第82話 パーティ結成パーティ(わ、忘れていたわけじゃないよ!))
「それでは、アユミ様とのパーティ結成を祝して、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
ダンジョンでの決闘の後、私達はパーティ結成祝いとして近所のファミレスにやって来ていた。
「というか、何であの方が仕切っているんですの?」
ドリンクバーから持ってきたホットの紅茶を上品に飲みながら、エーネシウさんが眉を顰める。
「まぁ良いじゃないか。それより美味いぞこのケーキ」
そんなエーネシウさんを、ホッコリした顔で窘めるフレイさん。
もしかして甘いもの好き?
「貴方は気楽ですわねぇ」
「モグモグ、ケーキうま~」
そしてリューリは自分の半分くらいの大きさのケーキとの戦いに忙しそうだ。
というかよくあのサイズを食べれるなぁ。
やっぱ妖精は内臓の形が人間と違うのかな?
いやそうなると妖精人に進化した私の内臓も普通の人間と違う事に……よし、この話題は止めよう。
「という訳で私アートは! あのアユミ様とパーティを組む事になったのです! 皆拍手ーっ!!」
「「「「おーぱちぱちぱち」」」」
そんな中、ノリノリで虚空に向けて語り続けるアートさんに私達は釣られて拍手を送る。
「アユミ様、あの方は何故宙に向かって話しかけているのですか?」
ああうん。実は私もちょっと気になってた。
前に遭った時も誰かに向けて話しかけたから、もしかして前世でもいた動画配信者なのかなって思ったんだけど、彼女自身はカメラを手にしてないし、動画を撮影するスタッフの姿も見えない。
本当に虚空に向かって話しかけているようにしか見えないんだよね。
「んー、そう言えば前にも何もない所に話しかけてた気がするかな」
「それ、大丈夫ですの? 今からでも解約した方が良いのでは?」
「自分にしか見えない友達でもいるんじゃないか?」
いや、流石にそれは酷くない?
「あの時はボスとの戦いの時だったけど、見えない人からボスの情報を貰っていたみたいだし、誰かいるのは確かっぽいんだよね」
そう、ボスであるブルーポイズンリザードの攻撃パターンとか、毒の情報を教えてもらってたみたいだから、誰かが彼女に話しかけていたのは確かっぽいんだよね。
まあ、そういう演技をしていたという可能性も無いわけじゃないけど、それはそれで何のためにやってたのって話になる訳で。
「ではリューリのような妖精なのでは?」
あー、妖精か。確かにそう言うのが居てもおかしくないか。
「んーん。私に感知できないし妖精じゃないと思うよ」
けれど当の妖精からそれはないと断言されてしまった。
「ではあの方は誰と話していらっしゃるのですか?」
「「「うーん」」」
謎だ。やはりイマジナリーな親友と会話してらっしゃる?
それともまさかの幽霊?
「精霊様じゃない?」
「「「精霊?」」」
妖精じゃなくて精霊?
「妖精とは違うの?」
「妖精は私みたいにこの世界に干渉する肉体を持った存在の事よ。物質の器に縛られる分、使える力に制限はあるけど、こうしてご飯を楽しめるって訳。精霊様はより精神体としての側面が強いから、直接触る事は出来ないよ。でもその分魔法は私達妖精よりも遥かに強いよ」
成程、よくファンタジーなんかで出てくる半透明のキラキラしたアレが精霊なのか。
「じゃあアートさんは精霊と会話が出来るんだ」
「ダンジョンのボスの情報を得る事が出来たのも精霊様の力ということですか」
「「「成る程ぉ」」」
結論、アートさんは私達には見えない精霊からアドバイスが貰える人だったようだ。
「あの方、意外と侮れないのかもしれませんわね」
「確かに、強靭な肉体を持ち、魔法を扱え、更に精霊様の言葉を聞くことが出来るか。我々もウカウカしてはおれんな」
そうだね。初めて出会った時は頼りない感じだったけど、私が居ない間にかなり成長していたらしい。
まさに男子三日会わざればって奴だ。女の子だけど。
「それじゃあ我等がリーダーアユミ様のお言葉を賜りたいと思います!」
「え? 何?」
急になんか話を振られたんですけど?
「何か適当に挨拶してあげてください」
挨拶? 挨拶って何すればいいの? と言うかどこに向けて話せばいいんだコレ。
「えっと、アユミです。今は妖精やってます」
とりあえず当たり障りない挨拶と共にスキルで畳んでいた羽を広げて見せる。
「わわわっ!? 羽だぁー!」
驚いてくれたみたいなのでまぁいいか。
「はい終わりです!」
言う事も無くなったので羽を畳んでおしまいにする。
「羽が……あっ、はい。次ですね。じゃあフレイさんお願いします」
ちょっと名残惜しそうにしていたものの、次はフレイさんの元に行くアートさん。
「ん? 私か? 挨拶か……フレイ=ジーナモンだ。アユミ殿の従者として仕えている。目的はダンジョンを攻略してジーナモン家の復興を成す事だ」
「復興?」
「待って待って」
今聞き捨てならない事言ったぞこの人。
「では最後はわたくしですわね! わたくしの名はエーネシウ=アリアール。誇りあるアリアール家の者ですわ。わたくしもアユミ様にお仕えしておりますの。皆様お知りおきのほどを」
「だから従者の話は断ったでしょ!」
もー、二人共まだその話狙ってたの?
家臣とか無しって言ったのに。
「ははははは」
「ほほほほほ」
「笑ってごまかすな!」
全然誤魔化せてないからね!
「そして私カメラ係のアートです! 皆よろしくね!」
皆へのインタビュー? を終えたアートさんが虚空に向かってポーズをとる。
けれど見えない精霊に何か言われたのか、えへへと苦笑する。
「あはは、そうでした」
どうやら精霊から何か突っ込まれたっぽい。
「ちょっとちょっと」
しかしそんなアートさんに物申す人物がいた。
「え?」
「私の事を忘れてるんじゃないの?」
そう、我等がミニマム妖精リューリだ。
「あっ、ゴメン。それじゃあ自己紹介お願いします」
「まったくもう! 一番大事なところを忘れてどうするのよ!」
プンプンしていたリューリだったけれど、アートさんから改めて自己紹介をお願いされて、上機嫌に羽をパタパタさせる。
「私の名前は「キュイ!!」よっ!」
何か妙に甲高い声が聞こえた。
「キュイちゃん?」
「違う違う! 私の名前は「キュキュッ!」!!」
再びリューリの名前が甲高い音に被さる。
「キュキュちゃん?」
「だから違うって! っていうかさっきから誰! 人の決め台詞に被せてきて!」
二度も謎の声に邪魔されたリューリが怒りを爆発させ、周囲をグルリと見回し、私達もその動きにつられる。
「キュ?」
すると、テーブルの上に動く影があった。
それはリューリと同じくらいの大きさをした長細い体の持ち主の……
「イタチ?」
イタチだった。
「イタチですわね」
「オコジョとか?」
「なんだイタチじゃん」
「「「「「……」」」」」
イタチはテーブルに陣取って美味しそうにケーキをパクついている。
「「「「「って何でこんな所にイタチが!?」」」」」
ここ都会のど真ん中だよ!?
犬や猫、まぁワンチャンネズミならともかく、何でイタチが!?
「何よアンタ、出てきたの?」
けれど、リューリだけはイタチが居る事に驚くことなく、寧ろこの子に親し気に話しかけた。
「え? 何リューリ、この子のこと知ってるの?」
もしかして知り合い? イタチの妖精とか?
「知ってるも何も、眷属の笛に入ってたイタチじゃん」
眷属の笛? 何か聞いた覚えが……
「あっ!!」
私は思い出す。
「あの時のイタチっ!?」
「キュイ!」
そうだ! 確かにあの笛を吹いた時に出て来た!
あのイタチと同じ見た目だ! というか……
「わ、わわわわわ忘れてたぁーっ!!」
ヤバイ! あの日からずっとこの子の事忘れてた!!
「き、君、体は大丈夫!? お腹とか空いてない!?」
どどどどうしよう! ずっと笛の中にいた筈だから何も食べてない筈! それどころか水も飲んでないんじゃないの!?
もしかしてあまりにも空腹過ぎて自分から笛を出て来たの!?
「キュッ!」
「あっ、ケーキ食べたいんだ。いいよ、好きなだけ食べて! 飲み物もあるよ!」
「キュー!」
私は慌ててイタチの為に飲み物を用意すると、イタチは売れそうに鳴いてカップの中の飲み物に口をつける。
「アユミ殿はこのイタチの事を知っているのですか?」
「ええと、ダンジョンのクリア報酬の中に……入ってた」
「「「ダンジョンの!?」」」
「アユミ様ってダンジョンをクリアしたことあるの!?」
ダンジョン報酬と聞いて、アートさんが目を丸くして話題に喰いついてくる。
「んー、まぁ一応ね」
「ああ、リロシタンのダンジョンですわね」
「リロ……?」
エーネシウさんはあの時の事を覚えていたようですぐに納得の声を上げる。
「しかしダンジョンの攻略報酬に生き物が与えられるなど聞いたことがありませんが」
「うん、正確には眷属の笛っていう笛が報酬で、この子はその笛の中から出てきたの」
そして私は恐る恐るダンジョンのクリア報酬を確認した時の事を話す。
すると最初は興味津々だった皆の顔が、徐々に渋いものへと変わってゆく。
「……つまりそれ以来ずっと忘れていたと?」
「は、はい……」
「アユミ様、それは流石に」
「可哀そうというか、良く生きてましたねこの子」
うう、仰る通りです……
「で、でも仕方なかったんだよ! あの時は直後にリドターンさん達がダンジョンを攻略したりと色々あったんだよー!」
他にもスキル関係とか色々あったんだよ! 言えないけど。
「それにしたってそんなに長い間放置していたら、餓死していた可能性もあったんですのよ」
「うう、それは……はい、すみませんでした」
言い訳のしようもない正論に私は謝るしか出来なくなる。
「キィ」
「え? 何?」
私がどん底までへコんでいると、イタチが何かを言いたげに私の所にやってくる。
「ずっと笛の中で寝てたから心配ないだって」
「え? リューリこの子の言ってる事が分かるの?」
あっ、そう言えば前にこの子と出会った時もリューリは会話してる風だったような。
「うん。笛の中は不思議な空間になってて、呼ばれるまでそこで寝てるからお腹が空かないって言ってる」
マジで!?
「何それ、この笛の中ってそんな不思議空間だったの?」
「成る程、それで空腹に耐えかねて勝手に出てくることがなかったと」
よ、良かったぁ。放置され過ぎて餓死したりなんて事はなかったんだね……
「では何故今になって出て来たんですの?」
私が安堵の溜息を漏らしていると、エーネシウさんがイタチに問いかける。
そう言えば、呼ぶまで寝てるなら、何で出て来たんだろう? あんまり呼ばれなくて暇だったからとか?
「キィ」
「美味しそうな匂いが下から出て来たんだって」
「つまりお菓子に釣られて出て来たと」
「みたい」
ああ、成る程。お腹が減る事はないけど、その様子はある程度理解できて、好奇心に釣られて姿を見せたって事なんだね。
「はぁー、そうだったんだ」
どうやら本当にお腹が減った時には自主的に外に出てくる事が出来たっぽい。
本当に良かったぁ。
でもダンジョンの運営にはちゃんと説明書を用意しろと物申したい。
説明書も無しに本体だけ寄こすとか、中古品売買じゃないんだよ!?
「じゃあ君も私達の仲間なんだね」
「キィ!」
アートさがイタチに話しかけると、イタチはそうだよと言いたげに返事をする。
「先輩って呼べよ小娘って言ってるよ」
「ええ!?」
まさかの体育会系の返答にショックを受けるアートさん。
「嘘ウソ、ジョーダンだよ」
「……カワウソだけに、か。くくっ」
「フレイさん!?」
待って、今何か聞き捨てならないダジャレが聞こえた気がしたんだけど!?
「それでこの子はなんという名前なんですの?」
「名前?」
「眷属の笛というアイテムから出て来たという事は、この子はアユミ様の僕なのでしょう? なら名前を付けたのでは?」
「……」
名前……そうか、名前は要るよね。
「まさか付けていらっしゃらないのですか?」
「……うん」
私が答えると、再び皆の眼差しに避難の色が混ざる。
いや違うんだよ! あの時は本当に色々あったから、名前つけるどころじゃなかったんだって!
「名前がないなんて可哀そうだよ! ちゃんと可愛い名前を付けてあげようよ!」
という訳で急遽イタチの名づけ大会が始まりました。
「名前、名前か……クモールなどどうだ?」
以外にもトップバッターはフレイさんだった。
「変わった響きですね。どういう意味なんですか?」
「肉料理ですわ。細く巻いたお肉を小麦粉を練ったもので包んで焼く料理ですの」
それに答えたのは、フレイさんではなくエーネシウさんだった。
彼女は溜息を吐きながら、食べ物の名前、それも非常食扱いのようなネーミングは無いだろうと苦言を呈する。
それにしてもお肉料理か。
お肉を小麦粉を練ったもので包むって事は、トルティーヤみたいなヤツなのかな?
「名付けるならパーデュランなどどうですの?」
フレイさんには任せられないと次に手を上げたのはエーネシウさんだ。
「その名前の意味は?」
「確か古い恋愛ものの演劇の登場人物で、痴情のもつれで最後は恋敵に刺された男の名だな」
「チョイスが酷い!」
まさかの酷い死に様!
「そんな事ありませんわよ! パーデュランはセミーヌと純愛を貫いて幸せを手にする直前で悲劇に見舞われたんですの!」
「どちらにせよそんな末路のキャラの名前を付けるのはちょっと……」
なんかこのイタチも酷い死に方しそうでちょっとね。
「アートさんは何か……」
「いやいや、皆遊びすぎでしょ。流石にそんな名前つけたら怒られるって」
どうやらアートさんは彼女にだけ見える精霊とイタチの名前について話し合っていたらしいけれど、あの様子じゃ精霊のネーミングセンスは期待できそうにないね。
「イタチの名前かぁ。細長いし……ウナギ、アナゴ……」
私は目の前でお菓子を食べているイタチを観察する。
そういえば今更だけど、動物に人間のお菓子食べさせて大丈夫なのかな?
でもダンジョンのクリア報酬から出て来たくらいだし、普通のイタチじゃないのかも。
いや、今はネーミングの為にイタチの観察に集中しないと。
まずは見た目の色。
体全体が茶色で目元が少し黒く、口元とお腹が白い。
体全体が長く、尻尾は太い。目がクリッとしててとてもかわいい。
「キュイ?」
「可愛い~」
首をかしげて何? とばかりに愛らしいポーズをとるイタチを思わずナデナデしてしまう。
茶色くてフワフワしたもの、茶色くてフワフワしたものというと……
「毛虫?」
何故かつい季節の風物詩である毛虫を思い出してしまった。
いや待て、流石にこの名前はないからそんな目で見ないでほしい。
「茶色、茶色くてまるっこいの……」
何か、何かいい名前は! 今こそその力を発揮しろ私のネーミングセンス!
茶色で小さくてまるっこいのと言えば……
「っ!」
その瞬間、雷が走ったかのような感覚が脳裏に迸る!
「くんたま!!」
「「「「くんたま?」」」」
「キュイ!」
その時だった。突然イタチが立ち上がって耳をピコピコしだしたのである。
とてもかわいい。
「え? 何? 気に入ったの?」
リューリは妙にハイテンションになったイタチの話を聞くと、こちらに顔を上げて言った。
「この子クンタマがいいって」
「キュイ!」
よっしゃー! 名付け成功!
「よーしよし、これからよろしくねクンタマ」
「キュイー!」
これが、私の新たな仲間、燻製卵ことクンタマの名前が決まった瞬間だった。
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