第88話 教科書から学ぼう(後になって気付く勉強の大切さ)

「『炎の蛇よ 地を這え 此処は四肢無き者の楽園 侵入者には炎の裁きを フレイムサークル』!!」


 エーネシウさんが発動させた魔法によって、私達の周囲に炎の円陣が生まれる。

 円陣の内部には炎の蛇達がチロチロと燃える舌を出して魔物達を威嚇する。


「グギャアアア!」


 警告を無視して侵入してきた魔物達だったけれど、炎の蛇達に全身をからめとられて身動きが出来なくなり最後には焼き尽くされてしまった。


「ふぅ」


 魔法を解除したエーネシウさんが小さく溜息を漏らす


「ど、どうでしたか?」


 と、アートさんが訪ねると、エーネシウさんがニンマリと笑みを浮かべる。


「ええ、素晴らしいですわこの『キョウカショ』という魔導書は!」


「ま、魔導書じゃなくて授業で使ってた魔法の教科書ですよぉ」


 それはもう魔導書と呼んでいいんじゃないだろうか?


「それにしてもこの世界の呪文という技術は素晴らしいですわね! スキルを取得してない者でも魔法を使えるようになるのですから!」


 エーネシウさんが興奮するのも無理はない。

 彼女の暮らすエーフェアースにおける魔法っていうのは、スキルによって再現した毎回使うには面倒くさい手順のことなのだから。


 四角く切った木材に油を染み込ませた布を巻き付け、それに火をつけたら火傷対策した皮手袋を嵌めて投げる、といった面倒な手順を自動で行えるようになるのがスキルだ。


 そう言う意味ではルドラアースのスキルこそ、エーフェアースの住人にとっては魔法といえるだろうね。


「子の本さえあればわたくしはスキルを種族せずとも魔法を使う事が出来るようになりますわ! 本当になんて素晴らしい!」


 エーネシウさんにとって、この世界の魔法は本当に画期的だったらしく、他のページの呪文も試すべく呪文を唱える。


「ふむ、こうで、こうか!


 そして私達から少し離れた位置で地面をに視線を向けながら体を動かしていたのは、フレイさんだ。


『と、このように人型の魔物は我々人間に似た体の構造をしている事が多いので、対人間用の技が通用します。例えばこんな古流剣術の動きとかね!』


「ほうほう、この動画というのは凄いな。世の達人の技を本人がその場に居ずとも学ぶことが出来るのだから」


 エーネシウさんが教科書の呪文に学んでいたように、フレイさんは配信サイトの探索者達の動画に嵌っていた。

 特に彼女が気に入ったのは、前線で戦う戦士系の探索者の戦闘シーンを開設した動画だ。

 いま彼女が見ている動画は、高ランクの探索者が技を披露し、更にそれを実戦で使ってみるシーンも収録されたものだった。

 ちなみに今見ているのは、鉄砲が戦場を席巻する様になる前の実戦剣術の動画だ。


「本当に素晴らしい。これ程の技を懇切丁寧に教えて貰え、さらに実戦での運用まで安全な場所で見る事が出来るとは! どれほど金を積んでもこのような貴重な体験は出来ないぞ!」


 魔導書にを喜んだエーネシウさんに対し、実戦の光景を見る事に喜ぶフレイさん。

 ここら辺魔法使いと戦士が求めるものの違いだねぇ。


「話に聞くのと動く姿を見ながら聞くのでは理解度がまるで違う! しかも身を危険に置くことなく秘伝を見る事が出来るとあれば、世の貴族達はこぞって自分達の子供にこの動画を見せたがる事だろう!」


 そういえばエーフェアースの貴族にとって、領地を守る力を持っている事は凄く重要なんだっけ。

 腕の立つ部下が沢山いる大貴族ならそうでもないかもだけど、下っ端貴族にとっては死活問題もんね。


「本当に素晴らしい、この動画があれば、我が領地も失われる事はなかっただろうに!」


 正直ガチめの話過ぎて迂闊な事言えないんですけど。


「ふ、ふふ、しかしこれ程の技をタダ同然で学ぶことが出来るとは、まさに役得としか言えないな」


「ええ、本当に。アユミ様とアートさんには感謝ですわね!」


 まぁ私が巻き込んだところがあるから、二人が強くなるのは私としてもありがたいんだけどね。


「あ、はい。パーティの仲間が強くなるのは良い事ですよね……今月の通信料が……見放題プランに替えた方がいいかなぁ、でも月々の支払い額が……でもこれでうまくいけば配信の利益で一気に賄えるし!」


 うん、アートさんや、そういうのは捕らぬ狸の皮算用って言うんだよ。

 そんでもって、なんとなくだけど、そんな予感がヒシヒシするんだよねぇ……


 ともあれ、こうして二人は教科書と動画から様々な魔法や武術、見知らぬ魔物との立ち回り方の知識を学んでいった。


『炎蛇陣スキルを取得しました』


『中級対人剣術スキルを取得しました』


 あっ、二人に混ざって訓練してたお陰か、私もスキルを取得できたよ。


「「「でも一番ズルいのはアユミ様/殿だと思う」」」


 あっ、はい。そうですね。

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