第80話 少女の願い(おっと、そんなこともありましたね)
「これ、アユミ様が以前討伐したブルーリトルゴブリンの素材代金です」
服屋の帰り際、渡したいものがあると言うアートさんから渡されたのは、封筒に入った高額紙幣の束だった。
「へ? 討伐?」
そんなことしたっけ?
「あれです。私が初めてアユミ様に助けてもらった時に倒した魔物です。あれの素材代金を私が預かってたんです」
あー、そういえばそんなことあったような気が。
「にしても律儀ですねぇ。回収し忘れた魔物の素材なんて貰っておけばよかったのに」
それこそダンジョン内に放置してたら、そのままダンジョンに吸収されちゃって一円にもならなかった訳だし。
「そういう訳にはいきません。命の恩人の忘れ物を懐に入れる訳にはいきません」
すると横に居るフレイさんとエーネシウさんがウンウンと頷く。
「探索者のルールとして、回収を忘れた素材は特別な理由がない限り拾った探索者が自分の物にしても文句は言われません。でもそれはあくまでただの回収忘れの話です。命の恩人の忘れ物を自分の物にするのは違うと思うんです……」
それで彼女はずっと私を探してダンジョンを歩き回っていたんだという。
「それは随分と手間をかけさせちゃいましたね。アートさん、ありがとうございます」
「え!? あ、いや、そんな!」
私がペコリと頭を下げてお礼を言うと、アートさんは慌てて手をパタパタとさせる。
「そ、それだけが理由って訳でもないんです! えっとですね……」
アートさんはスーハーと数度深呼吸をすると、真剣な眼差しで私を見つめてくる。
「わ、私をアユミ様のスタッフにしてほしいんです!」
「スタッフ?」
えっと、何の?
こっちの世界でいう探索者パーティのメンバー的なものってこと?
「私、初めて会った時からアユミ様のスタッフになりたいと思っていたんです! だから、私をアユミ様のスタッフにしてください!」
むぅ、どうしたもんか。
アートさんをパーティメンバーに、ねぇ。
まぁ仲間が増えるっていうのは悪い事じゃない。
仲間が多ければダンジョンでの戦闘も楽になるし、苦手な事を任せることも出来る。
問題は私の方だよなぁ。
まず私はこの世界の人間じゃない。なんならエーフェアースの人間でもない。
だから戸籍が無いせいで、戸籍が必要になる手続きとかできないから、うっかり一緒に活動しているときに戸籍が必要な事が起きると大変なことになる。
更にもう一つは、私が二つの世界を行き来しているという事だ。
これも人にバレるとマズい。
何せ異世界だ。普通に考えたらどんな手段を使っても行く事なんてできない。
もしそれが表ざたになったら、大騒ぎ間違いなしだ。
それを考えるとなぁ……
「別にいいんじゃない?」
そう言ったのはリューリだった。
「え? 今口に出してた?」
「ううん、でも姫様の事だから色々バレたら不味いよなーとか思ったんじゃない?」
はい、まさにその通りです。
「いいじゃんバレても。どうせ黙ってても、あのお爺ちゃん達やこの二人みたいにバレちゃうんだから、それなら仲間にする代わりに黙って貰うように約束して貰えばいいじゃん」
うむむ、まぁ確かにそうなんだけど。
問題は本当に約束を守って貰えるかって話で。
「約束を守らなかったらエーフェアースに連れて行って置き去りにすればいいんじゃない? こないだダンジョンの階層を自由に行き来できるスキルゲットしてたでしょ。あれで一番深いところに連れて行けばいいじゃん」
わーお、めっちゃえげつない提案来ました。
まぁ確かに異世界のダンジョンに置き去りとか、口封じとして完璧だけどさ、さすがにそれは酷くない?
「姫様を騙そうって奴ならそのくらいされても文句言えないって」
この妖精はなんでそんなに私を上に置こうとするんだろうね。
しかし仲間かぁ。
仮にアートさんを仲間にするとして、メリットは何か。
まずこっちの世界で戸籍が必要な事を代わりにやって貰えるのは大きいかも。
例えばあんまりお金にならない魔物の素材の買取代行とか。
何ならスマホとかも代わりに契約して貰えるかも。
そしたらネットで色々情報収集とかできそうだよね。
あれ、これだけでもかなりメリットじゃない?
むむむ、よくよく考えたらルドラアースは文明が進んでいる分、身元の確かな人間を仲間に引き入れるメリット大きい気がしてきた。
「えっと、アートさん」
「はい、なんでしょう!」
「私は色々事情がありまして、だからいつも連絡が付く訳じゃないし、頻繁に冒険に出れるわけじゃないですけど、それでも良いんですか?」
「大丈夫です! 会える時だけでもかまいません!」
ふむ、こっちの都合の良い時だけでもOKか。
正直凄くありがたい。
となればあとはこっちから連絡する為に渡しようのスマホの契約をしてもらえば連絡もスムーズに出来そうだね。
……連絡。
ふと、ステータス欄のあの機能を思い出してちょっぴり背筋が寒くなる。
あとで新着を確認しておこう。
よし、考えはまとまった。
アートさんを仲間にしよう。
ただ、彼女が私達の戦いについてこれない可能性があるから、とりあえずお試し期間って感じでいこう。
「分かりました。ではア「お待ちください」」
けれど、そんな私をフレイさんが止める。
「フレイさん?」
「アユミ殿はこの者を臣下に迎えるおつもりですか?」
いや、臣下じゃなくて仲間ね。
「確かにアユミ殿の臣下に加わりたいと考える当たり、見込みがあるのは認めましょう」
あ、認めるんだ。
「しかし、だからと言って臣下として有用であるとは限りません」
んん? 風向きが変わってきたな。
というかこの流れもしかして……
「ここは私にお任せください。アユミ殿の最初の家臣として!」
「最初は私だってーの!」
それに対してすかさず反論するリューリ。
「貴殿、アユミ殿の家臣となりたくば力を示してもらおうか」
「ち、力ですか?」
フレイさんの突然の言葉に困惑するアートさん。
「然り! この私と戦ってもらおうか!」
はい、異世界人の蛮族思考来ましたーっ!
もー、何でエーフェアースの貴族ってこんなに喧嘩っ早いの!!
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