第81話 メンバー選抜試験(単に戦いが好きなだけでは)
ダンジョンの中で二人は向かい合っていた。
「さぁこい!」
迎え撃つはフレイさん。
「行きますよ!」
それに挑むはアートさん。
「どうしてこうなった」
◆
事はアートさんの仲間になりたい発言を止めたフレイさんの言葉から始まった。
「アユミ殿の家臣になりたいというのなら、私と戦ってからにして貰おうか!」
そんな感じで私達はダンジョンへ行く事となり、そこで決闘が始まったのである。
尚、最初はその場で決闘を行おうとしたフレイさんだったけれど、アートさんから街中での決闘騒ぎはご法度だと言われてダンジョンに場所を移した次第。
「成長した私の力、アユミ様に見て貰うんだから! たぁーっ!」
そう叫ぶや、アートさんは真っ向からフレイさんの懐に飛び込む。
「何っ!?」
それが意外だったのか、フレイさんが驚きの声を上げて後ろに跳び退る。
それを追って剣をコンパクトに振るアートさん。
「くっ、重い!」
フレイさんが間一髪それを受け流す。
「あら、意外と早いですわね。加速系のスキルかしら。それに剛力系のスキルも持っていらっしゃるのね」
と、横で待機していたエーネシウさんがアートさんの攻撃をスキルによるものだと判断する。
いや、こっちの世界にはスキルは無いんで、あれ素の攻撃なんですよ。
「アユミ様の仲間になりたいというだけあって、それなりの力を持っているという事かしら。でもそれだけではフレイさんの代用品にもなれませんわね」
「ふっ、なかなかやるな。だがこの程度では……」
間合いを取って態勢を立て直したフレイさんが突撃の姿勢を取る。
「『……我が敵を焼き尽くせファイアブリッド』!」
しかしそれをさせまいとアートさんが魔法を放った。
「何っ!?」
アートさんの放った魔法に驚いたフレイさんは、回避が間に合わず盾で受け止める。
多分スキルを発動して一気に懐に飛び込もうとしてたんだろうね。その所為で反応が遅れたっぽい。
「『風よ わが身を乗せよ 疾く速く クイックブレイク!』」
その隙を逃さず、逆に突撃してきたアートさんが走りながら魔法を発動させる。
「たぁぁぁぁぁっ!」
「くっ『連撃』!」
意外にも、それは同種の攻撃だった。
魔法の効果で体の動きが早くなったアートさんによる連続攻撃、たいしてスキルの効果で複数の攻撃をほぼ同時に放つフレイさん。
「きゃぁっ!?」
「おおっ!?」
お互いに連続攻撃が来るとは思っていなかったらしく、二人は慌ててお互いの攻撃を受け流しあう。
「うそっ、呪文詠唱なんて聞こえなかったのに!」
あー、その人が使ったのは魔法じゃなくてスキルなんですよー。
でも成る程、今のやり取りはなかなか面白かった。
アートさんはファイアブリッドを放つ事で、ダメージを与えるんじゃなく、音や炎を目くらましにして接近時に唱えた呪文を聞こえにくくしていたみたいだ。
「彼女、やりますわね。剣士系のスキルだけでなく、魔法まで覚えているなんて。基礎的な身体能力を上げる為のパッシブ系のスキルを覚える為の鍛錬も大変だったでしょうに」
いや全部魔法なんだけどね。
あと身体能力の方はスキルじゃなくてレベルアップの恩恵だと思う。
文字通り、レベルを上げて物理で殴ったんですよ。。
いや、そう考えるとこの世界怖いな。
エーフェアースの人間は基本回数制限のあるスキルを組み合わせて戦うけど、こっちの世界の人間は素のステータスでゴリ押ししてくるんだよね。
まさにレベルをあげて物理で殴るの精神だ。
あれ? そう考えると、高レベルの魔法使いってレベルさえ上げれば物理でもそれなりの戦士並みのパワーになるんじゃない?
ゲーム終盤の高レベル魔法使いが弱いエリアのザコを魔法無しの物理で倒せるのと同じかぁ。
そう考えると、こっちの世界の魔法使いがエーフェアースに行ったら、初見殺しで凄いことになるのでは?
あっ、でもアートさんもスキルに驚いてたし、初見殺しはこっちの人も同じ事か。
「「はぁっ!!」」
二人が打ち合う。
始めはお互いスキルと魔法を使って派手に戦っていたけれど、アートさんは接近戦では呪文を唱える隙が作れず、逆にこの世界の事情を知らないフレイさんは、それをスキルを温存して為だと勘違いして迂闊にスキルを出せなくなっていた。
その結果、戦いは純粋な剣技の競い合いへと移っていた。
こうなると何年も先生に学んで戦闘技術を学んでいたフレイさんの技術が光る。
相手の攻撃をいなしたり、フェイントで空振りを誘ったりする姿が勉強になる。
対してアートさんは戦闘技術はつたないけれど、ステータスで優る事もあって、身体能力で強引に押し込んでゆく。
時には回避されそうになった攻撃を器用さ頼りで強引に軌道を変えて補正するもんだから、型が読めずにフレイさんのペースは乱されっぱなしだ。
「なんと滅茶苦茶な! 型も何もあったものではない!」
「当たれば良いんですよ! やり方に拘ると逆に視界が狭まるって教官も言ってました! ボクサーがキックをしてもダンジョンなら反則じゃないんです!」
「なんの話か分からん!」
あー、確かにボクシングの試合で相手選手がいきなりキックしてきたらビックリするよね。まぁ反則なんだけど。
でもこの世界の戦いは試合じゃない。文字通り命を懸けた戦いだから、反則もへったくれもない。
「そう考えると、普通の格闘技ってルールがガチガチに決まってるから、ダンジョン向きじゃないんだね」
ちなみにこれは後で知る事になるんだけど、ダンジョンが出現した直後の世界では、ボクシングで例えた通り、現代の格闘技や武術を使った戦いはかなり苦戦してたんだって。
何せダンジョンの魔物はルール無用で襲ってくるけれど、格闘技を学んできた人達は体の芯まで試合のルールが染み込んでいたから、無意識にルール違反になる行動を避けてしまってそれが原因で大怪我する事が多かったんだとか。
だから当時は戦国時代とかで使われていた古武術に脚光があたり、現代格闘技や武術は教官も含めて新しい時代に合わせた調整が出来るまで色々大変だったらしい。
でもまぁ、何より厄介なのはステータスによるゴリ押しなんだけどね。
「これは面白くなってきましたわね。彼女、アートさんだったかしら。彼女の技術はフレイさんに比べると未熟だけれど、対魔物を重視した技術を重視したフレイさんとはいい勝負になってますわ」
ああそうか、フレイさんは昔から武術を学んできたらしいけど、エーフェアースは魔物が闊歩する世界。当然戦い方も人間よりも魔物との戦いを優先して覚えるみたいだ。
勿論ダンジョン強盗みたいに、人間と戦う事もあるから、そっちもおろそかに出来ないみたいだけど。
エーネシウさんの見立て通り、二人の戦いは一進一退の膠着状態に陥っていた。
しかしアートさん意外とやるなぁ。
初めて会った時のイメージが強いけど、ボス戦の時は結構頼りになったもんなぁ。
それにその後の魔物の大発生の時も、しっかり戦えていた。
きっと私が見ていない所で頑張ってたんだろうな。
「そろそろですわね。二人共、その辺りで良いでしょう」
と、動けなくなっていた二人に、フレイさんが声をかける。
「もう十分にアートさんの実力は理解できたでしょう? 貴方の方も」
「……そうだな」
エーネシウさんに止められたフレイさんは剣を下ろすと小さく息を吐く。
「君の実力は理解できた。技術は少々未熟だが、魔法も使えるのは心強い」
対するアートさんも、剣を鞘に納めると呼吸を整えながらフレイさんに視線を合わせる。
「……こちらこそ、凄い剣の腕でした。技術面では完敗です」
二人はクスリと笑うと、お互いに手を差し出して握手をする。
「フレイだ。改めてよろしく頼む」
「アートです。よろしくお願いします」
こうして、フレイさん達に認められあアートさんは、正式に私のパーティに参加する事となったのだった。
「よーっし、それじゃー新しい仲間が入ったお祝いにお菓子パーティーだー!」
そして空気を読まずに飛び出す妖精が一匹。
君、単にお菓子が食べたくなっただけでしょ。
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