第79話 開幕、異世界ファッションショー(旅は道連れ世は情け無用)
タカムラさん達と再会した私達は、挨拶もそこそこに服屋さんに行くことになった。
途中アートと再会した事で彼女も巻き込み、お店にやってきた訳だけど……
「お客様にはこちらの配色の装備などいかがでしょう?」
「は、はひ……」
「な、なんでリアフルのフラッグショップに来てるの私……」
うん、それはタカムラさん達に私の仲間として目を付けられたからですよアートさん。
だが助けない。君には私達と共にお婆さん達の着せ替え人形になって貰うのだ。
被害は広がった方が一人当たりの総量が減るからね!
「お客様のお召し物、見たことが無いデザインですね。もしかして特注ですか?」
「ええ、そうですわ。うちのお抱えデザイナーに作らせたものですのよ」
そしてフレイさんはこの状況でも戸惑うことなく店員とお話している。
「あらー、貴方良い素材じゃないのー!」
「ど、どうも……」
で、メンバー中唯一の男性であるフレイさんに店長がキラキラとした眼差しを送る。
いや、店長だけじゃない。凛々しい騎士っぽいフレイさんに惹かれて、他のお客さん達まで熱っぽい眼差しを向けている。
「さぁ、それじゃあ着替えましょうか。おっと、貴方は採寸からね」
「い、いや私は……」
「大丈夫ですよ、さぁさぁ」
採寸の為試着室に引きずり込まれるフレイさん。
「それでは採寸をさせて頂きます」
「ええ、よろしく」
対してエーネシウさんは慣れた様子で店員さんについてゆく。
「エーネシウさんは落ち着いてますねぇ」
「わたくしはドレスの注文で慣れていますから」
「あー成る程」
そっか、貴族のお嬢様だもんね。
「ドレス、成る程それもあったね」
「作らなくても良いですからね!」
これ以上高価なモノ送ってこないでお婆ちゃん達!
「ではお客様はこちらにどうぞ」
「はわわ」
なすすべなく連れ込まれるアートと、皆がそれぞれ店員さんに腕を引かれ、試着室へと連れていかれる。
「お嬢様方もこちらでございます」
「あ、はい」
「へーい」
そして同じように試着室に連れて行かれる私とリューリ。
「こちら、お預かりしたお嬢様の装備でございます。お着替えの後今の装備はメンテナンスを兼ねて預からせて頂きます」
「えっと、代金は……」
「フルタ様より既に頂いております」
仕事が早いよお婆ちゃん。
「じゃ、じゃあ次回以降の分を……」
「そちらも頂いておりますので心配はいりませんよ」
ちょっと先回りし過ぎじゃないですかお婆ちゃーん!
「はい、こちらがリューリちゃんの分ですよ」
そう言って店員さんが差し出したのは、妖精サイズのキャリーバッグ。
それをパカっと開くと、中から小さな服が出て来た。
なんか入れ物の時点でめっちゃ気合が入ってませんかね?
「おー、ホントに私の服も作ってくれたんだ!」
対してリューリは自分の服も作って貰えた事に大はしゃぎだ。
しゃーない、代金の事は後で考えるとして、今は着替えるとするか。
「あれ? これ別の装備じゃありませんか?」
と、装備を受け取った私はそのデザインが微妙に前のものと違う事に気付く。
「いいえ、前と同じ物ですよ。ただ装備のダメージ状況をチェックしていくつか改修させてもらったんです」
「ええ!? そんな事までしてくれたんですか!?」
「こちらの装備は元々販売予定のない試作品でしたので、こうして実働データを取って貰えたのは非常にありがたいんですよ。改修は実戦データを取って貰ったお礼と思ってください。補修箇所には新素材も使っていますから、前より頑丈になっているくらいですよ」
「はわー、至れり尽くせりだなぁ」
更に店員さんはお互いに利益があるから、これからも定期的にメンテに来てくれと告げる。
「あっ、でもよっぽど切羽詰まった状況でない限り、よそのブランドのお店で補修は頼まないで貰えるとありがたいです。試作品とはいえ、ウチのハイエンドブランドですから」
しれっと高級品である事を明かす店員さん。だよね。めっちゃ堅かったもんこの服。
と、その時だった。
「うわぁぁぁっ!!」
突然フレイさんの悲鳴が店内に響き渡ったのである。
「え!? 何々!?」
一体何事かと試着室のカーテンから顔だけを出して店内を見ると、そこには半裸で試着室から飛び出したフレイさんの姿があった。
って、さすがに女の子しかいない場所でその格好はヤバ過ぎなのでは……
「って、あれ?」
顔を覆った手の隙間からフレイさんの姿を見ると、妙な違和感が。
んん? なんかフレイさんのお胸が膨らんでいるような……
それも膨らみは一つじゃなく二つある。
あれってもしかして……
「あらー、貴方女の子だったのね」
「え、ええーっ!?」
マジで!? フレイさんって女の子だったの!?
「勿体ないわね。装備……は仕方ないにしても、インナーに気を使ったり、お化粧をした方が魅力的になるわよ」
「わ、私は女である前に騎士ですから。ジーナモン家復興の為、己という個は既に捨てているのです」
お、おお、ホントに女の子なんだ。
しかもいかにも男装の麗人っぽいセリフ頂きました。
「何言ってるの! 今のご時世自分を押し殺すなんてもったいないわ! 欲しい者の為にもう一つを犠牲にするなんてナンセンス! 両方良いとこどりしちゃうくらいの勢いが無きゃ、夢なんて掴めないわよ!」
「は、はぁ」
しかしそんなお題目がオシャレ最前線な服屋の店員さんに通じる訳が無く、フレイさんが試着室の中に引きずり込まれてゆく。
「さー、サイズを測ったらお客様にバッチリ似合う冒険オシャレアイテムをガッツリ蜜黒ますよ! 勿論お化粧もです!」
「だ、だから私はぁ~! ふやぁっ!?」
「ほらほら、暴れると変なところ触っちゃいますよ。ほらほらほら」
「や、やめ、ふやぁ~!?」
うーん、大惨事。そしてフレイさんが女の子だと知ってしまったお客さん達が余りのショックにへたり込んでいる。こっちも大惨事。
「イケメンと思ったらまさかのイケジョ。これはこれであり」
「お姉様って呼んでもいいわよね?」
「寧ろ一緒にお着替えしたい」
あ、はい。立派な要治療者ですねこれは。
「店長! 例の試作装備持ってきました!」
そこにウッキウキでバックヤードから戻って来た店員さんの腕には、沢山の服が抱えられていた。
「ナイスタイミングよ。採寸で測ったサイズに問題はなかったから、そのまま来てもらってちょうだい」
「分かりました!」
店長の指示を受けて、持ってきた服ををフレイさん達の試着室に運んで行く店員さん。
そんな感じで着替えを終えると、私達は試着室を出た。
すると同じタイミングで出て来たフレイさん達と鉢合わせする。
「おおー、皆カッコいい」
試着室から出て来たフレイさん達は、これまでの衣装とは全く違う姿へと変貌していた。
「あら、ありがとうございます」
皆の装備はデザイナーが意図したものなのか、三人ともが同じ意匠の装備だった。
エーネシウさんはこの世界の女の子のスタンダードな魔法少女っぽい衣装とは違い、もっと大人びた魔女って感じの衣装だ。
それでいてエロさはなく、式典やパーティに着ていくフォーマルな衣装のイメージがある。
「はわわ、リアフルのハイエンド装備……」
対してアートさんは彼女が来ていた魔法少女風装備をベースに、やはりエーネシウさんの装備のようなフォーマル感のある装備。子供っぽさが減って、大人っぽさを感じるね。
でも魔法少女風の装備なので、完全に大人にはなり切れてない感よ。
「あ、足元が……」
で、トリはフレイさん。
フレイさんの装備はいかにもスーツ然とした礼装だ。
ただし、それは上の部分のみで、下半身はミニスカートになっていて、パンツが見えないようにスパッツを履いている。
「これは短すぎないか?」
「とてもお似合いですよ! 凛々しさと色気の高度な融合! これならどんな女の子も一撃でノックダウンですよ!」
やられるのは女の子だけで良いんです?
「素敵、皆似合ってるわよ」
全員が出て来たところで、フルタさんがニコニコと新装備の感想を口にする。
「ええ、ロイヤルガードシリーズを見事に着こなしてくれましたね」
「ロイヤルガード?」
店長の口にした妙に凄そうなワードについ反応してしまう。
「そう、この装備は主を守護する騎士達の装備をイメージしたデザインなの!」
あー成る程、言われてみれば乙女ゲーの騎士キャラとか王子キャラっぽい感じするかも。
「でも女の子用の装備なのに騎士イメージなんですか?」
「あら、女の子が騎士になってもいいじゃない。カッコいい女の子に憧れる女の子は多いわ。特に前線で戦う戦士職の子は後衛の子に比べてオシャレな格好はしづらいのが難点でね、リボンとかのヒラヒラは引っかかったりして危ないのよ」
確かに、そもそも日常生活でもヒラヒラしてる部品ってそこかしこにひっかかっちゃうもんね。
この間、というか前世でも沢山ベルトを巻いたミュージシャン風の服着たお兄さんがお店のドアノブにベルトひっかけて大変なことになってたっけ。
「でもね、それでもオシャレをしたいのが女心ってものでしょ。前衛の戦いの邪魔にならないギリギリデザインと装飾の衣装を身に纏って戦うなんて、最高に気分がアガるじゃない! オシャレなカッコいい女の子、ありでしょ?」
と言ってフレイさんに可愛くウインクをする店長。
「それは……そうかもしれませんね」
成程、この装備はフレイさんのような人にこそ使ってほしく作ったんだね。
「ありがとうございます。この装備、アユミ殿を守る為に最大限活用させて頂きます!」
いや、そこは私に拘らなくていいからね?
「うんうん、アユミちゃんのパーティの為に急いで用意させたけど、間に合って良かったわ」
「え? 何か言いましたか?」
「とっても似合ってると言ったのよ」
はて、なんか違う事言った気がしたんだけど、気のせい?
「あ、あの! 折角着せて貰ってなんなんですけど、私お金の持ち合わせが……」
そんな中、アートさんがお金が足りないからと申し訳なさそうに言葉を詰まらせる。
「ふふ、代金なんて気にしなくて良いのよ。それは貴方達に使ってもらう為に用意したものなんだから」
「ふえぇ!? そ、そんな訳にはいきませんよ! これどう見てもリアフルの新作ですよね! それもまだ世間に公表されてない奴!」
え? そうなの? 単に新商品って訳じゃなかったの?
「それにリアフルのハイエンド装備って言えば、結構なお値段の車が買えちゃう金額って聞いたことあります! しかも未発表の装備なんて、冒険配信者のトップランカーでないと配給されない超貴重品じゃないですか!」
はえー、そうなんだ。
「って、車ぁ!?」
え!? 何!? この装備ってそんなお高いの!?
「大丈夫よ。原価はそんなに高くないから」
待って待って、その原価お幾らなんです!?
販売価格がお高い車なら、その原価もかなりの金額になると思うんですけどぉ!?
「だ、だから申し訳ないんですけどこの服はすぐに着替えて……」
「あぁもう、グチグチうるさい子だねぇ!」
そこに割り込んできたのは肝っ玉母ちゃんならぬ婆ちゃんのオタケさんだった。
「この子が代金なんて気にするなって言ってんだから貰っちまえば良いんだよ! 孫の友達から金なんて貰える訳ないだろ! いいから子供は細かい事考えずに貰っちまいな!」
「孫!?」
「孫じゃないから!」
どさくさに紛れて何言ってんのオタケさん!?
「良いから貰っておきな。あんただって探索者なら配信の一つくらいやってんだろ? 高価な品を貰って気が引けるってんなら、自分の配信バズらせてブランドの宣伝に役立てて見せな!」
「っ!?」
オタケさんの言葉に何か感じるところがあったのか、アートさんが言葉を詰まらせる。
「こんなご時世なんだ、こじんまり纏まってないで、これをチャンスと前に突っ込んでいきな! アタシ等の孫娘と一緒に行きたいってんなら、そのくらいの図々しさを見せな!」
「だから孫じゃないですよ!?」
だからどさくさに紛れて孫認定するのやめて!
「わ、私は……」
「そう言う事ならわたくしもありがたく頂かせてもらいますわ」
「ふえ?」
そこに突然割り込んできたのはエーネシウさんだった。
「配信とやらは分かりませんが、この衣装の素晴らしさは戦わずともよく分かります。見た目の美しさだけではなく、体を動かした際の自由さ、使われている素材の品質、何処をとっても非の打ちようがありませんわ」
と、新しい装備をベタ褒めするエーネシウさん。
「であれば、この装備を纏ったわたくし達がダンジョンで華麗に活躍すれば、それを見た者達の言の葉が広まり、この服を作ったデザイナーの名が世に知れ渡るのは間違いなし。ええ、ただ対価を受け取るだけの取引以上の利益をあなた方にお返ししましょう。このエーネシウ=アリアールの名に懸けて!」
そう自信満々に断言するエーネシウさん。
うーん、さすが現役貴族。自分が身に着けて戦うだけで宣伝効果は凄いぞって言っちゃえるなんて自己肯定感が凄い!
「貴方も、そう思いませんこと?」
そして、チラリとアートさんに流し目を送るエーネシウさん。
ああ成る程、今のはアートさんが悩むことなく受け取れる理由を見せる為のパフォーマンスだったのか。
「……わ、分かりました」
そして二人にそこまで言われてはと、アートさんも覚悟を決めた顔になる。
「私、この装備でアユミ様を配信してみせます! 妖精のお姫様を、世界一の配信者に、配信者の姫に押し上げて見せます!」
「よく言った!」
「よく言いましたわ!」
うん? 今なんか変な結論にならなかった? ねぇ?
「やったるぞぉーっ!!」
いやだからさぁ……
「ねーねー姫様」
「んー、なにリューリ? 今ちょっと立て込んでるから……」
「どう! 私の服似合う?」
とか言って私の目の前に飛び込んでくる着替えを終えたリューリ。
「あー、うん、凄く似合ってるよ」
事実、新しい服に着替えたリューリは、これまでも布切れを被ったようなシンプルなワンピースから、お嬢様っぽさのあるフワフワしてレースもふんだんに使った可愛いワンピース姿になっていた。
「いぇーいやったー!」
そして他の子達の元に飛んで行って同じように感想を聞いて回るリューリ。
「……えっと何を言おうとしてたんだっけ?」
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