第76話 押しかけ家臣と弟子入り志願(誤魔化されたのはどっちです?)
「私は人間じゃなく妖精ですから、忠誠とか捧げられても人間の貴族社会になんの影響力もないから意味ないですよ!!」
勘違いしてるフレイさんを諦めさせるため、私は自分が妖精(になった)だから何の意味もないぞと言い放った。
けれど、それを聞いた皆の反応は「何言ってんのコイツ?」みたいなリアクションだった。
「……アユミ様、その前にご自身がダンジョンを攻略した事をお忘れで?」
「え? うん、したけど?」
「ではこの国ではダンジョンを踏破し、財宝を国に捧げた物が貴族になる資格を得る事が出来る事は覚えていらっしゃいまして?」
「あー、そんな話してたねぇ」
「つまりダンジョンを攻略したアユミ様は既にこの国の貴族になる資格を有しているのです」
いや、ダンジョンをクリアした私が貴族になれるっていうのは分かるけど、それが何でフレイさんにまで関係してくるの?
「更にアユミ様は妖精の姫。つまり異種族の王族ですわ。流石に異種族の王族が我が国の貴族になる事は様々な意味で問題なので無理ですが、それがアユミ様の家臣なら話は別ですわ」
「ええと、そもそもその姫ってのが間違いで……」
「フレイさんは元々我が国の民です。そしてアユミ様が妖精の王族であることから、我が国の貴族達は妖精の国と遊戯を結ぼうと考えるでしょう。その為ならフレイさんという我が国出身の家臣対し友好の印として爵位を与える、といったこともするでしょう」
「いやだからそうじゃなくて、って爵位が友好の印!?」
何でそんなことになるの!?
「人間の貴族社会では王族や高位貴族に仕える者は同じ貴族でないといけないのです。ですから、平民は高位貴族の家臣や使用人にはなれないのですわ」
「でも妖精には関係ないんじゃないの?」
「妖精には関係なくても、人間、そして元貴族であるフレイさんには関係あります。平民のままでアユミ様の家臣になれば、フレイさんはアユミ様にふさわしくない存在と貴族達には判断されます。ですから我が国の者として恥ずかしくないように、アユミ様に仕える前から貴族だった事にして爵位を与えるといった事をするでしょう。体裁としてはアユミ様のダンジョン攻略にパーティメンバーとして同行していたという形になるでしょうね」
「ええ!? そんな爵位の与え方ってありなんですか!?」
「大有りです」
マジかよ。貴族社会結構いい加減だな。
「ですがそれは間接的にフレイさんの主であるアユミ様に貸しを作ることになり、またフレイさんに対しても祖国への恩を返すことを求められることになります」
あー、お前の部下の不手際をこっちで何とかしてやったから恩に着れよなって感じの奴かぁ。
「ご安心ください。私はそのような姑息な手段で爵位を得るつもりはありません。必ずや自らの力でダンジョンを攻略し、爵位を得てアユミ殿に相応しい者になってみせます!!」
と、フレイさんがそんな方法で貴族になるつもりはないと断言する。
うん、やる気があるのは良いんだけどね……
「そもそも私は王族でも何でもないから」
そう、エーネシウさん達の言いたいことは分かったけど、そもそも前提からして間違ってるんですよね。
というか自力で爵位を獲得するつもりなら何で私の家臣になりたいのさ。
「よし、話は分かったわ!」
けれどそこにリューリが割って入る。
「アンタの決意は分かったわ! 姫様の家臣になりたいだなんて、なかなか見る目があるじゃない!」
「おお、分かって貰えたか!」
「こら待て、勝手に話を進めるなってーの!」
私は話を進めようとしたリューリをひっ捕まえてその暴走を止める。
「まーまー、この子達の気持ちも汲んであげなよ姫様。命の恩人の役に立ちたいだなんて泣かせるじゃない」
「そこに洒落にならない勘違いがあるから不味いんだって」
このままフレイさんが勘違いした勢いで家臣になりでもしたら、後であいつは貴族でも何でもないただの妖精の家臣になった勘違い野郎だなんて悪評がたって大変でしょ!
あと最悪私がフレイさんによくもだましたなーって逆恨みされる恐れだってある。
だから違うって理解してほしいのに、さっきから皆聞いてくれないから正直泣きたい。
「わーかってるって。でもさ、この話は姫様にとって悪い話じゃないよ」
「何がさ」
「姫様の目的の為には、仲間が必要でしょ?」
「それは……」
確かに私が女神様に頼まれた使命は、一人で成し遂げるのは難しい。
これまでも一人で行動してきたからこそ命の危険に晒された事は一度や二度じゃない。
中にはリューリがいてくれたから何とかなったことだって多い。
「でも二人はまだ子供だよ」
実力があると言っても子供の割にはってレベルだ。
私の使命であるダンジョン攻略に巻き込むには危険すぎる。
「それだけどさ、この二人は私が見た所、ダンジョンに慣れてきた新人冒険者くらいには強いよ。長年ダンジョンに潜る人間達を見て来た私が言うんだから間違いないって!」
リューリの言う事だからどこまで信用できるか怪しいけど、元々ダンジョンに住んでいた妖精という事を考えると、多少は信用できるのかな?
「でさ、子供って事はまだまだ強くなる余地があるって事でしょ? 下手に年取った半端に強いオッサン達よりも、才能のある子供を一から育てた方が遥かに強くなると思うんだけど?」
つまり英才教育って事か。
確かにそれならダンジョン攻略の為の効率的な教育が出来て間違いなく強くなれるだろうけど……、それは言い換えれば私の目的の為に二人の人生を捻じ曲げる事に他ならない。利用するって事だ。
人として、それは流石にどうかど思うんだよね。
「アユミ殿、宜しいか?」
私が悩んでいると、フレイさんが言葉を発する。
「アユミ殿は私達を巻き込む事を躊躇っているようだが、それは逆だ。寧ろ巻き込んでほしいのだ」
「いやでも、私達の目的は危険ですから」
「だからこそだ。我々は強くなりたい。それこそ高難易度のダンジョンを踏破できる程に」
「高難易度のダンジョンをですか?」
「ええ、先ほどはアユミ様にはダンジョンを攻略した事で貴族になる資格を得たと言いましたが、それはあくまで候補に挙がるという意味ですわ。他にもダンジョンを攻略した者が複数いた場合、より国にとって有益な財宝を提供した者が新たな貴族に選ばれるのです」
「あっ、つまり」
エーネシウさんの説明に私は理解する。
「そう、難易度の高いダンジョンの方がより価値のある財宝を得られる可能性が高い。そしてより難易度の高いダンジョンを攻略できる者の方が、領地を守る貴族として相応しいと誰もが認めてくれるという訳です」
「だからさ、あの子達としては巻き込まれて危ない目に遭うくらいのダンジョンの方がありがたいって訳。それならあの子達だけで危ない目に遭わせるよりも、私達が監督して鍛えてあげた方がお互いに利益になるって訳よ」
つまり、今私が断ったとしても。彼女達は自分達の目的の為により危険なダンジョンに挑み続ける可能性が高い。
そうなると彼女達は今度こそ死んでしまう可能性だってある。だから仲間にした方が安心できるって事か。
「それに、さっきみたいにダンジョン強盗に襲われるかもしれないしねー」
「「うぐっ」」
リューリの言葉に痛い所を突かれた二人が揃ってうめき声をあげる。
「な、情けない話ですがその通りです……」
「せめて真っ当なパーティを組めていたら逃げることくらいは出来ましたものね……」
ああうん、二人は同年代に比べれば優秀だけど、それ故にリロシタンのダンジョンでは浮いていたみたいだからねぇ。喧嘩ばっかしてたのも仲間が出来なかった理由だろうけど。
でもそうか。フレイさんは再び貴族の地位を取り戻したいから、ダンジョンを攻略する実力が欲しい。だから強くなれるチャンスがあるならそれを掴みたいと考えるのは当然か。
「あれ? でも我々って、もしかしてエーネシウさんも同行するつもりなんですか?」
ふと私はフレイさんの我々という言葉に疑問を感じる。
「ええ、その通りですわ。わたくしもアユミ様の仲間に、そしていずれは家臣になりたいと考えておりますの」
ちょっ、エーネシウさんまでかー!
「エーネシウさんは必要ないでしょ!? もう貴族なんだし」
けれどエーネシウさんは首をゆっくり、ちょっぴり優雅さを感じさせる振る舞いで横に振る。
「そんな事はありませんわ。確かにわたくしは貴族ですが、貴族には領地を守る義務がありますの。それはすなわち、有事の際は自らが戦場に立って外敵を打ち払える実力が必要とされますの」
ああ、そういえばこの世界の貴族って魔物の大発生とかが起きたら自力で領地を守らないといけないんだっけ。
その辺り、漫画とかに出てくるような部下にだけ戦わせて自分は戦わないような貴族と違ってシビアだよね。
「それにわたくしは家を継ぐ立場にありませんし、誰とも知れぬ相手の所に輿入れするくらいなら、自分の家を立ち上げた方が遥かに建設的ですわ」
「え? 何か言いました?」
「いえ、何も」
そう? 何か言ったような気がしたんだけど。
「という訳で我々にとってもアユミ殿と共に戦う事は利益となるのです。寧ろ我々の方が足手まといになる可能性が高いので、図々しい願いだとは思うのですが……」
「ですがわたくし達もいつまでも子供のままではありませんわ! 必ず力をつけてアユミ様を支える事が出来るようになります! ですから、わたくし達の将来に投資するつもりで仲間に加えていただけませんか?」
わずかにへこみそうになったフレイさんの言葉を繋げて、エーネシウさんが自分達を売り込んでくる。
むぅ、どうしたもんかなぁ。
確かに二人はきっと強くなると思うけど、危険な戦いに巻き込んだら強くなる前に死んじゃう危険だってあるんだよ。
「ねぇねぇ、姫様」
逡巡する私にリューリがまた耳打ちしてくる。今度は何を言ってくる気だ?
「あのさ、別にずーっと一緒にいる必要はないと思うよ」
「え? それってどういう事?」
「だからさ、姫様としてはあの二人を犠牲にするのが嫌なんでしょ? でも断って知らない所で死なれても後味が悪い。違う?」
「う、うん」
その通りです。我ながら自分勝手だと思うけどね。
「だったらさ、あの二人がある程度育って、これならもう一人でも大丈夫って思ったら別れればいいんだよ」
「え? そんなのあり?」
幾らなんでも薄情過ぎない?
「そんな事ないって。それにあの子達も実力がついて自分が姫様の足手まといになるって判断できるようになったら、邪魔になっちゃいけないって自分から離れていくよ」
自分と周りの実力を正しく把握できるようになればそうなるかもしれないけど、そんな漫画のキャラみたいに実力差ってはっきり分かるのかなぁ?
あとそれはそれで寂しいような気が。
「何より、ウチにはあのお爺ちゃん達がいるじゃん!」
「リドターンさん達の事?」
そこでリドターンさん達の名前まで出てきて困惑してしまう。
「そう! あのお爺ちゃん達に預けておけば、あの子達もバリバリ強くなるってもんよ!」
あ、そっか、私の仲間になるって事は、彼女達も自動的にお爺さん達の弟子になるって事だもんね。
確かにリドターンさん達が鍛えてくれるのなら、彼女達は今以上に強くなれるだろう。
少なくとも私の仲間になってただ一緒に戦うよりは確実に強くなれる。
「つまりさ、姫様を窓口にしてあの子達をお爺ちゃん達に預けて強くしてもらうの。弟子入りの口利きって奴よ」
ほうほう、成る程ね。
「どう? あの二人を今のまま武者修行させるよりは、遥かに安全に目の届くところに置いておけるよ」
むむむ、それなら確か安心できるよね。ただなぁ……
「アンタ達、本気で姫様の家臣になりたいのなら、まずは師匠のじーちゃん達にビシバシ鍛えてもらうことになるかんね!」
「アユミ殿の師匠?」
「そのような方の教えを受ける事が出来ますの!?」
私が考えている間に、リューリが二人に今の話をしだす。
「ちょっと待った! その家臣問題がまだ解決してないんだけど」
そうだよ! それが一番問題なんだよ!
「だーいじょうぶだって。あの子達も強いお爺ちゃん達に弟子入りしてシゴかれればそれどころじゃくなって忘れちゃうって。それに強くなれば、自力でダンジョンをクリアできるようになるからどのみち問題は解決よ。それでもまだ覚えてたら、師匠を紹介した恩を盾に断ればいいんだって!」
そんな上手くいくかなぁ?
あー、でもフレイさんが上手いこと貴族になれば、領主の仕事が忙しくなってそれどころじゃなくなる可能性だってあるか。
「まぁ分かったよ。でも流石にリドターンさん達に許可を取らないと駄目だね。私達が勝手に決めて良い事じゃない」
「そだね。じゃあさっそく聞きに行こっか! ……まぁ姫様がおねだりすれば二つ返事で許可してくれると思うけど」
「なんか言った?」
「なーんにも! さ、行こっ!」
◆
「そこのお嬢さん達を弟子に? まぁ構わないが」
リドターンさん達の泊まる宿にやってきた私達は、酒盛りをしていた彼らに事情を話すと、二人を弟子入りさせてもらえないかと尋ねた。
その結果、
「良いのではないですか?」
「ええぞ」
「良いんじゃないのか?」
あっさりと全員からOKの返事が返ってきたのだった。
「二つ返事っ!」
「やったー!」
流石にあっさり過ぎない!?
「え、ええと、迷惑じゃないんですか? いきなり知り合いを弟子にしてほしいだなんて」
「別に問題はない。我々は気楽に冒険者をしている身だからな」
「そうですね。寧ろアユミさんの仲間を育てる事は良い事だと思いますよ。リューリさんも良い判断かと」
「でっしょーっ!」
「ふむ、剣士と魔法使いか。では儂とストット、リドターンとスレイオに分かれて重点的に育てるとするか」
「だな」
なんかみるみる合間に話が進んでゆくんですけど……
「しかし丁度良かったの」
「ですね」
え? 丁度って何が?
「サンプルは多い方が良い、特に子供なら育成度合いの比較に丁度良いからの」
「「「え?」」」
何か妙に不穏な発言が飛び出しませんでしたか?
「お前達、あまり子供達が不安になる様な物言いをするな」
「リドターンさん!」
良かった、まともな大人が居たよ!
「もっと穏便に、新しい修行法の比検体が来てくれてよかったくらいに言い直しておけ」
「全然穏便じゃなかったぁぁぁぁぁ!」
この人達に修行を任せて本当に大丈夫だったの!?
っていうか、私この人達の弟子のままでホントにいいの!?
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