第90話 野良パーティに参加してみました(ダンジョン探索者の悩み)

 アートさん達の修行が終わるまでの間、私は連携を学ぶために野良パーティに参加する事となった。


「とはいえ、誰と組んだものやら」


 何せ私はソロもソロ、この世界に戸籍がないもんだから探索者や冒険者と仲良くなりにくかったんだよね。


「まぁでも、今の私はアートさんに買って貰ったDホンがあるからね。これで野良パーティを組んだ探索者の人と仲良くなれば、情報収集が捗るってもんだ!」


 うむ、友達百人出来るかなならぬ探索者100人仲良くなれるかなである。


「まぁ悩んでもしゃーない。まずはダンジョンに向かいますか」


 運が良ければいい感じに野良パーティ組めるでしょ。


 ◆


「はぁ!? マジかよ!?」


「おおっ!?」


 ダンジョンの入り口までやってくると、突然そんな苛立ちを込めた声が響き渡った。

 一体何事かと思えば、入り口の傍にいた探索者の人が、Dホン片手に電話をしていた。


「お前、それでどのくらいかかるんだよ!?」


 どうやら電話の相手と揉めているようで、最後には「もういい、分かった。早く治せ」といって切ってしまった。


「カツジどうしたの?」


 傍にいた女の人、この人も探索者みたいだ。


「あいつダンジョン風邪にかかりやがった」


「はぁ!? マジで!?」


「だから念の為キュアポーション飲んどけっつったのによ! くそっ、これで予定がパーだ!」


 ダンジョン風邪ってなんだろ? インフルエンザみたいなものかな?

 探索者達はメンバーが足りなくなった事で、これからどうするかと相談し始める。


「こうなると予定していた攻略は無理だな。カツジが治るまでは素材集めにシフトするべきだろ」


「だな」


「つってもアイツが居ないと前衛がなぁ。せめて誰かソロでも誘わんとなぁ」


 おっ! これは野良パーティのチャンスだよ!

 このチャンスを逃すわけにはいかない!


「あの! もしかしてメンバー探してませんか?」


 私はすぐさま探索者達に話しかける。


「ん? ああ、そうだけど」


「前衛なら私が出来ますよ!」


「はぁ!? 君が!?」


 さっきまで電話をしていた探索者は私に話しかけられてびっくりする。


「丁度今日は野良パーティ組める人を探してたんです! よかったら一緒にどうですか?」


「い、いや、気持ちは嬉しいが君の様な子ど……」


「ちょっと待ってタク!」


 と、タクと呼ばれた探索者の言葉を女の人が止めて彼を仲間達の所にひっぱっていく。


「ちょっと待ってね、仲間と相談するから」


「あ、はい」


 だよね、いくらメンバーを探しているとは言え、知らない人に自分を連れて行ってくれって言われたら、相談するよね。


「おい相談って相手は子ど……」


「ばっか、あの子アレよ、前にテレビに出てた妖精……」


「え? あっ!?」


 彼等はこっちをチラチラと見ながら話し合いに白熱していたけれど、一段落ついたのか話を終えるとこっちにやってきた。


「話は決まったよ。俺達で良ければ一緒に探索しよう」


「ありがとうございます!」


 やった! 野良パーティ結成だ!


「俺の名はタクジ、一応リーダーみたいな事をしてる。仲間からはタクって呼ばれてるからそう呼んでくれ。役割は戦士だ」


「私はミカよ。魔法使い」


 二人が挨拶すると、残りの仲間の人も挨拶してくる。


「俺はカイト、スカウトだ。罠の解除や偵察が主な仕事だ。多少は魔法も使える」


「私はアカネ、回復役だよ」


「私はアユミです! 剣も魔法も回復も色々出来ます! あっ、でも罠の解除とかはできません」


 そーいやダンジョンと言えば罠だよね。

 今度スレイオさんに教えて貰おうかな。


「そんでアタシがリューリよ! 泉の妖精やってるわ!」


「キュイ!」


「あっ、この子は私の眷属でクンタマって言います。大きくなって人を乗せる事も出来ますよ」


 リューリ達も出てきたので、ついでに紹介しておく。


「おおっ! 妖精!」


「凄い! 初めて見た!」


「イタチか? 可愛いな」


「どっちも可愛いよー!」


 おお、リューリもクンタマも好印象だ。


「よし、それじゃあダンジョンに入るか!」


「おおー!」


 タクさん号令の元、野良バーティはダンジョンに潜るのだった。


 ◆


「ところで今日は何を採取しに行くんですか?」


 そういえば探索の目的を聞いていなかったので、改めて質問する。


「ああ、今日は7層の魔物を適当に狩る感じかな。あの階層の魔物は上層の素材としては企業が高めに買い取ってくれるんだ」


「へぇー」


「企業が欲しがる素材が変わると新製品が出る合図なんて言われるくらいよ」


 なるほど、普段欲しがらないものを急に欲しがったらどうしたんだって思うもんね。


「あっ、やば」


 和やかに話をしていたら、突然アカネさんがしまったと声を上げる。


「どうしたんだアカネ?」


「アユミちゃんの踏破数聞くの忘れてたよ!」


「「「あっ」」」


 踏破数? なんぞそれ?


「あー、すまないんだが今何層まで到達したか聞いて良いか?」


「階層ですか? えっと前にボスを倒したから5層までですね」


「おお、ボスを倒せるのか! それはよかった!」


「えっと、何が良かったんですか? っていうか踏破数って?」


「野良パーティを組む時の目安なのよ。ほら、ダンジョンって五層ごとにボスが出るでしょ。で、ボスって一度倒したら回避できるようになるんだけど、倒していない人がメンバーに居ると戦わないといけないのよ」


「へー、ボスって回避できるようになるんですね」


 なるほど、毎回戦わずに済むんだ。


「だからアユミちゃんがボスを倒しててよかったわ。ボスと戦うと無駄にコストかかっちゃうもんね」


 確かにボスと戦うのと戦わないのじゃ全然手間が違うもんね。


「特にダンジョンクリアを目指すときは重要だよな。ボスを倒すたびに毎回戻って、最後直前のボスまでクリアしたら、ラストは一気に駆け下りるからよ」


「ある意味ラストが一番厄介よね。ボスを回避できても何十層も無補給でおりていかないといけないんだから」


「え? 一気にクリアした層まで飛んでいかないんですか?」


「「「「飛ぶ?」」」」


 皆がどういう事とこっちを見て首をかしげる。


「えっと、クリアしたフロアまでは一気に飛んで……って、説明するよりやって見せた方が早いですね。階層移動!」


 すると、周囲の風景が通路から奥の見えない大きなホールに切り代わる。


「うわっ!? なんだなんだ!?」


「どこここ!?」


「広い、まさかボスフロアか!?」


「まさかテレポーター!? でも一層にそんなものなんて!?」


 突然景色が変わった事でタクさん達はびっくりして周囲をキョロキョロと見回す。


「気を付けろ皆! 何が起きるか分からんぞ!」


「あっ、大丈夫ですよ。私の力で五層まで移動しただけですから」


「「「「え?」」」」

 

「ア、アユミちゃん。五層ってどういう事?」


「私、クリアしたフロアまでは一気に移動できるんです」


「「「「マジで!?」」」」


 おお、みんな揃って良いリアクション。

 カイトさんとかクール系と思ってたけど、この人も良い反応してくれるなぁ。流石チーム組んでるだけあって息ぴったり。


「マジかよ、こんな一瞬でボスフロアってマジかよ!?」


「でも確かにボスフロアだわ。こんな広いフロア通常の階層にはないもの」


「って、事は本当に五層まで攻略して自由に行き来できるのか……」


「そ、それって凄くない!? こんな事が出来るならわざわざ大量の荷物を背負って何週間もかけて一層から全部降りなくて済むよ!」


「スゲェ、さすが妖精……」


「ねっねっ! 誘ってよかったでしょ!」


 うん、ちゃんとここが五層だと理解して貰えたみたいだね。


「じゃあ分かって貰えたところで一層に戻って探索を再開しましょうか」


「「「「おー! ……って、戻るなーっ!!」」」」

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