました。やってみます!」
「うう、せっかくアユミ様とパーティが組めたのにー」
「すぐに、すぐにアユミ殿の下へと戻ってまいります! それまでお待ちください!」
「口惜しいですわ。フレイさんではありませんが、次にお会いする時には不足ない実力を身に着けてまいりますので、今暫くお待ちくださいませ」
こうして私はアートさん達と分かれ、野良パーティを組む事になるのだった。
「あっ、すいません、向こうの世界に戻る為に定期的に帰ってきてくれると嬉しいんですけど」
「あ、うん、そうだね」
こういう時、アートさんにも世界転移スキルが生えるといいんだけどなぁ。
私以外の人にも転移スキルって生えるのかな?
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