第78話 お婆ちゃん達再び(はい、友達です)

 ルドラアースに転移相としたその時、フレイさん達が私に付いてこようとしてバランスを崩し、こちらに転がってきた。


「す、すみませんアユミ殿」


「わたくしとした事が……」


「あっちゃー……」


 やってしまった。周囲の光景は今まで居たダンジョンとは明らかに違う景色。

 そう、私は二人をルドラアースに連れてきてしまったのだ。


「ん? 何かダンジョンの空気が変わったような気が」


「魔物ですの……!?」


 フレイさんの言葉にすぐさま立ち上がり周囲を見回すエーネシウさんが固まる。


「え? これは一体?」


「ダンジョンの形が……変わった?」


 周囲の景色が明らかに違うものになってしまった事に気付いた二人は困惑を隠せないでいる。


「リドターン卿!?」


「キュルト様!?」


 しかも師匠であるリドターンさん達の姿が無い事が混乱に拍車をかける。


「くっ、まさか魔物の仕業か!?」


「いえ、ダンジョンの再構築に巻き込まれた可能性がありますわ!」


 いえ、どっちでもないんですよこれが。

「しゃーない、このまま連れてくか。二人共ついてきて」


 どのみち転移するにも一日待たないといけないしね。

 私は立ち上がると、出口に向かって歩き出す。


「アユミ殿、危険です!」


「そうですわ! 状況が分からない以上、まずは落ち着いて行動の指針を決めるべきです!」


「大丈夫です。ここの事はよく知っているので」


「「は?」」


 ◆


「「は?」」


 ダンジョンから出ると、二人はさっきと同じ言葉、いや事を口から吐き出す。


「これは、どういう事だ……?」


「私達は確かにラークの町に居た筈……」


 ダンジョンを出たら異世界でした。いやダンジョンの中も異世界だったんだけどね。


「アユミ殿、これは一体!?」


「アユミ様は何をご存じなのですか!?」


 考えても答えが出てこなかった二人の問いかけが重なる。

 さて、何て答えたもんかな。異世界って言っても理解できるか怪しいし、流石にそこまで教えるにはまだ早い気もする。

 ここはリドターンさん達のように、物凄く遠い所にある国と勘違いして貰おう。


「ここはとても遠い場所にある町です。私達はダンジョンを介してここまでやって来たんです」


「「遠い場所にある町?」」


 私はスキルを使ってとても遠い場所へとやってきたと二人に説明する。


「成る程、つまりアユミ殿はスキルで遠い場所にある別のダンジョンに移動したと」


「信じられませんわ。転移のスキルだなんて聞いた事もありません」


 説明を聞いた二人は真逆の反応を見せる。

 特に魔法に精通したエーネシウさんが物凄く動揺している。


「ただこのスキルは一度使うと次に使えるようになるまで時間がかかるので、すぐには戻れません」


「「それは非常にありがたいです」」


 困惑していた二人が、転移に時間がかかると言われた瞬間目を輝かせて声を張り上げる。


「これで休める!」


「ええ! 滅多撃ちにされなくてすみますわ!」


 あ、うん。ついさっきまで四人がかりの地獄の特訓でしごかれてたもんね。

まぁ、少しくらい休みたいと思ってもバチは当たらないんじゃないかな。


「それで今はどこに向かっているのですか?」


「うん、図書館だよ」


「図書館? ではここは王都ですの?」


 図書館=王都という謎の理屈。


「いや、王都じゃないよ」


「まぁ、王都でないのに図書館があるんですの?」


「ではこの国は相当な大国なのですね」


 図書館が追うと意外にあると聞いて、二人が緊迫した表情になる。

 なんか認識のズレを感じるなぁ。まぁ良いや。

 そんな話をしている間に図書館に到着する。


「なんと巨大な!? ここはこの町の領主の屋敷ですか!?」


「それにこの建物の清潔さ。これ程の規模と高さの建築物を頻繁に清掃できる財力を持っているという事ですの!?」


 これが図書館を初めてみた異世界人の感想になります。


「いや違いますよ。ここはただの図書館ですよ」


「「これが!?」」


「一体どれほどの数の本が収蔵されているのですか!? 我が国の国立図書館を遥かに超える規模ですわよ!?」


 んー? そんなにかな?

 確かにこの町の図書館は比較的大きめだけど、国立図書館宵大きいって程じゃ……。


「あっ、そうか」


 エーネシウさんが驚いた理由が分かった。

 そもそも町の図書館って、ほかの施設と併設されてるんだよね。

 市民教室を行う為の空部屋がいくつもあるし、大きい所だと図書館のCDや映像ソフトを視聴する事の出来るスペースもある。

 あとご飯を食べる喫茶店とかね。

 つまり町の図書館って、一種の複合施設なんだ。だからエーネシウさん達が驚くような大きさになるって訳だ。


「ここは図書館以外の施設も一緒に入ってるから大きく見えるだけですよ」


「そ、そうなのですか?」


「ですわよね。流石に本だけでこれだけ大きな施設にはならないですわよね」


「そうそう」


 ◆


「「多っっっ!!」」


 図書館に入って来た二人の第一声がこれでした。


「二人共、図書館では静かにね」


「はっ、申し訳ありません!」


「お恥ずかしい所をお見せしましたわ」


 私が注意すると、二人はすぐに謝って静かになる。

 ほっ、良かった。こっちをガン見していた司書さんが視線戻してくれた。

 怒られずに済んだよ。

 まわりの人達は突然の大声にまだこっちをジロジロ見ていたけれど、すぐに興味を失って視線を本に戻す。


「じゃあ私は知り合いにあって来るから、二人はここで本でも読んで待ってて」


「いえ、私達も同行します」


 しかしフレイさん達は私に付いてくるという。

 エーネシウさんはちょっと本をチラチラと見て視線がさ迷ってるけど。


「長話になるからゆっくりしてていいですよ。二人共特訓で疲れているでしょうし」


「いえ、我々はアユミ殿の家臣です。護衛として傍に控えるのは当然の事」


 いや、家臣云々は断った筈ですけど。


「ここは安全ですから、護衛なんて必要ないですよ」


 だって図書館だしね。


「そう言う訳にはいきません。どのような場所であろうとも、貴人の護衛を放り出して良い道理はありません」


 いやだからお姫様じゃないってば私。


「どのみちここに居てもわたくし達にする事はありませんわ」


 と思ったら、さっきまで本に興味津々だったエーネシウさんまで会話に加わって来た。


「今そこの本を確認しましたが、残念なことにわたくしには読めませんでしたわ。そんな状態で取り残されたら、生殺しですわ」


 と、心底残念そうな顔を見せるエーネシウさん。

 そっかー、こっちの世界の文字はエーネシウさんには読めなかったかー。

 まぁ異世界だしね。


「あれ? でも私はどっちの本も読めたんだけど?」


 ルドラアースに転生した私はこの世界の本を何の違和感も感じることなく読む事が出来た。

 それはこの世界の風景が私が元々暮らしていた世界と同じような光景だったら、きっと文字も同じなんだろうなって無意識に納得していたからなんだけど……でもよく考えると、いかにもファンタジー世界なエーフェアースの窮極魔物大図鑑を読めたのは何でだろう?

 ルドラアースはともかく、エーフェアースの本まで読めるのは流石におかしい。


「そりゃ姫様が特別だからでしょ」


 と、妖精の小瓶から顔をのぞかせたリューリが会話に混ざって来る。


「私だから?」


「そっ。そもそも姫様は二つの世界を行き来するんだから、文字が読めなかったら面倒な事になるでしょ? だからその辺を妖精王様がなんとかしてくださったのよ」


 何でそこで妖精の王様? って思ったものの、確かに神様が何とかしてくれたのなら納得だ。


「成る程」


 そっかー、神様のお陰か。なら納得だ。


「やっぱり、アユミちゃんじゃないの」


「お?」


 突然名前を呼ばれた事に振り向くと、そこには見覚えのある人の姿があった。


「タカムラさん!」


 そう、私の錬金術の師匠であるタカムラさんとそのお仲間のお婆ちゃん達だった。


「おひさし……」


「「「「良かったわぁーっ! 元気だったのねぇー!」」」」


「うわっぷ!!」


  再開の挨拶をする間もなくもみくちゃにされる私。


「ニュースで生きているのは分かっていたけれど、あれから全然逢えなかったから心配していたのよぉ!」


「ホントだよ! 生きてたのなら連絡くらいよこしな!」


「あらあら、服も大分使い込んだわねぇ。やっぱり予備は必要ねこれは」


「じゃあいつもの店に行くとしましょうか!」


「そうね、久しぶりに会えたんだもの。店長も貴方達に会いたがっていたのよ!」


 こうして、返事らしい返事をする暇もなく、私はお婆ちゃん達に拉致されたのだった。



「あの、アユミ殿、この方達は……?」


 図書館を出てタカムラさん達に連行される私から三歩離れた位置からフレイさんが遠慮気味に訪ねてくる。


「あら? この子達はアユミちゃんの友達?」


「友っ!? とんでもない、我々は……っ!」


「あー、はい。そんなとこです」


「アユミ殿!?」


 流石に家臣希望ですとか言われると説明が面倒なので、オタケさんの言葉に雑に頷く。すると……


「「「「まぁーっ!!」」」」


 何かめっちゃ驚かれた


「う、うう、孫が初めて友達を……」


「感動だわぁ……」


 いやなんでいきなり涙ぐむの!? っていうか孫じゃないし!


「そういう事ならアンタ達も着な! 見たところ装備もボロボロだし、もうちょっとマシなもんを見繕ってやるよ! いいねフルタ!」


「ええ、勿論よ! ふふふ、アユミちゃんとは違うタイプの逸材だわぁ」


「え? あの、一体どういう……」


「「「「うふふふふっ」」」」


「「っ!?」」


 悪だくみするお婆ちゃん達に後ずさりするフレイさん達。

 悪いな、お婆ちゃん達の着せ替え人形地獄に巻き込まれて貰うぜ。

 その時だった。


「い、いたぁーっ!!」


 突然の、叫び声に何事かと振り返ると、そこにはこれまた見覚えのある姿があった。


「ホントに居たアユミ様!!」


「様?」


 え? 何で様付け?


「やっと会えたー! ホントに会えたー! ずっと探してたんですよー!」


 どうやら私のことをずっと探していたらしい。


「えっと確かアートさん、だよね?」


「っっっ!! そ、そうです! アートです! アユミ様!」


 だからなんで様付け? 前にあった時はそんな呼び方じゃなかったよね?


「おや? アンタもアユミちゃんの友達かい?」


「と、とも!? は、はい! そうです! 友達です! 親友……(希望)ですっっ!!」


 え? 私達友達だったの? 一緒に戦っただけだったと思うんだけど?

 それともこの世界の人達って、一緒の戦場で背中を預けて戦ったらもう仲間だぜって考え方のバトル脳な人達なの?


「うん、フレイさん達もそんな感じだったし多分こっちもそうなんだね」


「アユミ殿、何やら失礼な事を考えられた気がします!」

 

 いやいや、気のせいじゃなくてただの事実ですよ。


「丁度いいわ、貴方も来なさい。これで丁度数が揃うわね」


「え? 数? 何の事ですか?」


「まぁまぁ、今日は良い日ねぇ。アユミちゃんにこんなに友達が居たなんて嬉しいわぁ」


 こうして、新たな生贄を引き連れて私達は地獄の戦場へと向かうのだった……

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