第87話 妖精従者達のスキル修行(人体実験風味)

「よーし! それでは魔法訓練開始!」


「「「はい!!」」」


 リドターンさんの指示のもと、改めて皆の修行が始まった。

 ちなみに今回からはアートさんも修行に加わることになっている。


「力量が近い異世界人を交えたスキル習得速度評価実験、さて、だれが一番最初にスキルを覚えるかのう」


 なんて事をボソリと呟いたのはキュルトさんだった。


「何ですか実験って?」


「いやのう、異世界人が我々の世界に来た時、どれほどの速度でスキルを取得できるのかと思ってのう」


 ふむ、そう言われるとちょっと気になるような。

「それに向こうの世界でのみ得る事が出来るレベルの恩恵も気になりますね。レベルが高くなればスキルを早く取得できるのか、それとも逆なのか。はたまた全く関係ないのか」


 と話題に加わって来たのはストットさんだ。


「人の寿命は有限じゃ。それゆえ鍛錬の効率は真剣に考えねばな」


「ええ、特に我々のような老人には猶更ですね」


 そうか、キュルトさん達はお爺さん、私達よりも早く寿命を迎えちゃうんだから、時間が気になるのは当然だよね。


「だからこそ、若いもんが実験台になってくれると儂等としても大助かりじゃわい!」


「ですねぇ。実験が失敗したら逆効果になってしまう危険もありますし」


「今何かヤバい事言いませんでしたか!?」


「気のせいではないか?」


「ええ、彼女達が効率よく鍛錬出来る為の最高効率を求めようと話していただけですよ」


「え、そ、そうでしたっけ?」


 何か微妙にニュアンスが違ったような……でも凄くキッパリしてるし、私の効き間違いだったのかな?


「あっ! 今スキルを覚えました! なんか『火弾』って言うのが!」


「「「「おおっ!!」」」」


 と、そこでアートさんからスキルを取得したという報告が入り、お爺さん達が歓声を上げる。


「やったねアートさん!」


「おめでとーアート!」


「はい! これで私もスキルが使えます!」


 アートさんがスキルを取得できたことで、私以外の異世界人でもスキルを取得できることが判明した。


 ◆


「結局私達は取得できませんでしたわね」


「くっ、アートは更にスキルを覚えたというのに不覚」


 そう、フレイさんが言ったように、その後アートさんはエアウォークのスキルである『空駆』を取得する事が出来た。


「ふむ、一つなら偶然と言えるが、スキルを取得できたのはアートのみ。それも一日に2個。これはやはりレベルがスキル取得に影響している可能性が高いな」


「そうですね。検証も兼ねてあと数日スキル取得の訓練をして、その後は二つの世界を行き来して、スキル取得とレベル上げを繰り返す事で、スキル習得速度の検証をしましょう」


 スキルとレベルの関係、最初は推理レベルの内容だったけど、意外と信憑性が出て来たかも。


「ところでアユミの成果はどうだったんだ?」


 と、スレイオさんが私は修行でスキルを取得できたのかと尋ねてくる。


「えっと、今日の修行で覚えたのは『初級罠探知』と『初級軽業』と『中級体術』と『中級短剣術』と『中級フェイント』ですね」


「「「「「「「「それはおかしい」」」」」」」」


 おおっと、皆から総ツッコミを喰らってしまいましたよ。


「流石に5個はおかしいだろ」


「貴方のスキル取得速度の異常さは分かっていましたが、やはり改めて比較してみると異常ですね」


「やはり妖精だから違うのかのう?」


「ううん、姫様は進化する前からこうだったよ」


「という事はアユミが異常なのか?」


 異常とは失敬な。


「単に運が良かっただけでは?」


「「「「「それはない」」」」」


 しかしリドターンさん達とリューリから全否定。


「これまでの修行から見てもアユミのスキル習得速度は異常だ」


「妖精からみてもおかしいとおもいまーす!」


「さすがアユミ様ですね! 凄いです!」


「アートさん、そういう問題ではないと思いますよ」


「うーむ、主がこうもポンポンと強くなっては我々従者がお守りする事が出来ない……」


 いや従者でも主でもないからね? 仲間だからね?


「キュイ?」


 私が困惑していると、妖精の笛からクンタマがどうしたの? と顔を出す。


「なんでもないよー」


 私を気遣ってか、クンタマが体をよじ登って体全体で頬ずりしてくる。

 ふふっ、やわらかーい。


「そう言えばクンタマってスキル使えるのかな?」


「キュ?」


「流石に使い魔にスキルは無理ではないですか?」


「キュキュウ」


「使えるって言ってるよ」


「「「「「「「「え!?」」」」」」」」


 クンタマの言葉を通訳したリューリに皆の視線が集まる。


「眷属でもスキルは使えるってさ」


「なんと! まさか人間以外の生物でもスキルを使えるとは!」


「という事は魔物もスキルを使えるのか!?」


「いや、眷属だからかもしれんぞ」


 クンタマがスキルを使えると聞いて、リドターンさん達の議論がヒートアップする。


「ところでクンタマのスキルって何?」


「キュイ!」


「見ててねだって」


 私が訪ねると、クンタマはぴょんと地面に飛び降りる。

 そして私達からすこし離れると、クンタマの体がうっすらと光を帯びる。そして……


「キュイー!」


 光がブワッと膨らむと、なんとクンタマの体が大きくなったのである。


「「「「ええーっ!?」」」」


 その光景に私達は思わず声を上げてしまう。

 大きくなったクンタマは自転車くらいの大きさになっていたのだ。


「キュイ!」


 そして片方の前足を自分の背中に向けて振って何かをアピールする。


「背中に乗れって」


「乗って良いの?」


「キュイ!」


 いいよ、と言っているのか、クンタマが元気よく鳴く。


「それじゃあ失礼して」


 そーっと背中に乗ると、クンタマが動き出す。


「お、おおー」


 なんていうか馬に乗ってる気分。


「キュキュ」


「何て?」


「速度を上げるからしっかり捕まっててってさ」


「分かった」


 私はクンタマの体にしっかり抱き着くと、クンタマが小さく鳴いて動き出す。


「お、おお!?」


 意外と早い! クンタマは猛烈なスピードで走りだすと、体をグネグネと動かして進路を変える。


「お、お、お、おーっ!?」


 いや速い! めっちゃ速い! しかもグネグネ動いてギリギリで障害物を避ける!


「キュイ!」


 こんどは壁に飛びついて壁走り!? そのままぐるりと天井を回って一回転!


「お、おおー」


「キュイ!」


 そうしてひとっ走りすると、ようやくクンタマは満足したのか皆の所に戻ってきた。


「う、うわ……ぁ」


 私はヨロヨロと体をふらつかせながら、クンタマの背中から降りる。


「大丈夫ですの!?」


 慌ててエーネシウさんが私を抱き留めてくれる。あっ、やわらか。


「ありがとう……ございます」


「ふむ、それなりに速かったようだが、そこまでふらつく程か? ふふ、もしやアユミ殿は騎乗が苦手なのか?」


「……フレイさんも乗ってみます?」


 楽しそうに言うフレイさんの言葉に、私はクンタマの背に乗ってみないかと誘う。


「よろしいのですか?」


「いいよねクンタマ」


「キュイ!」


 クンタマもいいよーと背中を落とす。


「じゃー思いっきり走ってきて!」


「キュイ!」


 私がゴーサインを出すと、フレイさんを乗せたクンタマが爆ぜる様に走り出した。


「お、おおおっ!?」


 クンタマは猛烈な勢いでダンジョン内を走る。

その速度は自動車くらいの速度で、多分時速4~50キロくらいかな。

 瓦礫を避け、壁に飛びつき、グルリと天井を回る姿は多分私が乗った時と同じルートだ。


「お、おおおおおぉぉぉ!!」


 その背中からフレイさんの悲鳴が上がる。

 そうして、十分に走って満足したのか、クンタマは戻って来た。


「どうでしたか?」


「……う、うう」


 よろりと、ふらつきながらクンタマの背を降りるフレイさん。


「お、恐ろしい早さでした……」


 そんなフレイさんを見て、アートさんとエーネシウさんは首を傾げる。

 何故道路を走る車くらいの速度でこんなフラフラになってしまうのか、不思議そうだね。

 私もフレイさんが乗っている時は同じように思ったんだけど、実際に乗ってみると全然違うんだ。

同じ速さで走ってるはずなのに何故か物凄く早く感じるんだよ。

ほんとメッチャ怖かったんだよね。


「ああそっか! クンタマちゃんって背が低いから、視界が下がって速さを余計に感じるんだ」


 いやホント、もう二度とクンタマの背中には乗りたくないよ。


「キュイ!」


「皆を乗せても大丈夫だから、疲れたらいつでも言ってね、だって」


「「「「遠慮します」」」」

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